菜園
「あつーい!」
とうとうやってきた文化祭前日、我々園芸部は明日のために炎天下の中菜園で野菜を収穫していた。
「最近あついから熱中症に気を付けて水分をちゃんととれよー!」
原田がちゃんと部長としてふるまっているのをみるといつもなんだか不思議な気持ちにさせられる。
「鈴谷、水ちょうだい。」
隣の畝の野菜を収穫している清水にペットボトルを渡す。
彼女とはもう知り合って2年にもなる。今更告白するからと言って何かあるわけでもない。
しかしやはり意識してしまうものはある。
告白。
あの日以来この言葉は俺の胸に重くのしかかっていた。どれだけ考えても妙案は思いつかないし、考えるほど緊張するし、こんなに重いものは生まれて初めてだった。
「...鈴谷?聞こえてる?」
いつの間にかこちらの畝のほうへ移ってきていた清水がのぞき込んできていた。ぱっちりとした澄んだ目に見つめられてすこしどぎまぎしてしまう。
「ああ、ごめん。聞いてなかった。」
「だろうと思った。」
「で、なんの話だったんだ?」
「そんな大した話じゃないし。大丈夫だよ。」
拗ねた様にふるまいながらジャージについた土を払っている。
「ところで文化祭は原田と回るの?」
せっかく原田が用意してくれた舞台だ。断られるかもしれないが言うだけ言わなければ。
「えーっと、それなんだが、よければ一緒に回らないか?」
なんだか気恥ずかしくなってうつむく。
「今年から原田が部長になって部室につきっきりになってるから...」
「いいよ。」
時が止まったかのように感じた。
その言葉は脳が認識するよりも早く俺の心を震わせる。
顔をあげると、こちらを振り向いた清水と目が合う。
「あ、でも私金欠だから鈴谷がおごってね。」
そう言う彼女の笑みはいたずらっぽく、太陽に照らされてとてもまぶしく見えた。
「鈴谷の方も全部取ったか?」
奥から原田の声がして我に返る。
「終わったよー」
清水が手を振りながら答える。
「よし。じゃあ全部終わったな。みんな部室へ戻るぞ。」
「それにしてもあつすぎ~。めちゃくちゃ汗かいちゃった。」
「そういえば清水っていつも長袖じゃないか?あつくないのか?」
「確かに、そういえば清水の半袖は見たことがないな。」
「あついけど日焼けしたくないし。」
「日焼け止め貸そうか?」
「大丈夫大丈夫。かばんに常備してる。」
そんなたわいもない話をして部室へと戻っていった。
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