#9 限りなくオタクに近いギャルー


「ん……」


 カーテンから差し込む日光が暖かい。

 彰人が目を覚ます頃には、すっかり朝になっていた。

 どうやら、ソファの上で寝ていたらしい。


 それより、ここはどこだ? 

 どうして、こんなところで寝ていたんだ?

 昨晩の記憶が曖昧だ。上手く思い出せない。

 ワイバーンを倒して、それから私は……。

 

「おっはー」


 染めた金髪がやんちゃな、セーラー服の少女が手を振る。

 誰だこの娘は? としばらく戸惑う彰人だったが、彼女が昨晩のワイバーン退治の協力者であることを思い出すと、態度を改めた。「昨晩は、どうも。助かりました」。深々と頭を下げて感謝を告げると、それをからかうように「律儀だねーオジサン」と彼女は笑った。


「お、おはよう……ございます。影原さん」


 それから遅れて、美千代が挨拶する。

 どういうわけか、いつも以上に視線が泳いでいる様子。

 壁の後ろに隠れながら、チラチラと彰人の方を見ている。

 なにやら、恥ずかしそうに。


 とにかく、二人とも無事なようで何よりだ。

 彰人はソファから起き上がり、自らの首元に手を伸ばす。そして、緩んだネクタイをキュッと締める……って、あれ? おかしいな? わきわきと動かす手のひらは、虚空を掴んでいる。


 彰人にとって、ネクタイを締める行為というのは重要なもので、いわばスイッチの役割を果たしている。ネクタイを締めることで、やる気が出るのだ。


「服、脱がせといたよん」


 そう言って少女は、意地悪な笑みにピースを添えた。

 

「……なんじゃこりゃあ!?」


 ここでようやく彰人は、自分がパンイチであることに気がついた。トランクス一枚を残して、他はすっぽんぽん。近所のジムで適度に鍛えたこの身体に自信はあるが、それでも恥ずかしい。……なんで、服を脱がされてるんだ? まったく、どういうつもりなんだ。ま、まさか……。


「弄ぶつもりですか。この私を……!」

「ぷっ、ウケる。めっちゃいいリアクションするじゃん。47点」

「勝手に点数をつけないでいただきたい」

「ちなみに平均点は85です。ざんねんでした。落第ケッテイでーす」

「面白みのない人間だと自覚してますが……不服、ですね。おかげで、嫌なことを思い出しましたよ。宴会の席で、やりたくもない一発芸を披露させられたとき……。よほど、つまらなかったんでしょうね。上司、部下、同僚たちの、私を見るあの冷ややかな目。思い出すだけで吐き気がします……」

「なにそれ、かわいそう。13点あげちゃう。よかったね」

「それでも赤点ギリギリなんですけど……」

「もっと欲しいの? いやしいなぁ」

「……もう結構です。それより、服を脱がした理由を聞かせてください」

「スーツ着たまま寝たらシワになるじゃん?」

「あー……」

「気が利くでしょ?」


 とりあえず納得したが、だからってTシャツまで剥ぎ取る必要はないよなと思った。

 

「あ、あの、影原さん! これ、どうぞ……!」


 彰人の裸体を見ないように、視線を反らしながら美千代が服を手渡す。スーツには一切のシワがなく、綺麗に折りたたまれていた。それを受け取る際に「影原さん。聞いてください」と、美千代が耳打ちしてきた。


「どうしました?」

「実在してたんです。この目で見るまで、信じてなかったんですけどっ!」

「モンスターが、ですか?」

「オ、オタクに優しいギャルです!」

「オタクに優しい、ギャル?」

「ご存じと思いますけど……私みたいな、オタク、とか、陰気な人に対する風当たりって……強いじゃないですか? そんな私たちにも優しく接してくれるギャル。それが、オタクに優しいギャル、なんです。私たち日陰者を照らす、希望の星、なんです……!」

「それが、あの子というわけですか? その、希望の星が?」

「は、はい!」


 それって、単純に誰にでも優しいだけなのでは? 

