彼女3

 初恋と呼ぶにはあまりにも幼い憧憬を私は5歳にして抱えていた。歳の離れた兄の友達、これほどありきたりなのだから予想はつくはず。優しい兄や家族に囲まれて愛されて育った自覚はある。兄の友達も優しかった。

ただ兄と違ったのは女の子扱いをしてくれた。外を歩くときは手を繋いでエスコートしてくれて、女の子だからと荒っぽい遊びの時は私も楽しめる遊びに変更したり、そのただの紳士さにころっといった私はちょろい。あの人は同年代の男の子なんかよりよっぽど紳士でカッコよくて大人だった。

小学生になってもその人に対する憧憬は消えなかった。漠然と私を選んでくれるという気さえあったかもしれない。大人になったらその人と結婚するんだろうなという生々しい劣情さえあった。

それが砕かれたのは私が小学生の頃。その人と同じ学校のセーラー服を着た女の子と手を繋いでいるのを見た時。そのような話は兄からも本人からも一つも聞いていなかったし、何より幼い私と対照的に同じくらいの背丈でその人と並ぶ制服の女の子にどう足掻いても縮まらない差を感じてしまった。

涙も出なくてただただ現実のわかっていなかった自分への嫌悪感だけが残った。何一つ教えてすらもらえなかったことが自分がどうでもいい存在だったということを意味することに後から気づいてさらに自己嫌悪した。

何一つ分かってなかった自分が恥ずかしくて気持ち悪くて恋愛に関して恐怖心を抱くのは仕方のないことだと思う。恐怖心を抱いていることにすら自己嫌悪してしまうのだから本当に嫌になる。

 だからだろう、いつも他人事でいたいのは。人の痛みを背負えるほど強くないのに笑っていられるだけの器用さもない。人に嫌われるくらいなら最初から判断されるところにいなきゃいいのだ。

そんな私に人を好きになる資格なんてない。だから私は誰も親しい人を作らないと決めたのだ。昔はそうじゃなかったとしても。

あの人はお人好しだった。こんなどうしようもない私に笑いかけた。「優しい」ではない、優しかったら誰にでも、はしないし何より責任をとる。それをわかっていた。誰よりわかっていたけれど好きだった。

こんなどうしようもない思いを初恋と言うのだろうな。

「そんなくだらない一言で片付いてしまうのか。」

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根号にサイダー夏の空 朔月 @Satsuki_heat

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