第4話 カムクラ







ーーー時間が無い。まずは応えろ。お前、私と誓約うけひしないか?ーーー










「は・・・?」


言っている意味が分からない。


ーーーお前と私である種、何かしらを誓い合う盟約のようなものだ。ーーー


誓約をご丁寧に説明してくれたところでさらに理解不能だ。




「な・・・ッ!?いや、そういうことが聞きたいんじゃなくってッ・・・!そんなことで俺になんの意味があるって言うんだ!大体、よく分からねぇやつと意味わからん契約をしろなんて、こんな状況の中でそんなこと簡単に決めれるわけが・・・!」




ーーーその条件とやらは『お前の死ぬ運命からの脱却』だ。ーーー




「ッ!?」



淡い光は言葉を綴る。



ーーーだが、お前を無条件で救ってやれるほどこっちにも力と余裕は無い。だから『代償』だ。ーーー



史は生唾を飲む。



「代・・・償・・・。」




ーーー簡単な事だ。お前の深層心理の奥に私が住まうこと、つまり一体化だ。ーーー




「はぁッ!?一体化だって!?まさかお前ッ!俺の自我を奪って自由に暴れ回ろうってとか思ったり・・・」



ーーーそれはお前の妄想力の行きすぎだ。少しはライトな小説の知識から脱却せんか?ーーー


「なっ!?お前なんでそんな物知って・・・」


わけも分からないこの時点でファンタジーな状況でそのようなワードが出てくること自体が不恰好極まりない。



ーーー今この停滞した世界に昏睡状態という形で働きかけている私は半分お前と同化しているようなものだ。お前の心ぐらい簡単に記憶の海馬から楽に引っ張ってこれる。例えばそうだな・・・。お前の性癖は・・・『おーーー





「わかったッ!!!わかったからッそれ以上言うのはやめろォぉぉぉぉおおお!!!!!!」








ーーーーーーーーーーー






どうにか淡い光を黙らせることが出来た。


「はぁ・・・はぁ・・・なんて恐ろしい力なんだ・・・ッ!」


そんな苦労な気にすることなく至って真剣に不躾な淡い光は提案してくる。


ーーーどうだ?お前は死の回避、そして私はお前を介してこの世を自由に見ていきたい。我々にとってお前の言葉を借りるとwin-winの関係ではないか?ーーー



「やけに流暢に言いやがったなおい。」


記憶からの切り取り、そして言葉としての適切なイントネーションまでが異常な速さだからなかなかに優秀な光に史もイライラとつっこむ。



そんな時ーーー



ピシッ・・・!!!


突然辺りの闇夜な空が割れて白い光が漏れ出てくる。


「な、何が・・・?」


ーーー・・・。時間が無い。急げ。ーーー



ここで初めて光は少し焦りの色を見せた。


「そんないきなり決めろと言われても・・・。」




ーーーめんどくさい性格だな?いいだろう、お前に単刀直入に突きつけよう。選べ。『孤独な死』か、『道連れの生』か。ーーー




「ッ・・・!」




ビシィィィィイ・・・ッ!!!



分からない。


確証もなくいきなり走馬灯に現れた何かに縋るなんて少年は都合良くできた人間じゃない。


(俺は・・・俺は・・・ッ!)


















ーーーーー


『ねぇねぇ!これ面白いね!なんて言う本なの?』


『へぇ〜?史ちゃんは歴史に興味があるのねぇ〜。』


(これは・・・母さん?)



最初はなんだと思ったが、よくよく見たら見間違うはずがない。


なんと懐かしい気分だろうか。


(俺が・・・初めて何か一つのものに明確な興味を持った時の・・・。)


握られていたのは・・・ある一冊の漫画だった。



小学校三年の春、とある南国の島に生まれた少年がよく外へ自分を連れ回してくれた母と言った図書館。


その一室で知ったことをしきりに話す過去の自分。


『そんなことも知ってるのね!ふふ。』


優しく頭をさすった母に少し照れながら嬉しかった。


『ねぇねぇ!なんでこの人の生まれた年って《?》なの?』


『それはね、まだわかってないのよ。』


『分かってない?』


『ええ。』


母は笑って答えた。


『歴史ってすごい昔の事だったりするとね?研究者たちが調べてもわかってないことも沢山あるの。』


『ええ〜つまんない。』


呆れて不満そうな顔の少年に母は再びその頭をさする。


『じゃあ、史が発見してみたら?』


『え?』


『ふふ、この人の生まれた年だって見つけたら大発見だー!ってなるし、有名になってまたさらに色々なことを調べたり知ることができるようになるのよ?研究者、大学の教授とかね?』


『え〜いいなぁ。じゃあ、俺もそれになる!』


『お金持ちになれないよ?』



『ええーーーーッ!?うーんうーん・・・でもなぁ・・・うん、わかった!』


『ふふ、どうするの?』


『じゃあお金要らない!うーん、やっぱり欲しいけど、俺はなんだ!』


高らかに宣言した少年に母は少し呆れたように優しく微笑んでいた。


『じゃあ・・・研究者になって何か発見したら教えてね?』







パリィィィィィィーーーーーーーーンッ!!!


















ーーーー





「ッッッッッ!!!!!!!!!!!!」



そうだ。


まだやりたいことが沢山ある。


こんな訳分からない展開で死ぬ訳には行かない。


(今では俺が興味を持てるものを探していた母の方便だったってことぐらい分かる。だけど俺は今も変わらず明かされていない、そして、偽られた真実を知りたい。だから・・・)


「なぁ・・・俺やるよ。誓約・・・。」



ーーーどうした。心境の変化か?私にとっては僥倖の限りであるが。ーーー


「まぁ、そんなところだ。だって・・・お前と結べば俺は『生きる』、そうだろ?」


光は興奮冷めやらぬとばかりに揺らめいた。





ーーーふふふふふふ。どうやらお前のを垣間見て正解だったようだな。そうだ。確約しよう。我が位階においてお前の生を確固たるものにしよう!今此処によって誓約は結ばれた!ーーー




どうやら狡猾な光の掌の上であったらしいが、今はそんなことどうでもよかった。



「お前のことは全然知らないし、今の状況もまだよく飲み込めてないけどさ、お前のことを巻き込んじまったようだし、こんな形になっちまったけど・・・よろしくな!」



ーーー案ずるな。言っただろう?『道連れの生』だと・・・な?ーーー


「ははッ、ははは・・・。なんか知らないけどお前って面白いな!超能力者かなんかか?」


ーーーふふふ、私自身もよくわかっていないが、これでも私はすごいらしいぞ?ーーー


「ははははははははは!!!なんだよ!すごいってさ!」




光も不敵に笑っているかのように口角が上がったかのように光の形状がやや歪んだ。


ーーーあとはそうだな。助ける方法なんだが、私の力の引き金になる入口が必要だ。ーーー


「入口?」


ーーー端的に言えばトリガーだ。そうだな・・・ちょうどいいものは・・・おおっ!この『木の棒』なんていいじゃないか!ーーー


「え"え"ッ!?」


なんと光が反応したのは史が持っていたあの『木の棒』であった。


ーーーなんだ。釣れない反応じゃないか・・・。不満なのか?ーーー


色々浮かぶ中で一番らしくないチョイスを選ぶとは思わなかった。


「い、いや〜なんか他に色々ないか?ネックレスだったり、腕輪とか指輪とか・・・。」


ーーーお前は普段そんなファッションを身につけているのか?ーーー


「う"う"ッ!」


間接的におしゃれをしないと指摘されてメンタルを抉りに来た。


「ははは〜俺はダメなんだ〜。心がおしゃれをするなと叫びたがっているんだ・・・。そんなファッションなんてしたらケバくて陰キャな俺は爆発するんですはいおしまい遠くから『アイツ急に色気づけやがって痛くね?』とか『デビューかよ乙ぅぅぅぅ』とか言われてクラスで浮いた果てにネット掲示板では『陰キャ・ざ・ぼっち!』で叩かれ気づけば社会現象で『悲報 ファッション×陰キャ 豚に真珠、陰キャが珍獣』とか言われて見事に心中とかくどくどくどくどくどくどくどくど・・・」



