第23話 王子様達とキャンプ

「三人全員が楽しめる遊び」の発掘は難航を極めた。

だが、その過程で私はある間違いに気づいた。

新しい平等な経験=三人の長所を避けた遊びを、という発想がそもそも問題である。

全員の強みをまとめてフルに発揮できる環境、という発想で、私の頭に電流が走り、決行日になった。


自然を観察したい一木。流れを把握できる二条。直感で最善の答えを探せる三崎。

そのすべての長所を発揮できる遊びといえば。


「そうだ、野営ごっこをしよう」

「野営、ですか?」

「こっちの言葉ではキャンプっていうんだ。

 テントを組み立ててお魚やお肉を焼いて、喰らう!

 夜空を楽しんだらみんなで川の字になって寝て、翌日は朝から自然を満喫ってやつ」

「……それ、楽しいのか?」


怪訝そうな顔でこちらを見る一木。

気持ちはわからんではないが、とりあえず答えておこう。


「野営って聞くとあれかもだけど、楽しいよ?

 それに、三つの魔眼の能力フル活用すればもっと楽しくなるだろうし」

「ふ~ん。まぁ、ミヤビちゃんが言うなら楽しいんでしょ」

「俺もそこについては信頼してるぞ。だが一つ確認だ。

 その手間のかかりそうな遊びの説明をしているここはどこだ?」


うむ、鋭い質問だ。

ちなみに私たちは現在関東某所のキャンプ場に来ている。

遠くの川のせせらぎ、鳥の声、そして設営前のキャンプグッズ一式。

三人とも状況は理解しているはずだから、答えではなく理由を答えてあげよう。


「サプライズって嬉しくない?」

「これは事前説明が必要なことじゃねぇのかよぉぉ!!」


うん、一木ナイスツッコミ!

多分設営も自分たちでやるって言ったら渋る人もいるだろうからね!

何も知らせずにつれてきたってわけさ。




とりあえず必要な機材は揃っているとのことで、まずはテントを張るところからスタートだ。

だが、この場にテント、というか現代式のテントの設営経験があるやつは居ない。


「ミヤビ、お前も未経験なのかよ……」

「私は文化系だからね。ってことでまずは三崎の出番だよ」

「俺? けど、一体何を見ればいいの?」


ふっふっふ。その質問は計算の内よ。

君の「直感眼」には今日はフルに働いてもらうっ!


「オーダーは、明日爽やかに朝を迎えられるテントの場所、だよ。

 そこらへん見渡して適当なポイントを指示してくれたまえ」

「……あそこらへんかな。

 なんか適度に木陰なのがいい感じっぽい」


三崎が指定したのは気がまばらに茂ったちょうど間にあるスペース。

見るとすでにいくつか穴が空いているようなので、使われているスポットなのだろう。


「んじゃ次は一木と二条くん。設営マニュアルはこれだからやってみて」

「はい!」

「おう……ミヤビは?」

「指揮官役。三人で手が足りなくなったら呼ぶがいいよ」

「……わかった」


というか、私が介入すると逆に厄介なことになりそうなので自重してるだけだ。

なぜなら。


「えっと、このパーツはこういう感じで使うのか……」

「一木くん、まずは内側のテントを張るみたいだけど」

「それはこのパーツだ。二条、次の指示をくれるか? 

 三崎は位置が決まったらペグ?ってものを打ち込んでくれ」

「へーい」


計画通り。三人揃えば文殊の知恵ってわけではないが、

何もわからないところから三人協力して物事に取り組む、というのは絆を強めるイベントの王道だ。

それが魔眼持ちという便利能力者で役割分担もできるとあれば使わない手はない。


そんなわけでサクッと設営完了。

次は管理所にお昼ごはんの食材を買いに行こう。


「と、言うわけでこれが今日のお昼ごはんだよ!」

「「「おぉー」」」


あらかじめ手配してあった食材の数々は後は焼くだけ、という状態になっている。

庶民思考で忘れがちだけど、国家予算がバックにあるとこういうときリッチになれていいよね!


「で、これは焼けば良いのか?」

「さっき組み立てたコンロってやつでね。

 ちなみに魔法を使おうなんてズルは認めません」

「チッ……ん?」


というかコンロに直接魔法で火をつけたら大事故になるからね。

それに、こっちの文明に触れるチャンスでもあるだろうし、こっち基準で進めてもらいます。

ところで一木、何故に君は私の後ろを見ているんだい?


「なぁ、そこの姉ちゃん? 俺たちと一緒に遊ぼうぜ~?」


見るとそこには筋肉モリモリマッチョマンが三人。

顔から足まで筋肉質でゴリッゴリな方々が私に色目を使っている。


「そんなナヨナヨした男どもより、俺たちのほうがかっこいいだろ?」


まぁ、王子達が細身に見えるのはわからんでもない。

だが残念ながら私、度が過ぎた筋肉萌えには興味ないんですよね。

しかし、歴戦の戦士もびっくりの筋肉量の彼らは、実験するにはちょうどいいかもしれない。


「……せっかくだから実験するか」

「実験? ああ、俺たちがどれだけのベンチプレスを上げられるかとか?」

「一木、二条、三崎、管理者権限/アドミン。

 魔法の使用を許可するから、やりすぎない範囲でコイツら100m以上退散させられる?

 てか、おおっぴらに魔法使ってるとこ見てみたい」


実は三崎以外の魔法っぽいものまだ見ていなかったのを思い出したので。

ほら、もうすぐ三人は元の世界に帰っちゃうわけだし、せっかくだから見ておきたいなーと。


「「……今更!?」」


うん。絶対そのリアクション来ると思った。

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