 正確には、オタクに“も”優しいギャルなのでは?

 でも、そんなこと言ったら落ち込むかもしれないので黙っておく。

 無知は罪であり、幸せでもある。

 彰人はそれを骨の髄まで理解していた。

 彼女のために、余計なことは言わないでおこう。


「あ、あの子。あ、名前は、暖乃ちゃんって言うんですけど。で、のんちゃんって、ほんとに良い子なんですよ。あ、そうそう、のんちゃんって言うのは暖乃ちゃんのあだ名で………」

「それはよかったですね」

「あと、ああ見えて案外オタク気質みたいで……。これ、のんちゃんが持ってるやつなんですけど。初めて見たとき、ホントびっくりしました。なにがスゴイかっていうと、これ実は初回限定盤で……」


 熱く語る美千代の手には、DVDケース。

 作品名は、『ミリタリーシスターズ』。ジャケットのデザインから判断するに、可愛い女の子が登場する、いわゆる萌え系アニメのようだ。迷彩服とボディーアーマーに身を包んだ女の子たちが銃を構えている姿が、シュールである。それと、パッケージの端に『成人指定』と記載されているような気がするのは、なにかの間違いだと思いたい。


「ミリシスの魅力はですね、可愛い女の子たちが、銃器を持ってリアルな戦場を駆けまわるギャップにあるんですよ。特に戦車の動きが凝っていて、大きなエンジン音、車両の揺れ具合、砲塔の回転にこう……なんといったらいいんでしょうか……そう、リアルな“重み”があるんです! それに」

「萌えアニメとしての出来も最高なんだけどさ、それ以上に戦争ドラマとしての魅力も最高なんだよねー! ウチも初見はマジでびっくりしちゃってさー、このアニメ、めっちゃ死人出るんだよね。しかもドラマチックな感じじゃなくて、これがもう、あっさり死んじゃうんだ。地雷踏んで、ドッカーン! って感じで」

 

 このアニメ作品が成人指定である理由を垣間見た気がした……。

 それにしても、この暖乃という少女、なかなかオタク寄りの感性を持っているようだ。部屋の内装に目を向けてみると、彼女の所有物なのだろうか、モデルガンがショーケースに飾ってあった。軍事オタク、というやつだろうか。

 


 ともあれ、彰人が寝ている間に二人は仲良くなったようだ。

 彰人にとってそれは嬉しくもあり、なんだか寂しくもある。若い者同士で親しくするのは大いに結構だし、推奨すべきなのだが、いつか、おっさんである自分のことを煙たがるんじゃないかと思うと心配だった。思春期の娘を持つ父親の気持ちが、今なら少し分かる気がする。


「……ここはどこなんですか?」


 スーツに着替えてすっかり調子を取り戻した彰人は、少女に質問した。

 やっぱり、スーツは落ち着くな。頭が冴える感じがする。


「ウチの家だよ」

「一人暮らしなんですか? えっと、そのー」

「あ、名前言ってなかったや。ウチは神楽坂かぐらざか暖乃のんのねー。よろしく」

「ああ、どうも。私の名前は影原……」

「影原彰人さん、でしょ? うんうん。アキトって響きが実に雅だねぇ。風流だねぇ。それに、クールだねぇ。惚れ惚れしちゃう。でも、オジサンってほうが言いやすいから、オジサンって呼ぶことにするね!」

「……はいはい。どうぞご自由に。では、神楽坂さ……」

「のんちゃん、って呼んでほしーかなっ? かなっ?」


 ……上目遣いがあざとい。

 こうして、彰人は暖乃のことを『のんちゃん』と呼ぶことを強いられた。あだ名で呼ぶのに慣れていないので、多少の恥ずかしさがある。頑張って適応していくことにしよう。


「あ、質問だよね?」

 

