第21話 黒幕の描いた絵

さて、神様(仮)からもらったとんでも情報を、私は包み隠さず王子様達に伝えました。

当然彼らは混乱し、怒り、あるいは達観するなどそれぞれのリアクションをしてくれたが。


「あー、今のうちにできる限り怒っておくといいよ。

 その代わり、その怒りはこの後の展開に不要なんで、一通り終わって覚悟決まったら声かけて」


と怒りにガソリンをかけようとしたら。


「……いや、今の言葉で頭が冷えた。

 二条、三崎、いけるか?」

「はい。大丈夫です」

「ああ」


どうやらガソリンのつもりが氷水をぶっかけてしまったようだ。

逆効果を悔やむのも無駄of無駄なので、話を進めることにしよう。


「神様の見立てだと残り時間は2週間程度。

 なので、計画の進捗を爆速にするため、これまで関わってきた人たちに協力を要請する」

「関わってきた人? あの女二人組にも?」

「誰が連絡とるかあんなヤツ。正確には一木と二条くんが関わった二人……

 彦爺とひーちゃんのことだね」


彦爺はおそらく二条くんの「器」をすでに見定めているだろうし、

ひーちゃんにはすでに大半の内容をバラしている。

あの二人相手であればもう少し詳しいことをバラしても問題はないだろう。


「ひーちゃんは聞けば飛んでくるはずだから、私は彦爺のところに行くのが先決か。

 二条くん、今日は一緒に碁会所行くよ」

「はい!」


お、二条くんの顔から喜びが見てとれる。

喜べるだけの心の余裕があるってのは良いことだ。


「一木と三崎はここで待機。

 ひーちゃんには午後来てもらおうと思ってるけど、

 フライングする可能性は否定できないからね」

「あ、ああ……」

「一木、ひーちゃんって誰?」

「……説明できないが、BLというものをやってるそうだ」

「マジか……」


おいこらそこの二人。BLってだけでそこまで派手に凹むんじゃないよ。

それを言ったら私だってその分野には一枚噛んでるんだから。


「それじゃあ早速出発しようか。

 二条くん、準備できてる?」

「もちろんです!」


どうやら二条くんは必要なものは都度リュックに整理しているらしく、すでに準備万端のようだ。

私もここで生活始めてからは漫画買う余力もなかったから部屋は前ほど荒れてないなぁ……


「それじゃ、行きましょう!」


っと、昔のことより今は今のことだ。

私は二条くんを連れて、彦爺のいる碁会所へ向かうのだった。



と、いうわけで碁会所で彦爺を拉致した私たちは近くの和風の喫茶店に来ていた。

目の前にはみたらし団子と緑茶。何か時代劇みたいな雰囲気の中、

私は一通りのことを彦爺に話したのであった。


「なるほどなぁ。二条くんもずいぶん苦労をしているようだ」


緑茶をすする彦爺は一番この場所に似合ってるね。

真剣な眼を向ける二条くんが次点。私は一番落ち着いてないから最下位ってとこかな。


「私としては人生経験の長い彦爺に、なにかアドバイスもらえないかなーって」

「おいおい、政治の話なんざ俺にはわからねぇよ。

 雅ちゃんは具体的に何を聞きたい?」


わからないとか言っておきながら話を聞いてくれるあたり、やはり彦爺もお人好し。信頼できる人間だ。


「私達の敵を見定める方法、かな。

 神様(仮)の情報だけだと正直どの国が戦争を仕掛けようとしている黒幕か読めない。

 もちろん彦爺にもわからないのは承知だけど……」

「雅ちゃん、誰かが敵、じゃなくて「全員が敵」ってことも考えときな?」

「はい?」


全員? どういうことだ?

緑茶を置くと、彦爺は私達に真剣な目線を向ける。


「一人の王子様が消失して拮抗が崩れ、戦争状態になってその国が潰れるかもしれねぇ、

 ってのはたしかにありえるが、俺ならその手は使わねぇよ。

 三国連合ってからには民衆に少なからず味方意識があるはずだ。

 それを無視するのは危険だからな」

「もし彦爺ならどう考えますか?」

「……そうさな。無責任に世界から逃げた王家・ひいては王制を潰すってのはどうだ?」


え、彦爺の顔色から本気で言っているんだろうけど、それをやって状況はどうなるんだ?

「全員が敵」と考えるってどういう……


「僕たちの敵は特定の二ヵ国ではなく「三国の閣僚」ってことですね?」

「……雅ちゃんの負けだな。こっちの世界でもあっただろ?

 王様の権力を奪うって事例が」

「おぉ。そういえば」


私の頭で設定考察のために読まされた世界史の教科書の内容が一瞬フラッシュバックして消えた。

ええっと、君主制じゃなくて共和制?てことになるのかな。

そうなると王様や王子の権力が奪われるわけで……


「だが、こういった話にはたいてい犠牲と不正がつきものだ。

 王様派と閣僚派ですったもんだがあるのは確定で、権力を得た閣僚が私腹を肥やすまではあるだろうな」

「でも、神様(仮)はそんな事言ってなかったはず……」

「神様ってのが世界全員の人の心の奥底まで見えるとは限らねぇだろ」


それもそうだ。もし神様(仮)が私の心の奥底まで完全に読んでいたなら、私の言動に驚くこともないはずか。


「俺が絵を描くなら、王子のうち数人を消し、無責任な王制を三国まるごと廃する過程で私腹を肥やす。

 だが、それと同時にもう少し欲をかく計画も立てるだろうな」

「それが、現状ですね?

 僕たち三人の王子を全員消して、短期間のうちに政治を乗っ取る」


冷静に話を進める二人だけど……これってものすごくマズイよね!?

これじゃあ異国の知識ゲットとか関係ない、自殺に見せかけた王子暗殺計画じゃないか!


「そもそもだ。なんで誰が世界を渡るかを確定させないで儀式ってのを始めた?

 なぜ三人の王子全員を同席させた? そして、なぜ今更儀式を「妨害」している?

 儀式が「妨害」された結果、こっちとあっちで何が起こる?」


「妨害」。そういえば神様(仮)はそう言っていて、私はそれを強制送還までの時間の短縮と捉えた。

だが、制限時間を短くされ、無自覚でもそれをオーバーした場合、王子達は帰れなくなると考えられる。

もし閣僚の狙いが「強制送還」ではなく「送還不能」だとすれば……そっちだろう。


「あー、私馬鹿だ。なんでそこ聞いてないんだよ……」

「この場合はどいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。

 おそらくそこまで読んでなかったであろう神様も、確認しなかった雅ちゃんも、

 思惑にまんまとはまった王子様もな……」


彦爺はそこで話を切り、「こっから先は嬢ちゃんの領分だ」とばかりにお茶代を置いて出ていった。

さぁて、ここまで風呂敷が広がるのは想定外も良いところだ。

一体、私は何をどうすれば良いんだ?

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