第22話 エピローグ

 喝采かっさいが鳴りまないクインホールで、私は10年前に自分がデザインした漢服かんふくを着て可憐にカーテシーをした。

 マドラ通りの先にあった劇場とは比べ物にならないくらい立派なこのホールでは、年末に王家が招待したオーケストラが演奏される予定だ。

 今回の公演が評判がよかったことで、オーケストラと一緒に一曲歌を披露するように打診があった。


「すごいね」

 楽屋に戻ると良太が涙ぐんで抱きしめてくれる。

 国賓こくひんが使う豪華な調度品は、花瓶一つでも壊せば一生働いても買えそうもないくらいだ。

 そんな楽屋で、黒いタキシードを着た良太は目をウルウルさせている。


「なんであなたが泣くの?」

「そりゃあ、あの頃はロミーとジュリーの恋物語がこんなにロングヒットすると思わなかったし、ましてや君に歌ってもらえると考えもしなかった」

 そうだ。

 自分でもびっくり。

 帰りたいという気持ちはいつの間にか消えて、生活魔法を不自由なく使えるころには、良太の側で歌いたいと思っていた。


「最高の人生だよ」

 あまりに嬉しそうな良太に少し意地悪したくなった。


「心残りは、あの時どうしてあんな契約しちゃったかよね」

「うっ」と良太が自分の行いに心当たりがあるのか、顔を背ける。


「二人の恩人だし、それにいつでも契約破棄できるよ」

「そんなこと言って、契約破棄する気なんてないくせに」

 彼と私は今でもアラン商会の社員だし、デザイナーとしての専属契約もしている。今回の公演も商会を通しているので、どれくらいのギャラが発生しているのか見当もつかない。


「僕は君と一緒なら仕合しあわせだから」

 そう、はにかむ良太はすごく素敵だ。

 私はお城のようなクインホールのベランダに出て輝く月を見上げた。


「死んでもいいわ」

 私の言葉に、良太は慌てて走ってくるとまたもやギュッと抱きしめてくれる。


「そんな縁起でもないこと言わない」

 せつなく私の頭を撫ぜる良太が愛しくて、私は腕から抜け出すとにっこりとほほ笑んで彼の顔を月に向けた。


「あの時の答えだし」

「え?」

「よく考えたら、ロマンチックでライターだった良太が知らないわけないよね」

「あ……」

「もう一度言ってくれてもいいよ」

 良太は頬を真っ赤にしていたが、チュッとおでこにキスしてから私の一番欲しい言葉をくれた。


                Fin




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異世界案内所~楽しい仕事? そんなのあるか、転生者でも働かないと食えないんだよ 彩理 @Tukimiusagi

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