第2話 未知なる古器旧物
「しばらく休めやしないかな?」
ギギギギィ・・・
「開いてる・・・。」
窓から木漏れ日が垂れ埃くささも感じない。
中には木像とかけられた刀。
「お・・・」
ふと驚き混じりに声が漏れる。
「お・・・・・」
想定外の展開に脳内の情報が駆け巡り傍受を完了した途端、
「おおおおおおーーーーーーーッ!?」
興奮冷めやらぬままに飛びつく。
「すっげぇー!かっこいい!なんだこれ!?」
木彫りの像は仏像だろうか。どこかはにかむ様な柔らかい笑み。
「高校ではアルカイックスマイルって言ったけ、こういう様式は。にしてもテスト勉強がためになるとは・・・・んん!?」
しみじみと思うのもつかの間異変を感じる。
「なんか釈迦像とか仏像だったりがつけてるシワがあるゆったりとした感じの服でもないしなぁ。おでこにあの点がなければ頭にブツブツが付いてないし。」
笑み以外は極めて異形であるのだ。
「腰に刀・・・なのか?なんかモヤが渦巻いているような・・・。部品がかけているのか?」
仏像は戦乱や安置された寺院の火災などによる不幸に伴って部品の欠損を起こすことは珍しくない。
「ん〜と・・・?これって仏像なのか?あんま仏像には詳しくないけどなんか違うってことだけは分かるんだよなぁ〜。」
しばらく考えては見たものの思い付く時代様式が分からない。高校で習った時代ごとの様式もいくつかあったはずだ。
「んーと、確かアルカイックスマイルって飛鳥時代の北魏様式で右腕と左腕はよく見たら繋ぎ目みたいな切れ目?もしかして弘仁文化の寄木造だから平安時代?あとは・・・胴体は・・・、奈良時代の一本造り・・・」
高校の日本史で習うあらゆる知識を総動員したが、
「時代の仏像様式がバラバラ・・・、いつ作られたのか分かんない。」
結論、分からない。
今凝らして見ればはっきり言うと気持ちが悪い。そんな雰囲気しかり、底が見えない不気味さ。
「まあ、俺専門職じゃないしいちいちここで迷ってても仕方がないよな。スマホとかで繋がったら調べるか・・・。」
パシャりと写真に収めた。
「ブヒッ、ブヒッ・・・・。」
「え?」
何やら懐かしい声だなぁと嘆息して帰ろうと後ろを見た。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「フゴッ!」
「ななななななななななななぁぁぁぁッ!?」
「フゴッ、フゴッ!ブヒィィィィッ!!!」
ドドドドドドドドド・・・・・
思わず沈黙してしまった真宙をしばらく嘲笑うかのように合わせていたイノシシが全速力で駆け迫る。
「なんでお前がいるんだよおぉぉぉッ!?」
ピキーーーーーーンッ!!!!!!!
突然後方から眩い光が覆う。
「な、なんだ!?」
振り向くと、少年の左手はたじろいだ拍子に木像らしい像の傍にあった剣に触れていた。
その剣からである。
(つ、剣から・・・光が・・・ッ!!!)
「クッ・・・!?」
ーーーーーーーーーーーーー
「・・・・、あ・・、痛たぁ・・・ッ。」
頭が割れるように激痛が走る。そんな最悪な心地から目覚めた。
「ここは・・・。」
周りを見渡してみると木が薫る風情あるお堂。
「俺は確か・・・」
ストーカーイノシシの再会に思わず恐怖で後ずさった後に記憶が曖昧だ。
(朧気だけど多分後ずさった時に何かに左手が触れた気がしたんだよな・・・。位置的には・・・)
恐らく立て掛けられた刀。
改めて史は辺りを見渡す。
どうやらさっきの御堂で間違いないようだ。
「ふう、どうやら何事も無かったようだな。」
安堵して立ち上がる。
「ん?そういえばこんなにここって綺麗だったか?埃っぽいかんじだった気がしたし。」
もう一度辺りを見てみる。
「仏像がない・・・。」
あのかっこよかったがどこか不気味な像がなかった。
「剣は・・・、ある。」
どうやら立て掛けの剣はそのまま佇んでいた。
「うわぁ〜、やっぱ、仏像無くなっちゃったし、俺は知らないけど伝えたほうがいいかなぁ。」
やはり、自分の目の前で無くなっただけに自身のせいでは無いが何も言わずに立ち去るのは一人の史跡を訪れている歴史学者志望として気が引ける。
「とりあえず、謝るしかない・・・か。」
ガラガラガラガラ・・・
先程とは若干開けやすい扉を開いて外に出る。
「はぁぁぁ〜、空気も空もこんなに澄んでるのにさ、俺だけ未来はお先真っ暗・・・。」
大目玉は避けられない事として、真剣な話、罰金だけはマジで避けたい。
親父をこれ以上泣かしたくない。
(・・・涼しいな・・・。)
真宙の前をそよ風が通り抜けた。
さっきまで気持ちを張り詰めていた分、風が気持ちよかった。竹林を駆け抜ける爽やかさも気苦労を癒してくれる。
「えっと、来た道はあっちか・・・。」
坂を上がる方へ行こうとした。
「ん?やっぱりかぁ・・・。」
道を確認するために坂を下る道を見る。
「稲荷社の道は何故かないんだよなぁ・・・。」
見間違えかと思い下まで降りてみたが、やっぱり脇道があったはずの場所にはまるで存在すら否定するかのように土で固められた畝肌があった。
「どうなってるんだ・・・ん?」
踏みつけていたところに違和感を感じる。
「これは・・・布切れ?」
破り捨てられたかのような単なる紫色の布切れだった。別になんと言って尖ったものも無い道端に捨てられているような詮無き存在でしかないが、妙に惹き付けられるような、手放す気にもなれないような、そんな無意識錯誤だ。
「すごいシワシワだなぁ〜・・・って、なんか付いてる。鉄臭い、これって・・・血!?」
背筋が凍りつく。
「そいつを渡してもらおうか。」
「え!?」
眼前には妖しく切っ先が輝いていた。
「その布切れを渡してもらおうか・・・。」
(ッ!?剣!?)