 暖乃が次の言葉を口に出そうとしたとき、朗らかな彼女の笑みが歪んで見えた。

  

「ここ、ウチの実家。ウチの家族も住んでたよ」

「失礼を承知で聞きますが、ご家族は?」

「……そっかぁ。やっぱ気づいてないんだね。一人暮らしだったからかな?」

「どういう意味ですか?」


 暖乃が、重たい口をゆっくりと開く。

 窓の隙間から入り込む風が冷たく感じた。

 

「消えたんだ、家族全員。ウチの目の前で」


 それを聞いた彰人と美千代は、唖然とした。その後、平常の思考を取り戻した彰人は、納得した。アパートがもぬけの殻だったことや、生存者とまったく遭遇しなかったことも、なんとも突飛な話ではあるが、とりあえず辻褄は合う。もしこの話が本当だとしたら、彰人の家族は今ごろ……。


「いつもみたいにさ、朝食、食べてたの。みんなと一緒にね。それが、うちのルールっていうか、日課だったからさ。いつも通りにしてたの。そしたらさ、いきなり部屋中が光り出して……。ああいうのって、なんて言うんだろ……魔法陣だっけ? 気づいたら、天井に大きな魔法陣があったの。ホント、いきなりだったから、なにがなんだか分かんなくて。ぼーっとしてたら、みんな、それに吸い込まれるように消えてったの。ウチはなんとか助かったけど。で、外に出たら、モンスターがうじゃうじゃいて……もうワケわかんなくて……それで……」


 悲痛な、切迫した口調だった。快活な少女の声が、頼りなく震えている。

 泣くまいと、必死に堪えているのが分かった。慰めの言葉をかけようと思ったが、なんと言ってやるべきか、二人には分からなかった。こういう時は、そっとしておいてあげるべきなのだろうか。


「……えーっと、つまり。ウチはね、消えちゃった家族を取り戻したいワケ。それとね、これは通りすがりの人に聞いた話なんだけど、『エリアボス』っていうのを倒せば、その見返りに、願いを1つ叶えられるんだってさ。証拠とかないんだけど、試してみる価値はあると思うの」


 エリアボス。初めて聞く単語だった。

 彰人は説明を求めた。暖乃が「いいよ」とうなづき、話を始める。

 

 ――話を要約するとこうだ。

 

 『エリアボス』は、東京の23区それぞれに、一体ずつ存在する強力なモンスターのようだその実力は、レベル30以上の人間が10人一斉に襲い掛かってこようが容易く返り討ちにしてしまうほど。昨晩の『ワイバーン』がレベル19だったから、その強さは尋常ではない。


 暖乃の情報によると、『エリアボス攻略隊』が各地で結成されているという。彼女が『攻略隊』と合流しなかったのには理由があった。


 大人数でエリアボスを討伐したところで、一人が得られる報酬はわずか。それを巡って、隊の中で争いが起きかねない。それが、暖乃が攻略隊に参加しない訳。暖乃としては、なるべく少人数かつ、信頼できる人間とパーティーを組みたいようだ。


 エリアボスを倒すことで得られる報酬メリットは、彼女の知るかぎり2つ存在する。

 『願いの成就』と『エリアの開放』だ。


 『願いの成就』は、言葉通りの意味だ。にわかには信じがたいが、モンスターがいるこの世界ではあり得ない話じゃない。現に、一時的なものではあったが、彰人は不死身の肉体を手に入れた。脚に治療不可能なレベルの重傷を負っても、その数分後には何事もなかったように完治した。願いを叶えるぐらいわけないだろう。


 そして、『エリアの開放』は、東京23区のことを指しているようだ。現在、彰人たちがいるここは千代田区エリアだが、区の境界線に不可視の『結界』が張られているらしく、この千代田区から外に出ることができないらしい。


