第26話 エピローグ・後半戦

その言葉は世界中に響き渡った。

痩せた土地が肥え、木々が活力を取り戻した。

麦の穂は揺れ、黄金に染め上げられた。

風はざわめき、海の魚が踊る。


誰もが彼女の豊穣を願う言葉を聞き、そして世界が彼女の言葉に応えたことを知った。



「どんな手札を持ってたか知らないけどさ。

 こっちは私というジョーカー持ちのファイブカードだ。

 どんなに頑張ったって勝てっこなしだよ」

「そうか。ならば、私の役割はここまでか」


「役割」といったかこの男。

悪役がこの手の台詞のあと、なにかするとしたら一つしかない!


「管理者権限/アドミン! ビリアン、自殺禁」


ブシュっという鈍い音が響き、ビリアンはあっけなく首をかっ切り、その生命を捨てた。

……流石にこれはどうしようもない。

神様がなんとかできるできないと言う前に、人の生死にまで干渉しちゃ、多分ダメだろう。

ましてこの場はまだ全国民が見てるんだ。下手なことはできない。


「それでいいよ。みやちゃん。

 これで私達の役割はおしまい。お別れの時間だよ」

「管理者権限。国民への生中継は終了」


周囲に舞っていた緑色の光は完全に消えた。

これで生中継状態は終わったのだろう。


「さて、そこにいる関係者の方々、なにか言い残」

「逆臣共を捕えろ。これはウーディア王子の命令である!」

「えっと、一木?」

「これ以上ミヤビに迷惑はかけない。

 ここから先の世界は俺たちがなんとかしなくちゃいけないんだからな」


ま、それもそうか。

周囲の兵士たちも状況を理解したのか、宰相と思われる服を着た人たちを捕縛していく。


「えーと、なんて言ったもんかな」

「ミヤビさん、短い時間でしたが、ありがとうございました。

 このご恩は、一生忘れません」


二条くん……


「楽しかったぜ、ミヤビちゃん。 

 できればもっと遊びたかったけど……生きてる世界が違うんだ。

 しゃーないよな」


三崎……


「……何をしている! さっさと行け!」


一木……のこのセリフはどっち宛だ? 宰相たちを捕らえた衛兵への命令とも取れるセリフだ。

無言で送られるってのも癪だから、今のは私宛のセリフ、としてもらっておくよ。


「んじゃみんな、さよなら! また会おうね!」


ひーちゃんの口元が釣り上がる。

ねぇ、なんで別れ際にそんな顔するの? 一木がまた怯えるぞ?


……まぁ、「また」なんてありえないのはわかっちゃいるんだけど、さ。


「管理者権限/アドミン、私達を元の世界に」


緑色の光が私達を包み、そこで私の意識は再び途切れた。

目がさめたときには、三人の王子様と過ごした思い出のある部屋の天井が、広がっていた。


「あー、虚無感ってやつだよね、これ」

「うん。予定通りかな」


ひーちゃんはすっくと立ち上がると、ぱたぱたとスカートの裾を払う。

何事もなかったかのような、そんな態度だ。

だが、三人と三週間くらいを一緒に、賑やかに過ごした私は……


「みやちゃん、おめでとう。

 これでしばらくヒモ生活は続きそうだよ?」

「ひーちゃん、何いってんの。

 王子様達はもういない。私もひーちゃんも元の暮らしに……ってあれ?」


ちょっと待った。

確か神様(仮)と出会ったときはいきなりこの部屋に転移していたはず。

元の世界に戻ることを願った私はなぜまだこの部屋にいるんだ!?


「予定通り「また会おう」って言っちゃったねぇ。みやちゃん」


……立ち上がり棚を見ると、そこには例のあの本が。

そして別れ際、「また会おう」と、たしかに私はそういった。

「管理者権限/アドミン」が消えたかどうだかも確認しないうちに。


「ま、まさか」


「ぐすっ……ミヤビ!? ちょっと待て、一体何が起こった!?」

一木、こっちを向かなかったと思ったら、何だよ泣いてたのかお前。


「うわあぁぁぁぁぁん……って、ミヤビ、さん?」

二条くんもか……うむ。初対面のとき同様の小動物キャラは健在だね。


「あー、どうしろってんだこれ。

 お別れじゃなかったのかよ、ミヤビちゃん」

三崎は多分あの言葉、もしくはひーちゃんの笑顔に気づいていたんだろう。

ま、単に「直感眼」の力かもしれないけどさ。


「それじゃあ考えうる中のベストエンド到着を祝して、みやちゃんから一言!」


ちょっと待てひーちゃん、私に振るのか!

多分諸悪の根源で一番言葉を出しづらいこの私に!


「ゴ、ゴメンネ♪」


ダメだァァァァ!! 明らかに場違いなセリフしか出てこなかったァァァァ!!!



こうして私達の生活はまだまだ続いていく。

王子様たちはこちらの世界と行き来をする中でさらにこっちの世界になじんでいく。

そして……


現在の王子達は、こっちの世界に馴染みすぎていた。


「ミヤビ、ポテチ切れた」

「ミヤビさん、このリモコンが急に動かなくなったんですが……」

「チャンミヤ? 外に遊びに行かな~い?」


「一木はお菓子箱あっち、二条くんはあとでやるからそこ置いといて、三崎はとっとと自分の置かれている状況を理解しろ!!」


「「「え~?」」」


「ここはお前らの住んでた世界とは違うんだよぉぉぉぉ!!!」


神様経由で届いた王子帰還を求める書簡の必死さを知っている私は思わず叫んでしまった。

お前らもうちょっと頻繁に帰ってやれよ……と呆れながらも、私はこの生活を今も楽しんでいる。

はぁ、電池切らしてるから買いに行かなきゃ……


-FIN-

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