部室

 学校への道すがら、俺は清水のことを考えていた。


 俺は清水のことが好き...なのかもしれない。


 人を好くという感情が何を指すのかわからないが、俺は清水といる時間が好きだ。


 一か月ほど前にその旨をわれらが園芸部部長かつ同級生の原田に伝えてみると、彼は急に恋愛マスターを自称しだしそれは恋だと言ってきたことがあった。


 彼の言葉の信ぴょう性はともかく、伝えたいことは伝えたほうがいいと思う。


 つまり、しようと思っている。


 しかしそういった経験は全くなく、どうしたものか、というのが最近の悩みであった。今日も今日とて考えてみるも一向に答えは出ず、気が付けば部室までついてしまい本日の脳内作戦会議もお開きという流れになった。


 部室はかぎが開いており、そこには原田が一人で何か作業をしていた。


「何してるんだ?」


「ああ、すやすや鈴谷か、今はシフトを組んでるんだ。」


 原田の冗談を無視しつつレジ袋を机の上に置き、シフト表に目をやる。


「無視するなよ。」


「なあ、こういうのって三年生おれたちはバラバラに配置したほうがいいんじゃないか?」


 ふと疑問に思って尋ねる。


 円滑に運営するためにどの時間帯も三年生はいたほうがいいと思ったが、その表では大体俺たちは二人一組になっていて不在の時間が存在していた。


「ああ、俺もそう思うけど、お前清水にするんだろ?」


「え?」


 藪から棒な発言に驚きを隠せない。というかさらっと言いやがって、俺がそれにどれだけ腐心したことか。え?てか俺文化祭で告白するの?文化祭って、一週間後のあの?

 

 いろいろな思いが頭をめぐるがどれも声にはでない。ただ間抜けにも口をパクパクさせるだけだった。


「しないのか?」


「いやまあ、できれば、いいけども。」


 しりすぼみになりながらもなんとか声を発する。


「あれ以来全然そういう話を聞かないから俺はてっきり文化祭をまっているとばかり...。」


 少し原田もばつが悪そうに言う。


「まあ未定ならちょうどいいじゃないか。それで鈴谷と清水だけ二人にしたら目立つだろ?」


「あ、ありがとう...?」


 確かにありがたいが、それどころではなかった。確かにいまだに告白していないのは変な話だし、文化祭が格好のタイミングなのはわかる。わかるが、一週間後に告白ってどうやって?


「それでこれは?」

 

 原田はレジ袋を指さして言う。


「え?ああ、これは清水から持っていけって言われたやつ。文化祭用の。」


「へえ」


 原田の意地の悪そうな口角の上がり方をみて、俺は今すぐに帰ることに決めた。

こういう時のこいつは大体面倒くさい。とりあえず告白については家でゆっくり考えることとしよう。


「帰るのか?来たばっかりなのに。」


「それを届けに来ただけだしな。」


「清水の頼みでね。」


 笑いながら謝る原田を無視して俺は部室を出た。


 しかし、か。

なんだか「告白」というふわふわしたものが急に質量を持ち始めたかのように感じていた。

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