 このバリアは、千代田区のエリアボスを討伐することによって消滅する。そうすれば、彰人たちはこの区からの脱出が可能になる。ちなみに、千代田区のエリアボスは現在、東京駅を住処にしているようだ。人づてに聞いた情報で信憑性には欠けるが、いかんせん、他の情報が少なすぎる。真偽の判断がまったくつかない。


「ぶっちゃけって言っちゃうとね。ウチと協力して、ボスを倒してほしいの」


 話の最後に、暖乃からエリアボスの討伐に協力するようお願いされた。彰人は、すぐにその答えを出すことができなかった。とりあえず、その場しのぎの曖昧な言葉で返事を先送りすることにした。


 彼女の言うことが本当なら、エリアボスは強敵だ。

 命を落とす危険性が大いにある。

 そもそも、実力に欠けている。

 挑んたところで、あっさり返り討ちに遭うだけだ。


 ナイトウォーカーの職業特性【夜間強化】はたしかに強力ではあるが、文字通り夜間にしか発動しないうえに、デメリットも存在する。効果時間が過ぎた後、一時的ではあるが、ステータス値にマイナス補正がかかってしまうのだ。


 美千代が確認したところ、全ステータス値が−50%減少するそうだ。これが、だいたい1時間ぐらい継続するらしい。加えて、吐き気や頭痛といった、面倒な副作用もあるようだ。


 この件は、今後の課題となるだろう。【夜間強化】による一時的なステータスアップに頼ってばかりではいけない。モンスターに対する有効な攻撃手段を他にも探る必要がある。手札を増やして、あらゆる状況にも対応できるようにならなければ。


 『ソルジャー』の職業に就いている暖乃は、職業特権として銃等の兵器を扱うことができ、攻撃手段が非常に豊富だが、彰人と美千代に関しては【ファイヤバレット】一つに頼りっきりだ。


 そこで、【ファイヤバレット】以外のスキルを使いこなす訓練が必要だと彰人は考えた。

 まず、ナイトウォーカーのスキル【吸血】を試すことにした。近場で捕まえてきたスライムを標的にやってみる。


《スライム Lv.5》


 スライムは、モンスターの中でも最弱の部類のようで捕縛は容易だった。攻撃能力に欠けるが、その代わりに生命力が非常に強い。今回の実験の標的にするのに都合が良かった。

 

「い、いきます。【吸血】!」


 【吸血】を発動すると、美千代の爪が3センチほど伸びた。その尖った爪をスライムにブスリと突き刺す。ゼリー状の体は鋭利なものをいともたやすく通した。

 吸血といっても、口から吸う必要はないようだ……。なんてことを思いつつ、しずかに見守る彰人。しばらくして、「あのー」と声をかけられる。

 

「えーっと、筋力+2% 敏捷+1% って出ました」


 どうやら、モンスターを吸血すると一部ステータスが向上するようだ。モンスターの種類によって、どの程度の違いが生じるのか、気になるところではある。


「あの、影原さん? こ、この子、うちで飼っちゃダメですか? ちゃんと……責任もって面倒みますから。どんなエサ何食べるか分かんない、ですけど。お、お願いします……」

「すみません。諦めてください」

「う、うう。ごめんね、ミドリちゃん……」

「これは参ったな」

 

 スキル実験の対象となったスライムことミドリちゃんは、実験終了後、暖乃の手によって処分された。銃の威力を確かめるためのまととして利用され、壮絶な最期を遂げたという。

 

 最後に、彰人が一番気になっていた【労働ワーク】の効果検証を行うことにした。他人に使用するスキルなので、今まで使うのを遠慮していたが、一体どんな効果だだろうか?

