第21話 舞台
2回目のアンコールに、劇団員が舞台の中央で観客に手を振った。
すでに3度も追加公演のロミーとジュリーの恋物語は貴族の間で評判になっており、中でもその衣装である漢服はどこのデザイン工房で作ったものかと、問い合わせが殺到している。
言うまでもなく、俺の息のかかった工房で独占販売をしているのは勿論のこと、スポットライトが当たるとキラキラ輝く漢服は、その生地にラメを織り込んだ特注で、この生地を取り扱っているところもうちの商会だけである。
「ぼろ
無言の返事を返し、反対の
うんうん。どうやらこちらもうまくいきそうだな。
「あーあ、あそこに立ってるのは歌姫のひとみちゃんのはずだったのになぁ」
ライトが
会ったときから、ライトはひとみをアイドルという歌姫にしたかったようで、「魅了の力まで持ってるんだから絶対に成功するから。ガッポガッポだよ」と意気込んでいたのだ。
しかし、かたくなに、人前では歌わないと言っていたことと、あの手首の自傷行為をみて
デザインの仕事を振って大正解だな。
「まだまだ甘いな。歌姫になるのを持っていたら
俺って天才と、ニヤリとライトに笑ってみせると、めっちゃくちゃ悔しそうに、しかめっ面で俺の脇腹を
「まさか劇場を紹介したの、初めから歌姫じゃなくてデザインやらせるつもりだったの?」
「もちろん」
「なんで? 鑑定眼では歌姫と魅了だったのに」
「鑑定眼で
「でも、ギフトって本人が潜在的に得意とすることや欲しいと思っていた能力だよね」
ライトは納得がいかないというように、食い下がってきたが、俺はそうではないような気がしていた。
深く心の中に残っている言葉や行動がギフトとなって表れている気がする。
それは、仕事のことだったり夢だったり、気がかりな事だったり様々だ。
まあ、これも人生経験のうちなので、ライトには「今まで俺が見たギフトは単純にそうとも言えない」とだけ返事をしておいた。
自分の能力の限界を知ることや、それを生かす方法は自分で模索するしかない。
「初めに会ったとき、良太がコスプレって言ってただろ。あれがきっかけだ」
「それが何でデザイン?」
「コスプレって、コスチュームプレイのことだって以前おまえが教えてくれたじゃないか」
「は?」
「あの二人を見て、同じ手作りプレイ衣装だなと思ったんだ」
「同じ手作りプレイ衣装?」
まったく意味が分かんないですけど? と首をかしげているライトに仕方なく説明してやることにする。
「あの二人がはいていたスカートは見たことのない柄のタータンチェックだった」
「確かに、あんなピンクのチェックスカートは見たことないかもね」
「そうだ、珍しい。だから、念のためタータン登記所で調べてみたらやはり、登録されていない柄だった」
「何それ?」
「大手商会に社員として働いているライト君に、今さらながら教えてあげると、タータン柄はすべて登記所で登録され許可がないとその柄を織ることはできないんだ。もし、許可なくその柄を織って販売すれば、生地販売資格を取り消されるほどにしっかり管理されている」
「まじ?」
そんなことは初耳だというような驚き方である。
生地を扱うものにとっての常識なのに。
まあ、最近は織技術の発達で同じ柄を似せて作ることも可能だし、柄数が増えたから戦争時に味方かどうかの判別に使われることもなくなったから、それほど厳密に処罰があるわけじゃないけれどね。うちの社員としては知っておくのは必須である。
「貴族によっては家紋と同等にタータンの柄を重視するところもあるし、ロイヤルタータンと言って王族専用の柄もあるくらいだ」
「へー、そうなの? 知らんかった」
「勉強不足」
「うん、反省する」
「良太の話では、着ていたセーラ服は自分で作ったもので、あの柄はオリジナルの人物と同じ貴重な生地だって自慢していた。それと同じひとみのスカートもどこで手に入れたか知りたそうだったから、後日誰の手作りか聞いておいたんだ」
「抜け目がないね」
商売で大事なのは直感と観察だからな。
「なんだ、結局俺の鑑定眼は役に立たなかったのかぁ」
「そんなことないぞ、どうしてあのドレスがあんなに流行ってると思う?」
今までにない斬新なデザインだということもあるが、目新しいものはそれだけ反発も大きい。その反発を乗り越えて一世を
「トマトと一緒だ」
「トマト?」
「ひとみが歌ったら、トマトが甘く成長速度が上がっただろ。衣装も一緒だ」
ひとみのデザインする衣装にはわずかに人を引き付ける力を感じる。
人間に対する魅了は完璧に封印した。
他のものには有効だろうとは思っていたがここまで上手くいくとは嬉しい誤算だったな。
「腹黒すぎだろ」
ライトのつぶやきに、まんざらでもない気分で俺は舞台に拍手を送った。
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