第12話 そうだ、お寺に行こう
と、言うわけで私は近くの由緒ある神社にやってきた。
「おいミヤビ、この建物に「解析眼」使えば良いのか?」
「うん。じっくり見るといいよ。
それで理由もわかるだろうから」
軍事技術をご所望だったろうけど、こっちの宮大工の技術も大概オーバーテクノロジー。
多分これを持ち帰ることでそっちの世界の木工技術は大幅に向上するぞ。
「……は? これ、何?」
「これが昔の日本人の業の集合、オーバーテクノロジーの集合体ってやつよ」
「むちゃくちゃ緻密だ。寸分の狂いもなく、木材が継ぎ合わされてる」
うむうむ。いい感じに感動してもらえて私も鼻が高いよ。
と思っていたのもつかの間。
「で、これはどうやれば作れるんだ!?」
「……えっと、「解析眼」でなんとかならない?」
「構造はわかったが、こんなに精密さが必要な加工はこっちじゃ無理だぞ。
少なくとも加工に使う工具とかが必要だし」
……Oh。オーバーテクノロジー。
そんなわけで、古き良き木工を求め神社にやってきたのはいいものの、
日本人のオーバーテクノロジーには太刀打ちできず。私の思惑は完全に空振りに終わったのであった。
「ちっくしょー。建築分野とか確実にお役立ち技術なのになー。
「解析眼」意外と扱いにくいじゃないかぁ……」
「そ、っか」
鈍いリアクションにやぶ蛇の予感。過去に似たようなことを言われてたならこれ以上突っ込むのは……
「昔もそんなこと言われてさ」
「って自分から言うんかい」
「聞いてくれないのか?」
聞けと言われれば聞くけど。
しかし一木のイケメンフェイス、切なげな顔でも絵になるなぁ。
「「解析眼」でできるのは、すでに作られた物の設計図を起こすことだけなんだ。
作られたってことは、もうそれを作る技術がすでにあるってことだろ」
「そうなるね。図面引かずに建物建てるってのも不自然だし」
「「理解眼」と「直感眼」は先が見えるが、その意味では俺の「解析眼」は過去しか見ることができない」
言ってることはわからんでもない。そして、私はそれに対して何もしてあげられない。
なぜなら、現代技術は「解析眼」で設計を見るだけではどうにもならないのだ。
素材、理論、インフラ、製造技術等の先人の知恵があって今があるのだから、
それをこっちにいる間に、一木ひとりに全部突っ込むのは無理だ。
「あれ? もしかしてみやちゃんかな?」
と、思考がぐるぐるしている間に後ろから声がかけられる。
この癒し系ゆるふわボイス、聞き間違えるわけもない。
「ひーちゃん!? 偶然だねぇ!」
「やっぱりみやちゃんだ! ひっさしぶり~」
「ミヤビ、この人は?」
「寺沢ひかり。私の同級生だよ……って、あ」
久々に遭遇した旧友は私の隣の赤髪イケメンに注目している。
これは、ちょっとまずいことになったかもしれない。なぜなら。
「みやちゃんが噂の「王子様のホームステイ先」だったんだぁ。
言ってくれれば取材に行ったのに~」
「だから言わなかったんだよ。そもそもひーちゃんのジャンルは王子様達も拒否反応示してるから来んな」
「モチーフにするだけだし、そもそもバレなきゃ問題にならないんだよ?」
相変わらずの察しの良さでニッコリ笑うひーちゃんに、思わず冷や汗をかく私。
さぁて、これで彼女を一木に紹介する難易度が急上昇したぞ。
「ミヤビ、こいつはなんだ。明らかに俺を見る目がおかしいんだが」
そして一木もことのおかしさに気づいたようだが、興味を持つのは悪手なんだよなぁ。
うん。逃げ場なし。仕方がない。全部バラすか……
「寺沢ひかり。私の同級生にして、高校時代の私の相棒だった現学生漫画家。
君たちが拒否反応を示した「BL」を専門に書く腐女子と呼ばれる部類の人間だ」
一木、私の背に隠れるなよ、男だろう。
まぁ、男だからこそ彼女の観察眼を怖がるのは無理もないが。
「うーん、飼い主の後ろに隠れるワンちゃんみたいでかわいいねぇ。
メモがないのは残念だけど、しっかり目に焼き付けておくよ~」
「やめなさい」
「あうっ」
あー、このやり取りも懐かしいな。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
一木のために早々にここから撤退する言い訳を考え……待てよ?
「ひーちゃん、せっかくだから君の知恵を借りたい」
「なぁに?」
「中世ファンタジー世界に現代の技術を持ち込むならどんなのが良いんだろう」
「……ふぅん。そういうことか。
それじゃあ最初にいちばん重要なことを確認するけど」
いちばん重要なこと?
「それって本当に「ステレオタイプな中世ファンタジー」世界なの?」
「……はい?」
……言っている意味を理解するまで五秒。
「……一木、ちょっとひーちゃんと一緒にカフェ入るぞ」
「何ィ!?」
ああそうだよ。それが一番重要だ。なんて私はバカで猪突猛進なんだ。
「相手の世界の文明レベル」をはっきりさせないうちに技術の立案なんかできるわけないだろうが!
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