 

「【労働ワーク】」

「どう?」

「とくに何も……」


 暖乃に試してみたが、何も起かった。

 次に、美千代に向けてスキルを発動してみると、以下のメッセージウィンドウが表示された。


──────────────── 


 【タスク(雇用主:引籠 美千代)】


 ①雇用主と会話する(5000文字)

  ↳報酬:勤労ポイント+200

 

 ②雇用主の悩みの解決

  ↳報酬:勤労ポイント+600 技Pt+20


 ③雇用主を楽しませる

  ↳報酬:勤労ポイント+700 経験Pt+10


 ④雇用主を褒める

  ↳報酬:勤労ポイント+300

  

────────────────


 労働ワークのスキルが発動したようだ。一見した感じだと、記載されてある仕事──と言えるのか怪しい内容だが──を達成すれば、報酬を受け取ることができるようだ。その中には、勤労ポイントも含まれていた。よし、ついに勤労ポイントを獲得する手段を見つけたぞ……。


 スキル【労働ワーク】が、勤労ポイントを手に入れる手段であることが判明した今、試さずにはいられない。とりあえず、このスキルについて判明したことを、2人に説明するとしよう。チーム内での報連相は大切だ。さっそく彰人が口を開こうとすると──。


《警告 :“管理者マスター”の設定によって、スキル【労働ワーク】の詳細を他者に話すことは禁じられています》


 ……おいおい、冗談だろ。

 視界の隅に表示されたメッセージは警告を示していた。それを無視して話そうと試みるも、まともに口が動かない。紙に書こうとしても、ペンを握る手がブルブル震えるせいで、ロクに文字も書けない。ジェスチャーや手話で伝えようとしてもダメだった。

 

 “管理者マスター”とやらが一体何者なのかは知らないが、まったく面倒なスキルである。

 そもそも、【新入社員】という職業自体が厄介な代物だ。とにかく使い勝手が悪い。【ナイトウォーカー】や【ソルジャー】のように、簡潔かつ強力だったら良かったのだが……。


「……引籠さん」 

「あっ、はい! なんでしょうか」

 

 説明できないものは仕方ないので、提示されたタスクをこなしていこう。

 

──────────────── 

 【タスク(雇用主:引籠ミチヨ)】


 ①雇用主と会話する(5000文字)

  ↳報酬:勤労ポイント+200 


 ②雇用主の悩みの解決

  ↳報酬:勤労ポイント+600 技Pt+20


 ③雇用主を楽しませる

  ↳報酬:勤労ポイント+700 経験Pt+10


 ④雇用主を褒める

  ↳報酬:勤労ポイント+300


────────────────

 

 ①『会話する(5000文字)』は自然に達成できるはずなので、④『雇用主を褒める』のタスクをやってみることにしよう。恥ずかしいが、勤労ポイントの獲得は重要事項だ。


「引籠さんって……その……あれですよね……? えーっと」

 

 褒めようとした途端に、口が重たくなった。なんと褒めてやればいいのか、分からない。“スタイルが良いですね”とでも言おうものなら、セクハラで訴えられそうだ。訴える先はないけれども、今後の二人の関係に亀裂が生じかねない。性的な目で見ていると誤解されたら大変だ。


「すみません。なんでもないです」


 結局、彰人は何も言えなかった。勤労ポイントの獲得は重要であるが、無理に褒めるのは良くないと思うし、やっぱり恥ずかしかった。褒める点がないわけではない。魅力的な部分はたくさんあるし、美千代にはなにかと助けられている。それを彼女自身、自覚してないようだが。


 できないものは仕方ない。このタスクは後に回そう。とりあえず、①のタスクをこなして、地道にポイントを貯めることとしよう。……そう言えば、会社に務めていたときは部下を褒めたことなんてほとんどなかったな。飯を奢ったりはしてたけど。どうやら、自分は人を褒めるのに慣れていないらしい。自覚しているつもりだが、やはり私は無愛想な人間なんだと改めて彰人は思った。

 

     ◆◆◆


 3人で今後の動向について話していると、ボックシリーズについての話題が出てきた。


 【ステータスボックス】、【ショップボックス】、【テリトリーボックス】、世界各地に点在する3種の機械は、この世界を生き抜く上で重要な鍵となる。

 

