第20話 タイムリミット

状況を整理しよう。というか整理した情報をください神様(仮)。

儀式を始めたウィル・メイガの人が儀式を妨害しているってどういうことよ?


「ウィル・メイガでの王子達の扱いについてはあなたも知ってのとおりです。

 彼らは「魔眼使い」として政争・紛争の道具になっていました」

「それはわかるよ? 

 けど儀式をしたってからには、それを一時的に失うことも想定内だったんじゃないの?」

「彼らは三人のうち誰か一人が世界を渡ると思っていました。

 ですが結果的には三人全員が転生を成功させてしまった。

 それが彼らにとっての誤算でした」


目を伏せながら話す神様(仮)。だがもったいぶらずに結論を教えて欲しいんだよね。

三人が同時に消えたってことはパワーバランスはそこまで変わらないはず。

むしろその問題が消えたのだから万々歳のはずだろうに。


「……平たく言えば、この儀式の真の目的は三人の王子のうち「誰か一人だけ」を抹消し、

 三国の均衡を崩すことだった、と私は考えています」

「はぃ?」


なんだそれは。つまりあれか?

儀式が成功して一人が帰ってくる保証のない異世界転生をする。

その後、帰ってこないことを前提に残りの二国で王国連合を崩そうって画策したやつがいるってこと?


「そういうことです」

「ふざけんな! 自分たちでとりあえずは平和な世界を崩そうってか?

 そんなことして何になるっていうんですかね!?」

「あなたなら、理解できるはずです。戦争が技術発展と成長を急速に進めるという事実を」


確かにそれも一理あるよ?

インターネットも元は軍事技術。保存食もたぶんそんな感じからスタートしたのだろう。

だが、それでも私は平和な世界をあえて戦乱に叩き込むようなことは望まないし、考えたくもない。


「んで、「三人の異世界転生」には意味がないから一旦王子達にはお戻り願おうってこと?」

「おそらくは。そして、王子のうちいずれかを……」


なるほどね。その儀式がどれだけ一般に公開されているかは知らないけど、

閉鎖的な環境で行われているのであれば口封じ処理でまあ同じ感じの成果が得られるというわけだ。


「……神様(仮)、私に何を望む?」

「今の方針で構いません。

 王子達が戻ってきたとき、「王」として協調体制を取るために役立つことをしてくれれば」


うむ、了解。神様(仮)まで戦争狂いじゃなかったのはありがたい。

だがしかし。もう一つ必要な情報が揃ってないんだよね。


「儀式を維持できるタイムリミットは?」

「不明です。今の調子なら3月末までは保つでしょうが、それ以降はなんとも」

「そこを曖昧にされるのは一番つらいんですけど」


しかしずいぶん都合がいい話だ。

私の学校、4月スタートだからそこからは自由に動けなくなる。

そこまでになんとか王としてやっていけるよう彼らを育てろってことか。


「さて、連絡事項は以上かな?」

「ええ。それと、儀式の妨害の件は」

「内密にしません」

「え”」


言うと思ったよ。王子達には真実に向き合ってもらわないと困るだろうに、

その連絡を延長するってのは愚策でしょう。


「王子達は今お互いリラックスして向き合えてる。

 多分なかよしこよしを望むのであれば伝えないほうが良いんでしょうけど」

「ですから」

「けどそこに絆の強さを求めるのであれば、今のうちに覚悟決めてもらわないと困る。

 時間があと2週間ちょいしかないんだ。伝える時期なんか待ってられない。それに……」


王子達は、きっと耐えられるくらいには強いよ。

ということで、とりあえず、不敵に笑ってみる。


「そう、ですか」

「それと、当初とはちょっと状況が変わりすぎてる。

 今までは王子達に接触する人を少なくするよう努めてたけど、今後は関係者に色々バラすからよろしく」


とりあえずひーちゃんとの連携は必須である。

彼女であればルールの小さな隙間をついて状況をひっくり返す妙案を考えつくはずなので、

ぜひとも巻き込んで入れ知恵してもらいたい。


あと、政治の実務経験者が知り合いにいれば立ち回り方とか参考になるのかもしれないけど……

とにかく計画を適度に急がないと間に合わない。


さて、どうするか……


「王子達のことを、よろしくお願いします。

 あなたがあの本を開いてくれて、本当に良かった」

「お礼言うなら一年後くらいにしてくださいよ。

 まだ私は何の「結果」も出しちゃいないんだから」

「そうですか。では、私はこれにて」


お疲れ、神様(仮)。

とりあえず妨害工作はそっちでなんとかしててくれ。


そして頑張れ私。真実を伝えた後この一日をどう乗り切るかが山場だぞ。

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