第9話 王子様側の事情

新しい朝が来た。希望の朝だ。

というわけで全員揃って朝食を終えた。服の工面を忘れていたので今日のうちに買っておかねば。

さて、昨日のダメージを多少なりとも引きずってるかもしれない二条くんとお話……したかったんだけどなぁ。


「昨日の約束、守ってもらいますよ。

 「理解眼」の対処法、教えてください」


確かに私は一日弱さを噛みしめて休めとは言ったよ?

けど流石に一晩で体力だけじゃなくて気合まで完全回復しちゃってるの想定外なんですけど。

ちなみに一木は昨日の私達三人の会話は知らないようで、

二条くんの変化にかなり驚いているようだ。

ちなみに三崎も顔には出さないようにしてるけどかなり驚いている。


「えーと、「理解眼」は単純な相手には強いけど、戦術を複数持つ玄人には弱い。

 しかし玄人に対応するために「理解眼」を使い続けるにはスタミナが必要で現実的じゃない。

 昨日はこんな話をしました」

「はい」

「ちょっと待て、俺がいない間にアンタそんな話してたのか!?」

「一木はしばらく黙っててね。

 今は昨日出した課題の回答編なんだから」

「一木くん、静かにお願いします」


うむ。これくらいの強気じゃないと王子様やってられないよね。

それじゃあ回答編に移るとしよう。


「ここまでのいろいろを考えると、「理解眼」の強みは最適ルートを理解することだけじゃない。

 というか、「理解眼」の最大の強みはその理解のスピードだと思う」

「スピード、ですか」

「実際そうでしょ。昨日のゲームで二条くんは「参りました」って言ったけど、

 勝ち目がないことに気づかず、最後まで戦うケースなんていくらでもあるよ。

 二条くんが降参したのって「理解眼」が「もう勝てない」ことを教えてくれたってことでしょ?」

「はい」

「最低限の情報で確実な決着へのルートを導き出すってとんでもない強みだよ。

 相手に先んじるってのは基本的に強いから」


そう。彦爺との対局において、二条くんは自分の戦術の諦めと対応がとにかく早かったのだ。

私は囲碁そのものはかじった程度だからなんとも言えないけど、

彦爺がちょくちょく楽しげな表情をしていたことは見逃さなかった。

最後の「参りました」を受けたときの笑顔が最たるもの。

「無駄な勝負をしなかった」という意味での称賛の笑みと言えるだろう。


「そう考えると、戦場の変化のタイミングに合わせて「理解眼」を使うのが良いと思う。

 そのためには「理解眼」の使用回数を減らさなくちゃならない。つまり?」

「僕自身の判断の比率を増やすってことですね?」

「正解。じゃあそのために必要なことは?」


少し考えた二条くんは、数秒で的確な答えを出した。


「僕自身が戦いに通ずること、「対人戦/ゲーム」に慣れ「理解眼」の使い所を判断することですね?」

「すばらしい。ところで、最初に私は「ゲームを学ぶ」って言ったけど、

 今あれについて思うことはある?」

「僕が今言ってない事があるんですか?」

「そ。私は「囲碁を学べ」とは言ってない、ってのがヒントで、

 これは今時間をかけて悩んでも答えが出ないと思ってる」


二条くんには知識が足りてないはずなので、正直これは答えが出るとは思えない無理ゲーだ。

だが、彼にはそれを補える「切り札」がある。


「……ゲームには様々な種類があり、必要なスキルもそれぞれ違う。

 経済、軍事、場を盛り上げる……それぞれに適したゲームとスキルが有る」

「そーいうこと。スピードの重要性も「理解」して実感できた?」

「ええ、しっかりと」


うむ、「ゲームを学ぶ」という文章に意味があることがわかればその理由を理解できるのは想定通り。

それはさておき「理解眼」に頼らざるをえない状況の判別ができれば、遠慮なく「理解眼」を使うことができる。

つまり、無駄に悩んでエネルギーや時間を浪費する心配がないというメリットが生まれるのだ。


「目標はこれを内政に使えるくらいまで使いこなすことだね」

「内政に、ですか?」

「何も戦う作戦を立てるだけが「理解眼」じゃないでしょ?

 「戦わずして勝つ」にはむしろ内側との戦いの方が大事だ……って え?」

「……戦わずして、勝つ……」


え、なんで二条くん泣いてるの!? アヒルずわりでへたり込むとか腐が喜ぶ、って違う違う。

おかしいな。ここはそこまで強烈な話ではないはず。

考えられるとしたらトラウマスイッチに引っかかったくらいだが……

と、三崎と一木がこっちを見ている。ということはこの三人に関係がある……?


「……どーやら、もう少しマジメに俺たちのこと知ってもらったほうがいいみたいだね」

「え? 何? どういうこと? 私なにかやらかした?」

「いや、むしろ良い影響を与えたはずだ。

 三崎、だからこそお前は「知ってもらう」ことを選んだんだろう?」

「そーいうこと」


そういえば王子様達の事情をあんまり聞かないうちにスタートしちゃったんだった。

うーん、基礎的なところを忘れるとはなんということでしょう。


「俺たちは将来の王になる王子だ。

 だが、それ以上に国のために動く「道具」でなければならない」

「現状の俺たちの一番の価値は「魔眼を役立てる」ことで「為政者になる」ことじゃないんだよね~」


んん? つまり?


「君たち王子なのに、政治の能力求められてなかったり?」


……二人の雰囲気がわかりやすく沈む。

ヤバい。どうやら私は三人に共通するトラウマスイッチを踏み抜いたようだ。

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