第6話 さぁ、ゲームの時間だ
とりあえずは「理解眼」持ちの二条くんにゲームの勉強を提案してみたが、
それを聞いた二条くんはどこか訝しげな表情をしている。
「ゲーム、といいますと?」
「そっちの世界にもなにかないの?
コマを動かして陣地を取るとか、カードを使って点数を競うとかいうの」
「うーん、いくつかありますけど、正直あまりやったことは……」
なるほど。王子達の生活がどんなもんかは想像の域を出ないが、ゲームをやったことがないとはもったいない。
あれは楽しいだけのものではないというのに。
「じゃあ、領土争いとかで自軍をどう動かすか、相手軍がどう攻めてくるかをゲームっぽく考えることは?」
「それはあります。一木くんや三崎くんのところとも小競り合いがないわけじゃないですし、
そもそもモンスター相手の争いもあります」
おそらくなかよし三人が小競り合いというのもツッコミどころだが、今はスルーだ。
「うん。想像通りで助かるよ」
「あの、今の話とゲームを学ぶことには関係があるんですか?」
「もちろん。今のこの世界には「戦略シミュレーションゲーム」ってジャンルのゲームが有る。
そこまでいかなくても戦術戦略を考える上でゲームが利用されたことは色々あるっぽいし」
「軍事が、ゲームですか」
まぁ、二条くんがそれに嫌悪感を持つのはわからんではない。
私だってそういうゲームを最初に遊んだときは同じ印象を持っていただろう。
「人の命を軽視している」と。
「考えても見てよ。
実戦だけで軍事を学ぶってそもそも非効率なんだよ。
実際の戦いでは実際の人の命がかかってるから下手なことはできないけど、
机の上だけでできるゲームなら、それを何回でも試すことができる」
「ですが、それで実際の相手の思考を反映した結果が出るとは……」
「確かにそうかも。そもそも「理解眼」があれば最善のルートは理解できちゃうわけだし」
「なら!」
「二条くんだけは、ね」
その言葉に一瞬言葉を失う二条くん。どうやら過去に私の想像通りのことがあったのだろう。
きっと彼にとってはトラウマだろうからあんまり掘り返したくないけど、言ってみよう。
「他の魔眼もそうだろうけど、天賦の才能で導かれた結果はたいてい他の一般人には理解できない。
理解できない戦術に従えって言われて、兵士が納得して全力出せるとは限らない。
味方の思考がそこでズレて、「理解眼」で見た結果がズレないとも限らないよね?」
「……そうです」
納得ではなく同意、つまり味方がポカして理解眼の道筋に従わなかったケースが有ったってことか。
……きっついなぁ。この王子達、多分私と同年代だろうに。
「だからこそ、ゲームを通して「理解眼」の判断を二条くん自身が理解する必要があると思うよ。
それこそ、兵士に確信を持って、わかりやすく説明できるレベルまでね。
実際の命をかけたゲームはこっちにはないけど、本気でゲームにのめり込んでるひとと戦えば、
二条くんの訓練には十分な経験になる」
さて、とりあえずさっきの「そうですね」で「理解眼」の限界は見えた。
「理解眼」で何がどう見えるのかはわからないけど、それで得られるのは「最善の道」だけ。
つまり、何かしらのアクシデントを想定しない最善ルートのみってことだ。
そこからずれたときすぐにルートを修正するには当然ルートの意味・意義を理解しておく必要がある。
「……分かりました。そういうことならしばらく「理解眼」は使わないほうが良いですよね」
「いやいや、図書館ではむしろガンガン使っちゃってよ」
「はい?」
うーん、この答えが来るってことは、「理解眼」に対する私の理解が甘かったか……?
それともなにか別の話があるのか。
「ですが、「理解眼」でゲームを知ってしまってはミヤビさんの言う理解の勉強にはならないのでは……」
「あぁ、そっち? 大丈夫大丈夫。
こっちの世界のゲーマーはルールと定石知っただけで勝てるほど甘い相手じゃないから」
「そう、ですか」
どうやら「理解眼」を使うだけでゲームなど攻略できると考えてたようだ。
……うーん、これは図書館とあそこの順序入れ替えるべきかなぁ。
実戦見てもらったほうが勉強にも熱が入りそうな予感がするし。
「なぁ、ミヤビ。
こっちの世界のゲームって一体何なんだ?
正直具体的になにかもわからないものについていくら話し合っても二条は納得しないと思うんだが」
「そうだね。じゃあ、計画変更して、これからあるゲームの戦場に行こっか」
「「戦場!?」」
いやいや、だから命をかけるゲームじゃないんだってば。
そこまで気負いなさんな。
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