彼女2

今日の補習は先生の都合で夕方になった。彼は部活が終わってからくるのだろうか。私はどうせ暇なのでクーラーの効いた誰も来ない薄暗い図書室で過ごすことにした。

突然、ドアが開いた。

まず驚いた。この学校の図書室は蔵書が多い方ではなく、本読みはこの学校を避けがちだし、本を読むレベルの頭の良さを持つ人たちがあまりいない。だから図書室を利用する生徒は私くらいなのだ。

次に、その入ってきた人に驚いた。彼だったのだ。本を読むとは聞いた事ないし、一度も図書室で出くわしたことがない。彼は扉から、まっすぐ私の方へ向かってくる。目を逸らせぬまま、口が開かれる。

「碧さん、おすすめの本ある?」

「え?、、あ、、えっと、、普段どんな本読むの?」

驚きを隠せないままかろうじて出た言葉これだった。さっきまで外で駆け回ってたであろう彼がユニフォームのまま図書室にいると言うのはひどくアンバランスでそれに引っかかっている自分さえおかしく思えてくる。

「うーん、、、結構なんでも読むかな。。」

彼の口から出た作品たちは、ラノベから最近流行りの有名作品、純文学の入り口から、児童文学までほんとうに「なんでも」だった。

「君の好きな本が知りたい」

唐突な知りたい宣言に戸惑い、つい疑心が顔にでる。

「私の好きな本?」

本は私と切り離せない存在だ。私の心の柔らかい部分といってもいい。彼はそれを晒してくれと言っている。それを理解して言っている。私はそれを彼に晒せるだろうか、目が泳ぐ、私の思考は空滑りするばかりで一向に進まない。彼は頷いて私の返答を待ってくれる。

「、、、おすすめの本でもよければ」

自己開示がとんでもなく苦手になっているのを改めて自覚した。いつも自問自答するばかりで外に向かって投げかけるとなると途端にかくれんぼしている子供のように息を顰めてしまう。

「うん、ありがとう」

きっと彼にはそんな本心さえお見通しなのだ。彼のどこまでも澄んだ眼ならそんなこと昼寝しながらでもできるんだろうな。いつもクラスメイトたちと話す時の目尻の下がった人の好い笑みの向こうで彼は淡々と目の前の人の本質を見抜いてるのだ。ふわりと笑ったその笑顔は私のままならなさを払拭してくれる。それがどうしようもなく不適合な自分を突きつけられているみたいで恥ずかしくなった。淡々と人を見抜く目を持っていながら人当たりの良い笑顔で人を騙す。こんな僻みみたいなこと思ってはいけないと思いつつも、クラスメイトと笑い合う彼を横目にそっと隣で舌を巻くのだ。

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