第22話 軍師・ひーちゃん
意気消沈して喫茶店を出た私達。だが、自宅は私に安息をくれないようである。
さて、玄関に女物の靴が一つありますね。
「ひーちゃん、来てるんだね……早すぎるよ……」
「そ、そこまで危ない人なんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、さ……ほら、文化の差のショックってあるじゃん……」
こりゃ日を改めるべきだったか……? けどひーちゃんにも早めに話を通しておきたかったしなー。
「雅さん、あんまり思いつめないでくださいね。
これはあくまで僕たちの世界の事情ですから……」
「残念だけどそりゃ無理だ。やるって決めたらとことんやるのが私の主義なんでね」
「……ありがとうございます」
うぅ、二条くんの屈託のない笑顔が目に染みる……
……しかしちょっと状況がおかしい。ひーちゃんがすでに暴れているとしたら、あまりに静か過ぎる。
とりあえず、中に入るか。
「ただいまー」
「おかえり、みやちゃん。
それで、一木くん、この絵になにか意味はあるの?」
「ああ。これはこっちの世界の神様の絵だ。
実際儀式のときに姿が見えたから、おそらく本物だろうな」
あれ、状況がずいぶんと落ち着いてる。
しかもひーちゃんは眼鏡をしている……久々に見る本気モードだ。
というかこの雰囲気は異世界考察真っ最中ってとこかな?
「ひーちゃん、ちょっと旗色悪いニュースがあるんだけど」
「紙にまとめておいて。後で見るから。
この最後に書かれた文章、なんて読むの?」
「ああ。えっと、『神は鎖に縛られた。それによって人間は自由を手に入れたのだ』」
「挿絵の神様には鎖なんてなかったけどね……ふ~ん」
どうやらひーちゃんはすべてのきっかけとなったあの本について考察をしているらしい。
……そういえばすっかりインテリアに落ち着いてたねその本。
「ど、どうしましょうか。
一木くんとひーちゃん? さんは忙しそうですし」
「そういえば三崎の姿もないね。
一体どこに……」
「ミヤビちゃん、こっち……」
そちらを見ると、部屋の隅で身をかがめて怯える三崎の姿が。
「BL、嫌だ、あの観察眼、嫌だ……
嫌な予感がするからって、「直感眼」使わなきゃよかった……」
三崎……残念ながらそれはどうしようもないのだよ。
君は深淵を覗き込んでしまったのだ。
そして十分後、一通り本を読み終わった二人と私たちは床に輪になって話を始めた。
「ふぅん、王子様暗殺計画、か。
彦爺さんの読みもすごいなぁ」
「そのリアクション、ひーちゃんも気づいてたクチ?」
「うん。細かく分けたうちのパターン8くらいかな~」
パターン8って、そんなに展開のパターンを考えてたのか。
自分の仕事に支障が出ていなければ
「二人の王子様のデザインもそれぞれ15パターンくらい考えてたんだけどね」
私の思惑をよそにつやつやにっこりと笑うひーちゃん……逆に仕事の助けになってそうで何より。
それと三崎、彼女は確かに腐だけどTPOはわきまえてるからあんまり怯えすぎなくていいんだよ。
「もし三人暗殺が目的だとすれば帰ったあとの振る舞いが大事になるよね。
結果を出すこと、閣僚の思惑をきっちり把握して物証揃えて暴露することは必須」
まぁ、そんな感じになりますよね。
現在「ゲーム/対人戦」の修行をしている二条くんはオッケーとして……
「どうしても進捗が遅い一木と、課題が不明瞭な三崎に具体的な成果を持って帰らせる、ってのが課題か」
「違うよ」
バッサリと否定される私。そういえば昔はこんなやり取りしてたっけなぁ……
入稿間際の火事場のクソ力でなんとかした記憶が蘇るよ。
それを無視してひーちゃんは
「それは「魔眼の活用」の結果だから、言ってしまえば向こうの手のひらの上でしかない。
だから、いくつか盤面をひっくり返す方法を考えてるの」
「相変わらずだねぇ……」
ルールの中じゃなくてルールをひっくり返す、かぁ。流石設定厨。
やったと聞いた覚えはないけど、TRPGとかめっちゃ強そうなイメージの発想だね。
「とは言え大体そこはオッケーだから、みやちゃんにはみやちゃんのお仕事をしてもらいたいな」
「……へ? 今なんと言いましたかひーちゃん」
「あとは神様って人にいくつか確認してくれればオッケーってところまでは考えたから、
三人をなかよくすることに専念してってこと」
意思決定までが速すぎない? まぁ、私がうんうん唸るよりはひーちゃんを信じたほうが早いか。
「ところでそれってどんな手段なの?」
「みやちゃん、相手が儀式に干渉できるってことはみやちゃんの動向をこっそり見られてる可能性もあるってことだよ。奇策は結果を出す最後の瞬間までは軍師の頭の中にあればいいの」
それもそうか。神様(仮)は心を読むことができる。
「盤面をひっくり返す」前提なら、最悪神様(仮)すらも敵に回す可能性がある。
つまり、私が全体像を知っていることそのものがリスクなわけだ。
「それじゃあ私はこれでおいとましよっかな」
「ありがとうね、ひーちゃん」
「お礼なんていいよ。それじゃまた一緒にイベント出ようね~」
「……そうだね。せっかく良いネタが供給されたことだし!」
「うん!」
ひーちゃんには心配させちゃってたのかな……うん。なんか久々に爽やかな気分だ。
ところで私の最後の言葉を聞いて後ろでビクついてる王子達。
察しが良いのはわかるが君たちを危険な方向にはしないから安心してくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます