第十話:私が愛した、最高の人へ

ヴァラードへ


 これを読んでいる頃には、私の事を忘れていたかしら。

 そうだとしたら、思い出させてごめんなさい。


 愛し合った仲なのに、大事な事を隠していてごめんなさいね。

 きっと私が聖女だなんて言ったら、あなたは絶対に私を戦いに駆り出そうなんてしない。

 それが分かっていたからこそ、みんなにだけ私が聖女だって伝えて、あなたを騙しちゃった。


 きっとあなたの事だから、不貞腐れてみんなと別行動を取ると思う。

 それも分かってたけど、まさか戦いの朝になっても、あなたの顔が見られないなんて思わなかったわ。

 折角、愛しき人の顔を見てから死のうって思ってたのに。

 もう最期の言葉も交わせないなんて。ちょっと寂しいわね。


 あなたがこの手紙を見たら、きっと哀しむわよね。

 盗賊の癖に、本当にお人好しで優しいもの。

 でも、あなたは自分を責めないでね。これは私が決めた道なんだから。

 あなたや母さん。仲間やこの国の人達の未来を繋ぐ為に、聖女としてやれる事をやろうって決意したのは私。

 だから、あなたは何も悪くないんだから。

 

 あなたと出逢い、あなたを好きになって、私はとても幸せだった。

 あなたにウェディングドレスを褒めてもらえたの、凄く嬉しかったわ。

 はにかんだあなたもやっぱり可愛くて、思わず惚れ直しちゃった。


 本当は、ずっと夢を見てたの。

 あなたと恋人同士になれた時、この幸せが続けば良いなって。

 だけど、デルウェンが現れた時、不安になって未来を占っちゃったのよ。

 そこで現実を知った時、私は酷く後悔したわ。

 自分の死と引き換えに、この国を救う未来なんて、知りたくなかったもの。

 でも同時に、愛する人の未来を護れるんだから、胸を張らないととも思ったの。


 ほんと。昔あなたに言った通り。

 やっぱり未来なんて占うもんじゃないわね。

 人生、何も分からない方が良かった。

 その方が、夢も希望も沢山持てたもの。


 ……ヴァラード。

 黙っていてごめんね。

 ずっと一緒にいようって誓ったのに、約束を破ってごめんね。


 本当は、もっと一緒にいたかった。

 ずっと一緒にいたかった。


 二人で結婚して、一緒に新婚旅行でもして。

 子供を作って、家族で幸せに暮らして。

 年寄りになるまで一緒に過ごす。

 そんな幸せを叶えたかったわ。


 ありがとう。ヴァラード。

 私と出逢ってくれて。私を愛してくれて。

 もうあなたと一緒にいられないけれど、せめてあなたは幸せになって。

 そして歳をとり、いつかこっちに来たら、また一緒にお酒でも飲んで、色々語り明かしましょ。


 それまで、あなたがどれくらい魅力的で、他の女性にモテるのか、見守っててあげるから。

 それくらいじゃないと、私が愛した男に箔が付かないものね。


 私は、あなたを待つ幸せな未来を信じてる。

 だから、必ず幸せになって。絶対よ。


         私が愛した、最高の人へ。


                 メリナ

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