第24.5話 エピローグ、のちょっと前の話
さて、時間はちょっと戻って世界の境界線に五人でやってきたとき。
自分の持ち物を確認しているひーちゃんに早々にバトンタッチだ。
「それじゃあひーちゃん、後はよろしく」
「おっけー。それじゃあ神様、私のことはもうご存知かと思いますので端的に言いますね。
あなたの制限された力を解放しますから、私達に協力してくれませんか?」
またいきなり切り込んだな……だが、神様(仮)は今回はうろたえたりしていない。
この落ち着き様はまさに全知全能、神様って感じの態度だ。
「可能だというのですか?
私に与えられた不正な指示を白紙に戻すことが」
「ええ。可能です。この力を以て、あなたの力を解放することを誓いましょう」
「指示を白紙に?
これまで詳しく聞いてなかったけど、そもそも神様は指示を与えられる側なの?」
なにか言っていることが違うような気がして首をひねる私。
神様はどちらかって言うと指示を与えるとか、天啓を与えるとかそっちじゃないの?
「では、今からその儀式を執り行います」
「ねぇ、嘘だよね? なんてひーちゃん修正テープなんて取り出してるの?
まさかこの本にビッてやろうとかしてないよね!?」
「えーと、紙の強度は大丈夫だから、慎重にやればいっか」
ビッ、と無慈悲な音が響いて、例のフレーズはこんな感じに修正された。
『神は鎖に縛られた。それによって人間は自由を手に入れたのだ』
『神 によって人間は自由を手に入れたのだ』
「……こんなのって、アリ?」
「みやちゃん、神様は言葉が定義するものなんだよ」
「だからって古書に市販の修正テープやるやつがどこにいるんだよ!
ほら、神様(仮)だってめっちゃ苦しんで……苦しんで?」
頭を抱えてる神様とかあんまり見ないけど実際見るとなんとも複雑……
え、もしかしてマジで今の修正テープの影響を受けてらっしゃる?
「それじゃ種明かし。
みやちゃん、この書物はいわば神様が何をやるかが書かれてるものなんだよ」
「神様に対する指示を出す魔法の道具ってこと?」
「これを道具として人が作ったものかどうかはわからないんだけどね~
ただ、この本に書かれたことが実際にループしてそうっていうのはわかるよ」
そう言われて中身の解説を受けると、たしかにここに書かれている内容はループしてそうだ。
なぜならそこには「10年間の四季折々の自然」が描かれていたからだ。
「つ、つまり、向こうの世界では10年周期でこの自然環境がループしているってこと?」
「あの場に居てくれた一木くんが物知りで助かったよ~
正確な記録はないけど、自然環境って面ではこのループが劣化して続いてたらしいんだもん」
「へー、って「劣化」ってどゆこと?」
ひーちゃんはその疑問に、さきほど修正テープが引かれた本の最後のページを開いた。
「『神は鎖に縛られた』、つまり神様は何もできなくなっていたの。
実際、土地に豊穣をもたらしてきた10年周期のリズムが最近になって狂い出したんだって。
ほら、この文字だけインクのシミ方が他のページとは違うでしょ?」
「確かに。つまり、その時期に何者かがこのページに書き足した?」
古書に修正テープも大概だが、まさかそのまま書き込むバカがいるとはね……
「けど、それで不具合も起こったの。
それが『人間は自由を手に入れたのだ』ってフレーズ。
神様への指示書なのに、そこに「人間は」って書くなんておバカな人も居たもんだよね~」
その記載にさらに修正テープ使ったお前が言うな案件ではあるが、それもそうか。
「だから神様はこの指示の解釈を考えた。
この指示を実現するためには、神様の指示を受ける人間じゃない「人間」
つまり外の世界の「人間」が、神様と同様の自由を手に入れなくちゃいけない。
そのためには外の世界にこの指示書を移動させ、そこの「人間」に指示を受けなければならない。
移動した先の世界では、みやちゃんが最初にこの本を開いて神様にアクセスした「人間」だった。
だから、みやちゃんは必然的に「管理者権限/アドミン」を持つことになった」
「はい?」
「つまりみやちゃんはこの神様に命令できる権限を持たされてたってことだよ~。
当然、その世界に属する人間である王子様達はそれに従うしかないよね~」
ってことは、管理者権限/アドミンって神様を通して世界そのものに対して命令できる権限だったってこと!?
てっきり王子達三人への指示権限だと思って油断してたけど、私なにかマズイ指示してなかっただろうな!?
「あれ、そういえばひーちゃん、完全に元に戻すならさっきのフレーズ全部消せば良くない?」
「それじゃあ管理者権限が消えてループに戻るだけ。
この数年間で失ったものが取り戻せそうにないし、
黒幕さんに対抗できる切り札がなくなっちゃうでしょ~」
ひーちゃん、アンタ事後処理にまで神様使い倒すつもりかい。
「敵の手札が尽きて感情に訴える演説が始まったらこう言うんだよ?
世界の土地を豊かに、人々に豊かな富を与え給え~ ってね」
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