「……ショップボックス? それだったらウチ、置いてある場所知ってるかも!」


 ショップボックスの在処について質問してみると、自信満々に暖乃が答えた。居場所が分かれば、さっそく行動開始だ。3人は身支度を整えて、いよいよ外に出ることにした。今日の目標は、ひとまずショップボックスを見つけることだ。それと、ステータスボックスが近所に設置されているらしいので、まず3人はそちらに向かった。


 ステータスボックスは、某有名ハンバーガーショップの店内にあった。

 美千代の部屋で見たステータスボックスとは違う部分があるようで、受話器が設置されてなかった。暖乃に確認してみると、どうやらステータスボックスにも種類があるらしく、受話器が付属するタイプは珍しいようだ。


「オジサンってさ、ハンバーガー作れる? 材料余ってるだろうし、作ってみてよ」

「いや、無理です。まず、ハンバーガーを食べたことがないので……」

「えっ? うっそ、信じらんない」


 狼狽える暖乃。

 そんなに驚くことだろうか。

 ちょっと、大げさな気もする。


「ジャンクフードに含まれるトランス脂肪酸は、免疫機能の低下や発がんのリスクを高めるんですよ。それを知ってて食べようとは思いませんね。……やはり、日本人なら和食を食べるべきです。健康第一。体が資本です」

「へっ? ……そっ、そんなに健康に悪いんですか? ハンバーガーって」

「まあ、良くはないですね」

「でも、ポテトは、野菜じゃないですか? バンズに挟まってるレタスとかピクルスも、野菜ですし。パティはお肉、パンは炭水化物ですよ……。栄養バランス、良いんじゃないんですか? 赤黄緑そろってますよ……」

「うーん。過剰摂取さえしなければいいんじゃないですかね? そりゃあ、食べないに越したことはないでしょうけど。毎食ハンバーガーとかだったら、さすがに心配ですね」

「あ、あわわわわわわ……」

「どうしました?」

「しっ、死ぬ。死ぬぅ……!」


 ガタガタ震えながら、地面にうずくまる美千代。

 訳を聞いてみて、彰人は自らの発言に後悔する。


 美千代の主食は、ハンバーガーだった。一日三食欠かさずに、彼女はファストフードを食べていたようだ。わざわざ店舗には赴かず、フードデリバリーを利用して、惰眠をむさぼっていたようだ。怠惰な暮らしだ。よく健康でいられるなと感心する。


「でも、太らないんだからうらやましーなぁ」


 部屋から一歩も出ずに、ファストフードを食べていても太らない。そんな美千代の体質を羨ましく思う暖乃だった。


《経験Ptを3獲得しました》

 

 彰人は、昨日入手した青の魔法石を、お金を振り込むようにステータスボックスに投入。経験Pt3ポイントを獲得した。昨晩、ワイバーンから手に入れた紫の魔法石があるが、今回は振り込まないことにした。


 これは、【テレパス】の分に取っておこう。


 魔法石は、ショップボックスでアイテムを購入するために必要な“通貨”としての役割を持っているようなので、紫色の魔石はそのときに使うことにする。


《ステータスを更新しました》


───────────

Lv.4 【影原 彰人】

職業 :サーヴァント(新入社員)Lv.3 ↑+2

    次のレベルまで 0/15pt


装備 :なし


雇用 :ナイトウォーカーLv.1

    雇用主【引籠 ミチヨ】

  

HP  :250/250 ↑

SP  :50/50

筋力 :35

耐久 :25 ↑+5

敏捷 :20

器用 :20

魔力 :8 ↑+8

抗魔 :0


技巧Pt :0 ↓-15

経験Pt : 0 ↓-13


基礎スキル 近接格闘Lv.1


所有スキル 入社願望エントリー(職業)

      労働ワーク(職業)

      ファイヤバレットLv.1(雇)

      吸血Lv.1(雇)

  

職業特性  夜間強化(雇)

      肉体再生(雇)

 

固有能力  なし   

────────────

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