目の前にひんやりとこごわせる妖しき光。
「ひっ!?」
腰が脱力した。あや待たず後方に振り向き後ずさる形で倒れ込む。
「む、貴様、異様な風貌だな。何者だ・・・?」
「お、俺は・・・、」
名乗ろうとした途端に声が喉にでかかった。
(あれ・・・?そういえば俺、なんでこんな怯えてるんだ?普通に考えてみろ。真剣なんて持ってたら犯罪だし、もしかしたら映画の撮影かなんかの勘違いで・・・)
「おい、いつまで黙っている気だ。」
こうなった時にとる行動はひとつだ。
「い、いや〜、もしかして映画の撮影かなんかでしたらお、俺キャストじゃないんで人違いですよ〜?」
「・・・は?」
遮るように威圧された。とった行動が違ったらしい。
(な、ならば・・・これならどうだ!)
「き、きゃー、たぁすぅけぇてぇ〜〜〜・・・。」
「・・・」
場にこれまでに無く冷たい沈黙が走る。
「あ、あら?」
「き、貴様・・・。ふざける余裕すらあるようだな?」
剣士は剣に手をかけて怒りを顕にしている。
「死にたいなら殺してやる。まあ、どの道お前は口減らずで殺すつもりだったがなぁ!!!」
(ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!)
声にならない叫びも虚しく
半月の弧を描いて史の目の前に怪しく光が走る。
「おわぁぁぁぁッ!?」
後ろに再び尻もちを着くと股関節したに剣が突き立てられていた。
「ちっ!避けやがったか!」
(いやいやいやいやいやいやいやいや!思ってたのと違ぁぁぁぁぁうッ!?)
ここに来てようやく気づいた。
相手にとってこれは演技などという生ぬるいものでは無い。
「あ、ああ・・・」
その殺気、その剣筋の速さ、狙い筋、間違いなく自身を是が非でも殺さんとするための純悪な害意にほかならなかった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
身体の震えが語り掛ける。
『逃げろ』と。
『逃げなければ殺される』と。
史はつまづく様な無理な体勢で逃げ出した。
「待てッ、貴様ッ!」
古風な鎧の剣士は歪んだ顔で追いすがる。
「逃げ切れると思ってんのか!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
(ダメだぁぁぁぁ!いずれ追いつかれる!)
遠くからとはいえ徐々に相手が距離をつめてきたのがわかった。
「ッ!?」
そしてさらなる絶望がそこにはあった。
「道が・・・崩落してる!?」
境内から歩いてきた道が粉々に落ちていた。
「は、はは・・・、」
その場で崩れ落ちた。残酷な現状は容赦無く心を砕いた。
「もう、ダメだ。終わった・・・。死ぬ・・・、殺されるッ!」
眼球の照準が合わない。目も涙で霞んできた。
自分は殺される・・・その予感を信じて疑わなかった
ーーー〜〜〜〜~~〜~~~〜~!!!ーーー
「え・・・?」
・・・はずだった。その時までは。
ーーーーーーーーーーーーー
こんにちは、綴です。
別作品である「テンゲンッ!転生源氏英雄伝」を連載投稿しているのでぜひそちらの方もご覧いただけると嬉しいです。
舞台は平安時代末期から鎌倉時代の作品ですが、どなたでも歴史に優しく触れより楽しんでいただけるようなものにしていくので、気になった方は一度お読みになってくれると幸いです。
感想、ご意見、誤字脱字のご指摘もコメントで気軽にして頂けると励みになるのでこれからの拙作をよろしくお願い致します。
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