第3話 色覚を祠に捧げよ
暫く決死のスキップをし続けると、異形の姿は消え失せ東朱門の目前まで来ていた。
「しかし、いったいなんだったんだ、あれは」
未だ早鐘を打ち続ける心臓を鎮めながらつぶやいた。
形而的異形”視覚効果の怪物”、手を握ると現れた謎の鱗粉”エフェクト”、そしてそれらを知る風体の少女。
なんだあれは、どうゆうことだ、意味が分からない。ハクハツは完全に混乱してしまっていた。丁寧にしようと心がけていた口調もボロボロだ。
「巻き込んでゴメン、でも説明するのは後にさせて。”視覚効果の怪物”が生まれてるなら早く鎮めなきゃ」
「どうにかできるのか、あれを」
「もちろん。そのために東朱門にきたんだもん。あの門の向こう側にある祠に行けば何とかなる筈」
それは、無理じゃないか。とハクハツは思った。
苔の生えた岩壁に、埋まるようにしてそびえたつ朱色の門。
力を加えても空いた試しは一度もなく、鍵もない。故に東朱門は開かずの門、天岩戸のごとく神が住まうとまことしやかに囁かれていた。
いままで来た人々も、開けようと奮闘したが努力むなしく開かなかった。
その門に、どうやって入るというのか。
「手をはなさないで、目をとじて」
「わかった」
ここまできたら自棄だ。クロの言う通りに目をとじる。
するとどうだ。閉じたはずなのに目が見える。何かがおかしいが確かに見える。
木に茂る葉、ひたすらに密集する苔、緑に侵食されていた世界が途端に赤く変化した。
遠い昔、ハクハツは花火を見たことがあったが、そのとき緑の花火の中、瞼の裏に見えた色に似ていた。
東朱門はその多くの赤に隠されるように姿を消していた。
「ついてきて」
クロに手を引かれるままについていく。
東朱門の中は意外と簡素で、同心円状の空間がただ広がり中心に台座があるのみだった。
そして、クロが台座に近づき、黒杖を突き刺すと瞼の裏の世界が色を失った。
主に黒枠と白抜き、グレースケールで構成された世界へと変化した。
「もう目を開いても大丈夫。これで周囲の”視覚効果の怪物”はいなくなったはずだよ」
瞼を開くと何度も起きた色覚の異常は収まり、緑に溢れたいつもの風景へと戻った。
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