第10話 「王子様達の憂鬱」なんて知ったことか!

諸君、私だ。風間雅だ。

どうやら私は超巨大なトラウマスイッチを勢い良く踏み抜いてしまったようだ。

この先私がどうなっても、心配しないでほしい。

ただ、覚えていてくれればそれで……


「……説明していいか?」

「あ、はいどうぞ」


とまあ関係ない妄想をしている場合ではない。

今後色々進めていくに当たり王子様達の事情をしっかりと聞く必要がある。

まして今は王子様達から真相が聞ける大チャンス。

気合を入れて聞かねばなるまい!


「まず、俺たち三人はウィル・メイガ王国連合という、

 大陸でも力の強い三国連合の王子という立場だ」

「けど、ぶっちゃけると、今の俺たちの世界では「王様」ってのは身分でしかないんだ。

 実際に政治をやるのは下の閣僚達だね」


まぁ、連合も王様が神輿だってのもそれはそれでアリだよね。次いってみよう。


「これまでは争いごともそこまで多くなく、俺たちの国も対立していなかった。

 だが、俺たち三人が揃って魔眼という伝説級の能力を手に入れてしまったことで、

 閣僚たちの態度が変化してきた」


どうやら王子様達の世界でも魔眼はレアな能力のようだ。

しかし三人揃って魔眼持ちとは、ずいぶんな偶然か、あるいは神様のご都合主義だなぁ。


「もし他の国が「魔眼」を使って攻めてきたらどうするか。

 もしくは二国で残りの一つを攻めたらどうするか。

 そういう思想が出てきたことで、それぞれが疑心暗鬼になり始めた」


過ぎたる力は人を狂わせるものってのは変わらないか。次。


「結果的に俺たち「王子」は、名誉職以上に、魔眼をアピールする必要が出てきたのさ。

 こんな魔眼はこんな力で国に貢献します。敵国の脅威から守りますってね」

「つまり俺たちは魔眼を使う道具であり、敵国への威嚇のための兵器になったわけだ。

 ……二条が泣いているのは自分がある意味で人殺しの道具だというぶっ壊されたからだろうな」

「うん、事情は把握したよ。

 流石ワタクシ異世界人 。常識クラッシャーの役回りはどこでも不変ってことか」


確かにそんな状況だったら魔眼の使い道が限定されても仕方がない。

むしろ「内側/自分たち」にその力の矛先が向くなんて考えたくもないだろう。


「もう、大丈夫です……」

「あ、二条くん復活した? ごめんね。無自覚にトラウマスイッチ踏み抜くの私の悪い癖なんだよね」

「いや、癖で居直るのは違うだろ」


一木よ、ネタに対してその正論は心に刺さるからあんまり言わないで。

と、とりあえずはさっきの続きを話しきっておこう。

半端にするの、ヨクナイ。


「えーと、とりあえずこれからの内政の話をしよう。

 こっから先は二条くん個人の問題じゃないから二人も聞いてね」

「言われるまでもない」


よし、とりあえず大丈夫そうだ。


「内部で疑心暗鬼が起こってるなら、やっぱり誰かがリーダーシップを取った方がいい。

 けど王様は名誉職だし、君たち三人は魔眼使いとしか見られていない。

 なら必要なものは「実績」だ」

「実績……」


三人ともピンときてないな。

正直私の貧相なイメージでどこまでやれるかは分からないが……

うなれ、私の妄想力!


「例えば国内の汚職や会計不正をバラしてみるとか」

「はい?」

「い、いい感じの技術が他の国の協力なしでは作れない状況を作るとか」

「何……?」

「三崎の「直感眼」は……えーと、ほら、あれ、そう!

 国単位以上の干ばつを事前に予報するとか!」

「え?」


正直苦しいのはわかってる。だがこれが私の限界……

というか、「直感眼」についてはまだ私も全容を把握してないからこれくらいが限度!

そしてそこの三人! 取り急ぎ誰か何かまともなコメントをしろ!


「確かに、できなくはない……」

「資源の偏りを利用すれば……」

「うん、十分やれるね!」


よっし好印象! 何か三人からの好感度が上がった気がする!


「そこで実績を稼いでから王様になって政治ができるようになれば、

 ……なんかいい感じのなにかになりそうな気がしない?」


よし、とりあえず言いたいことは言った……

……言った後、十秒経過。あれ、ここで黙るの?


「ハハッ、いい感じと来たか!」


と思っていると、何故か一木が笑い出した。


「いや、直前に具体策出してからの「いい感じ」ってのに驚いたんだ。

 なんだよその曖昧なの」

「やかましい! そこは三人の頭の中にしかないでしょうが!

 むしろ今の段階で具体的になってたら苦労せんわ!」

「確かにそうだが……いや、そうだな」

「そこからは俺たち三人の仕事ってことだよね?」


そりゃ当然。私には政治の実戦経験なんてないからね。

曲がりなりにも関われる立場の人の頭の中なんてわかりませんって。

しかし素人考えではあるが、三人の顔には活力が戻ったようだ。

そして最初に復活したのは一木。がたんと勢いよく立ち上がって曰く。


「とにかくミヤビ、アンタが良いやつだってのはわかった!

 二条の次は俺を鍛えてくれ!」

「おおっと待った。まだ二条の話は終わってないよー?」

「え? もう私の話は終わったよ?」


っと、三崎がそれをインターセプト。

しかし、終わっていない? こっちの話は全部終わったし、二条くんもいい感じに納得してるよね?

なにか私が忘れていること……


「管理者権限/アドミン命令で、二条が立ち直れなかったらミヤビちゃんを殴るってことになってたじゃん。

 あれ、解除しとかないとマズイんじゃない?」

「ああ、それもそうか……って、できるのそれ?」

「条件が来るまでは有効だと思うけど、まぁ一回指示に従えばなんとかなるんじゃない?

 ちょうどいいことに二条は今へたり込んでるし」

「……えーと、つまり?」

「一発殴る♪」

「まてやこらぁ! こっちは別に悪いこと」


ポン。


「は?」

「俺は殴ったつもりだからこれでオッケー♪」


……うむ、殴るモーションから突然の頭ポンをやらかすとは恐れ入った。

相手が私じゃなかったら一気に真っ赤になっているところだよ。

しかも眼前の金髪イケメンは普通にイケメンだし。


「あれ? ノーリアクション?」


予想通りに意図があってのことだったか。

よろしい、ならば有罪/ギルティだ。


「喜べお前ら、今日の夕食は苦くて辛ーいピーマンフェスだ。

 三崎は特別仕様で唐辛子マシマシにしてやるから覚悟しろ」

「なぁっ!? 食事で報復するのひどくない!?

 てか、今の状況俺にドキッとしてくれても良いんじゃないかなぁ!?」


明らかな色仕掛けに手を伸ばすほど私がうぶだと思ったか?

こちとら漫画と絵でお前らみたいなイケメンには耐性できてんだよ。妄想勢なめんな。


「ちょっと三崎くん!? 抜け駆け!? 抜け駆けしたよね今!?」

「二条くんも唐辛子はお好きかい? 違うなら黙っていたほうが身のためだよ」

「ヒィッ!?」

「お、おい、俺の話は」

「以下略」

「あしらい方が雑すぎんだろ!?」


こうして二条くんに「ゲーム」という最初の一歩を提案した私だったが、

さすがにこの展開は想定外過ぎる……


若干火照って赤くなった頬を隠すため、私は身を翻して風呂場に向かうのだった。


ちなみに今夜のメニューは無難にピーマンの肉詰め(デスソース等なし)になりましたとさ。

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