文化祭-2
文化祭が始まってから、園芸部は大盛況だった。あまりの忙しさと寝不足とこの後に控えているイベントへの緊張でろれつがうまく回らず、後輩にカバーしてもらう場面が何度もあった。
対して清水のほうはというと、料理はお手の物といった風に手早くオーダーをこなしていた。後輩に的確に指示を出し、てきぱきと動く姿はまさに理想の先輩だった。
こちらは後輩の目線が痛い...。
「な、三年生二人でよかっただろ。」
という原田の冗談のせいでさらにいたたまれなくなってしまった。
そんなこんなありながらもなんとか店番を終えた。この後は約束通り、清水と文化祭を回るのだが...。
「つかれたー!まさかあんなにお客さんが来るとは。」
「清水はそれでもしっかり接客できてたじゃないか。」
「鈴谷とちがってね。」
「こっちは寝不足なんだよ。」
「私との文化祭、そんなに楽しみだった?」
違うとも言えなくて言葉に詰まる。
「...え、本当に?」
「まあ、そうだよ...。」
彼女は大きな目をまんまるにして驚いて、微笑む。
「ふふ、じゃあ、どこから回る?」
その笑顔はなぜだか少し悲しそうにも見えた。
「あ、私ここ行きたーい。」
清水がソーセージをほおばりながらしおりを指さす。
校内は人であふれかえり、実行委員による装飾も相まってまさにお祭りといった感じだった。中にはマスコットやトリックアートなどもあり、ただほっつき歩くだけでも楽しかった。
「それにしても飾り付けすごいね。見慣れた廊下がこんなにぎやかになるなんて。」
「あ、あれ俺の飾りだ。」
クラスでの文化祭準備の時間に手持ち無沙汰で作った正二十面体が飾られていた。
「へー、すごい。めちゃくちゃ器用じゃん。」
しかしどうしたものか。タイミングがない。この楽しい時間に水を差すのがいやでなかなか切り出せない。まあでも楽しいからいいか、という気持ちに流されそうにもなる。それほどまでに清水との時間は楽しかった。
清水と劇の感想を話す、清水と飯を食べる、清水とヨーヨー釣りをする。
それだけで満たされた気持ちになった。
そうこうしているうちに終わりの時間になってしまった。
「いやー、楽しかったねー。」
「さっきのダンスすごかったな。」
「ね。」
「この後は部室で片付けか。」
「文化祭、終わっちゃったね。」
「さみしいな...。」
「ね。」
告白の機会が見つからないまま部室へと戻る。片付けの間にそんな機会なんてあるはずもなく、部員たちは解散し、とうとう文化祭は終了した。
そのまま俺たちも解散という運びになりそうになったが、原田が(気を使ってくれたのかは知らないが)俺たちにゴミ捨てを命じてくれた。
「ちょっとそこで座って話さないか。」
その帰り、校庭のベンチを指さして言った。この機会を逃すわけにはいかない。
「なになに、どうしたの。」
二人で並んで腰かける。
「いや、大したことでもないんだけど、楽しかったなって。」
「めちゃくちゃ楽しかった!」
「うん。」
「でももう私たち卒業かー。来年はないんだね。」
「清水は大学にいくのか?」
「うん、デザイン系の専門学校に。鈴谷は?」
「俺もとりあえず進学しようと思ってる。」
「そっか。」
気まずい沈黙が流れる。
ここで言わなければ。このタイミングを逃したら次はないだろう。
「えーと、あのさ。あの...」
心臓が張り裂けそうになる。言葉が見つからない。何を言えばいいんだ、告白ってどうするんだ。
清水がきょとんとした顔でこちらを見つめる。
ああ、そうか。彼女の顔をみて思い出した。言うべきことは最初からあったじゃないか。
「清水と一緒にいると楽しいんだ。好きだ。付き合ってくれないか。」
彼女の顔は今朝と同じように驚き、そして綻んだ。
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