第2話 叫ビ

 全身ずぶ濡れになった僕は、近所の公園にある東屋あずまやにいた。風はほとんど吹いていないが、雨は弱まる気配がない。いつもより大きな雨粒が屋根の上で踊っている。都会の喧噪をかき消すほどの弾ける音が、考える隙を与えない。

 ここにいればひとまず安心だ。靴下どころではなくなったが。



 30分くらい前、僕は家を飛び出した。強い光を全身に浴び、湧き上がった感情を抑えられず、傘も持たずに。あの光はとても明るかった。進む道を決めた人々が放っている希望の光。そう感じた瞬間、部屋にはいられなくなった。


 ここへ来て30分ちょっと経っただろうか。家から公園までは約5分。実際は25分くらいここにいる。

 5分がちょっとにしか感じなかったのか……。何とも言えない気持ちになり、目を閉じて頭を下げる。頭の中は再び雨音でいっぱいになった。



 視線を感じる。

 そう思い目を開けると、太ももの間から小さなタンポポが見えた。さっきまで全く気づかなかった。鮮やかな黄色の花ではなく、薄くて白い綿毛。こいつが視線の正体だった。

 お前も大変だな、とタンポポに一言。すると、気のせいかもしれないが返事があったように感じた。

 何を伝えようとしたんだ? なぁ、もう一度言ってくれよ。

 声をかけたが返事はない。

 僕は心の中で叫んだ。

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