第六話:盗賊の帰還
サルドと共にファインデの森を抜け、一路王都シュレイドを目指したんだが。こいつは十年経っても相変わらず、霊馬なんだと感じる懐かしい出来事を経験した。
ファインデの森では、密集した木々がまるで生きているかのように枝や幹を動かして道を作り、その脇を動物達が見送るように並んで見守っている。
そんな、この世界でも中々見れない貴重な光景を、十年前同様に見せていたんだが。
やはり圧巻だったのは、王都に着いてからだ。
こいつに乗ったまま、城に向け歩いて行く訳だが、行く先々で人が操る馬車や馬が、時に足を止め、時に道を譲り、サルドが通る時に頭を下げたまま、通り過ぎるまで動かない。
威厳か。神々しさか。
それは分からねえが、当時の獣魔軍との決戦前にも味わった、あまりに注目されるこいつの自然な振る舞いには、どうにもできず俺も困ったもんだ。
実際、十年前のこの光景を見た奴もいたみたいでよ。
「英雄様の帰還じゃ……」
なんて言いながら、俺達に祈りを捧げるご老人なんかもいる始末。
ったく。
十年前の事なんて忘れときゃいいってのに。
そう思うものの。
丁度俺が
兵士達は
§ § § § §
時間は日が南天を過ぎた頃。
俺はサルドとそのまま、城へと足を運んだ。
城壁の門の前まで来ると、門番は俺達の姿を見るや否や、恭しく敬礼してくる。
「ヴァラード様。よくお戻りになりました」
「ああ。悪いがこいつを厩舎に案内してくれ。サルド。まずはゆっくり休んで餌でも貰っておけ。ちゃんと言う事を聞いてやれよ」
サルドの背から降り、顔を撫でつつそう話すと、あいつは首を縦に振る。
ちなみに森を出るまでは付けちゃいなかったが、流石に途中の街で手綱や
ま、これなら兵士達も、厩舎までうまく誘導してやれるだろ。
門番の一人が、サルドを厩舎に誘導し始めたのを見て、俺は残った門番にこう尋ねた。
「アルバース達に面会したいが、今何処にいる?」
「アルバース様を始め。皆様訓練場におられます。ご案内致しましょうか?」
訓練場か。
奴等も一応言う事を聞いてたって事か。悪くねえ。
「いや。勝手は分かってるから一人でいい。悪いが、しっかりここを見張っててくれ」
「はっ!」
再び敬礼した門番に手を挙げると、俺は一人城壁を潜り、その足で訓練場に向かう。
城内の兵士達も、流石に戦があると分かって緊張感は拭えないか。
ま、気が緩んでいるよりは良いがな。
少しして、訓練場が近づいてくると、遠くからでも分かる、武器と武器が勝ち合う金属音が聞こえてきた。
間髪入れずに届く鋭い音。響く音の心地よいリズムには、温さを感じねえ。
……ふん。
アイリの奴、中々やるようになったじゃねえか。
自然とほくそ笑みつつ、俺はそのまま訓練場の広場に向かう。
途中俺を見かけた兵士達が、はっとする道を譲り、頭を下げてくる。
そんな奴等に無言で手を挙げ応えつつ、俺はその先に映るバルダーとアイリの稽古に目をやった。
相変わらず重そうな鎧を身に纏った二人。
だが、それはおっさんがちゃんと溜め込んでいた装備をくれてやったんだろう。
魔法が付与された独特の青白いオーラを纏っている。
武器も勿論稽古用の木製の奴なんかじゃねえ。互いに実戦用の武器で打ち合っている。
武器を
赤髪を振り乱しながら、以前より鋭さを増した剣を連続で叩き込んでいくが、バルダーも
……ほう。
装備が良くなったのもあるが、バルダーも思ったよりしっかり付いていってるじゃねえか。
以前なら、あれだけの腕を見せられたら萎縮してそうだったが。
今や二人とも戦う事を楽しむ余裕も出ている。良い事だ。
……じゃ、ちと試すか。
「でやぁっ!」
「まだっ!」
二人が一旦距離を空けた後、再び踏み込み斬り合おうとしたそこに、俺は殺意全開で一気に踏み込み割って入ると、
「はっ!」
「なっ!?」
かなり本気を見せたんだが、はっとした二人は瞬間。互いに向けていた武器を、俺の剣に向け直し咄嗟に弾きやがった。
キィィィン!
強く弾かれた武器に伝わる威力に、俺は武器ごと腕を反動で跳ね上げられる。
「……ま、及第点、ってところか」
「師匠!」
「ヴァラード!」
突然の奇襲に目を丸くした二人だったが、ニヤリとした俺を見た途端、アイリは武器を捨てると、そのまま嬉しそうに俺に抱きついてきた。
……って、痛え!
「師匠! お久しぶりです!」
「挨拶はいいから、ちっとは手加減を覚えろ! 痛えんだよ!」
「あ! す、すいません!」
無意識に身体が動いていたのか。
間近で俺にそう怒鳴られたアイリは、少し恥ずかしそうに顔を赤らめると、腕の力を緩めた。
……まあ、抱きしめられた腕は解放しやがらねえんだが。ったく……。
俺がやれやれといった顔をすると、側でそれを見ていたバルダーが俺に呆れ笑いを向ける。
「ヴァラード。折角の俺達の時間に割り込むとか。よっぽどこいつを取られるのが嫌だったのか?」
「馬鹿言え。お前達が少しは成長したのか、実戦的に試しただけだっての」
「師匠! 僕の腕はどうでしたか!? 強くなってましたか!?」
眼鏡の下の瞳を爛々と輝かせ、期待に満ちた顔をするアイリ。
「……ああ。あれに反応できたんだ。十分強くなってるぜ」
未だ俺を抱きしめたまま見上げてくるあいつに笑ってやると、アイリは露骨に嬉しそうな笑みを見せてくる。
「師匠、お久しぶり」
「ご無沙汰しております」
と、周囲で稽古を見守っていたであろうエルやティアラ。そしてアルバース、ルーク、セリーヌもまた、俺の周囲に歩み寄って来た。
どいつも俺の帰還を歓迎してか。自然と笑みを浮かべている。
「ああ。エル。どうだ? お前達の方は?」
「まあまあね。ルーク様のお陰で、少しは様になったと思うけれど」
そう言いながら、青いポニーテールを払い腕を組むエル。
「お前が言った通り、こいつに俺の全てを叩き込んだ。一週間でさらっと全てマスターされたのは癪だが、お前の期待には十分応えてくれるさ」
ルークが笑顔でそんなフォローをしてくる辺り、相当自信があるってことか。
エルも口では謙遜しているが……ふん。こいつも余裕の笑み。何だかんだで自信ありって顔をしてやがるな。そりゃ楽しみだぜ。
「ちなみに、成長が見えたら、アイリのように抱きしめても良いのかしら?」
「おいおい。そんな事して何が良いんだよ?」
「そうしたいだけよ。悪い?」
俺の答えに、ふふっと怪しく微笑むエル。
……実力をつけたせいだろう。少し積極的というか、わがままになったか?
まあ、自信なく怯えてるよりはいいがな。
「わかったわかった。で、ティアラ。お前はどうだ?」
とりあえずエルを軽くあしらうと、次にティアラに声をかけてやった。
正直こいつは基礎は十分。だからこそ、それ程困ることはねえと思っていたんだが。
「はい。その……強くはなれたと、思うのですが……」
あいつは落胆した顔をすると、妙に歯切れの悪い言葉を返しやがったんだ。
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