彼2
彼女は意外と食いしん坊である。お昼時とか、外のベンチで1人で食べているのだがそのお弁当箱がなかなかに大きい。俺のお弁当箱もそこそこの大きさだが、その俺のお弁当箱にも引けを取らない大きさだ。俺は野球部だから朝練や勉強や夕方の練習もあるから腹が減る。彼女は帰宅部で体格も小柄だし本を大量に読んでいるという印象しかなかったから、初めて見た時は驚いた。
そんな彼女の食べる場所は日によって変わる。天気の良い小春日和の日は人気のない外の非常階段。雨の日は屋上に向かう階段の踊り場、冬は空き教室や保健室。居心地のいい場所を選んで彼女はよく彷徨っている。
人気のないベンチで食べている彼女を見たことがある。1人にも関わらず手を合わせ、小声でいただきますと言う。そんな姿も彼女らしいな、なんて思った。誰も気に留めない彼女の食べる姿を自分一人が気にしているのも心地よかった。
今日の補修はお昼前に終わり、彼女と一緒にお昼を食べれたらなんて期待してお弁当を持ってきてしまった。横の彼女をちらと伺うと窓の外を見て夢想の世界に行ってしまっている。先生は今いないがそのままでは終わらないのではないかと思ったが、賢い彼女のことだとっくに終わっているのだろう。
「えっ!マジで〜!!!」
突然廊下に響くデカい女生徒の声に彼女はビクッとなり廊下側を見る。思いがけず目があってしまった。
「…こっ、ここの問題わかる?」
動揺は声に出てしまったようだが取り繕えはしただろう。
淡々と問題を説明する彼女の横顔を眺めながら、もうわかっている問題を飲み込み直す。
あっという間に補修は終わって彼女のわかりやすい説明でより理解度は深まった。
「碧さん、ここの問題は…」
「???……はい」
つい口をついて出てしまった名前呼びに気持ち悪がらずにはてなが三つくっついたあとにちゃんと返事をしてくれた彼女は優しいと思う。
「ごめん!つい頭の中でそう呼んでたから出ちゃった。」
「いや別にいいよ。いきなり呼ばれたからびっくりしただけ。」
「嫌じゃない?」
自分が思うより不安げな声が出て驚いた。もはやわんこではないか。
「嫌じゃないよ。…あーじゃあ私も弥さんって呼ぼうかな。」
にやといたずらっ子の表情で笑い彼女は俺を揶揄う。くすぐったいような照れ臭いような感覚を味わいながら嬉しさににやけないように笑う。
「むしろ嬉しいよ、」
結局お昼ご飯は誘えなかったけど、いい時間を過ごせたのでよしとする。
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