ーーー一体、どんな過去を辿ってきたのか逆に気になるな。お前の言葉で言うなかなかにセンシティブな内容に触れたらしい。ていうか最後の韻よやらは私には気持ちよく聞こえたのだが、そんなことはさておき・・・ええいッ!!!立ち直らんかいッ!!!ーーー



「へ、へいッ!?」



安定しない史の画角が一喝で元に戻った。



「はッ!?俺は一体何を!?」


ーーー茶番はそこまでにしろ。それによく考えてみろ。お前は素人とはいえ奴の剣をその棒で受けた時に見なかったのか?あの棒・・・鉄製の剣を受けたのに削れた跡が無い・・・。無傷なんだよ・・・。ーーー


「ッ!まじか・・・。」


どうやら、何も分からない中で唯一この棒は何か普通では無いことは確からしい。


ーーーまあ、私もその棒についてはよく分からんしそれを紐解くほどの時間的余裕は無い。

話を戻そう。具体的な方法だが、お前には色々私の力を貸し与えるだけの『器』がらまだ未成熟だ。だから一度意識と体の制御を私に預けてもらう。ーーー



「・・・。」




ーーーいや、だから違う。

なんだその顔は。ーーー


不本意にも真宙に訝しげな顔で両手を胸で交差する形で体を変態から守るような体勢とられた。



「体の制御とかなんだとか言われたからやっぱりそういうことだとじゃないと思ってても思わず・・・。」


ーーーはぁ・・・もう茶番だってわかっているから話を続けるぞ。

この空間は私の力であくまで時間があちら側と違って停滞したように遅く流れている。

そして私たちの頭上のひび割れはそのタイムリミットの具現化だ。

つまりあの男の刃がお前の頭に迫るものだと思え。ーーー


あの男が振り下ろす刃とひび割れは同義。

だとすると回避するための疑問を呈す。


「じゃあ、こっちからどう反撃に・・・」


ーーーそれは今はこっちに任せてもらおう。

いずれはお前に使えるようになってもらうが今はこちらの領分だ。ーーー


「いずれ・・・ね。」


ーーーまぁ、その力の詳細は私にも分からない部分がほとんどだ。できそうなことをやって切り抜けられそうって訳ではあるが・・・ーーー


(何それすっごく不安なんだけど・・・)




ーーー因みに体の制御と意識の強奪は10秒が限界だ。ーーー


「な!?そんな・・・あいつを俺が10秒で倒すなんて・・・。」


ーーー今の私たちの間に成り立っている関係は無償の信頼からしか成り立っていない。だか、私達だからこそただ『信じる』だけでいい。可能性を信じろ。ただひたすらに勝てるためのビジョンでも理論でもなんでもいいし何も無くてもいい。『』私たちが勝つ姿を。ーーー



「想像なんてそんな簡単に・・・」


再び夢をめざし始めた頃の自分が反芻した。


「はは、もう忘れてたよ。そうだったな。信じることでしか俺は今生きることができない。わかったよ。今はただ信じるよ。」




不敵に揺れる光。


史も不思議と恐怖と同じぐらい好奇心が高鳴っていた。



「なぁ、お前の名前は?」


ーーー名前か・・・そういえばそんなもの、自分でも分からないし考えたこともなかったな。勝手に好きなように呼べ。ーーー



「そうだな。可能性を信じるんならさ、とことん上の強さを目指していこうって意味で『カムクラ』なんでどうだ?」


「ほう・・・何故だか何たる懐かしい響きだ。『神座』・・・神坐し宿る聖点で『カムクラ』か。悪くない。」



二人は加速する頭上の崩壊と相対するーーー。











ーーーさあ、行こうか・・・我が同胞はらからよ!ーーー





「ああ・・・目にもの見せてやるぜ。俺の・・・俺とカムクラの可能性ってやつでな!!!」






そして崩壊する天井から溢れん光が視界を包んだところで万宙は意識再び手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月19日 00:00
2024年12月20日 00:00
2024年12月21日 00:00

群青の神座〜カムクラ〜 綴K氏郎 @Toaruk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画