第15話「トリプルチーム!!」

 第1試合の赤対青は、思っていたよりもはるかに、青の一方的なものとなった。どうしても涼哉と信長が大志を止めることができなかったのだ。

 大志はガンガンとドライブで切り込み得点を量産した。また、カバーが早く寄るようになったら、今度は四方八方自由自在にパスをさばいてアシストを稼いだ。綾羽は綾羽で持ち前のディフェンス力を見せ、信長からボールを奪って何度も速攻を決めた。ハーフコートオフェンスでも、信長のディフェンスが少しでも離れていればいつでもジャンプシュートを狙い、近すぎればドライブで抜き去る。この2人に関しては、まさにやりたい放題だった。

 負けていられないと赤も一生懸命に攻めた。特に蓮は、最後まで諦めず果敢に得点を狙った。しかし、残念ながら蓮のマッチアップ相手は深であった。完膚なきまでシャットアウトされ、最後の方は見ている方が辛くなってくるくらいだった。

 最終的に43-6で青が勝利したのであった。

「青やばぁ……」

 誰かがそう呟いたのが体育館に響いた。そのくらい体育館は静かになっていたのだ。誰もが思っていた以上に、青は強かった。怜真も、あれほど意識していた次の緑との試合を一瞬忘れてしまったほどだ。隣を見れば、いつも通り無表情の相志郎がいて、すごくホッとした。

 次は自分たちの試合だ。すでに試合までの8分間は減り始めている。怜真は切り替えてシューティングに向かった。

 黄は試合開始までの全て時間を各自のシューティングに使った。先ほどのアップでせっかく温めた身体が、赤対青の試合の間にすっかりからだ。一方、緑は残り4分で切り上げ、また悠仁を中心に円陣を組んでいた。

 1分前になって美静が笛を吹き、整列を促す。黄と緑のメンバーがセンターサークルを挟んで向かい合う。もう一度笛が鳴って、お互いに礼をした。

 それからセンターサークルの中に相志郎と正義がそれぞれ入る。美静が2人の間からボールを打ち上げる。最高到達点から落下するボールを相志郎が余裕をもってはたき、陽樹の手元に落とした。

 第2試合、黄対緑は黄ボールから始まった。

 陽樹がドリブルをつきながらハーフラインを越えた。それにかなり緩いディフェンスでついているのがまさかの倫。左ウィングの怜真に対しては一応想定内の悠仁。右ウィングの遥也にはこれまた想定内の晴。ローポストに降りている相志郎には予想通りの正義。そしてハイポストより少し低いところで回りを見渡している幸にはまたしても予想外の昭。怜真には実に奇妙なマッチアップに思えた。

 幸のところで一応ミスマッチができているが、思っているよりも大きな差はないのかもしれない。昭の激しいボディチェックを嫌って、幸はハイポストでポジション争いをするのをやめてローポストに降りてしまった。

 少しもったいない気もするが、別に焦る必要はない。次の攻めで幸を使ってみればいい。ここは当初の作戦通り、間違いなくミスマッチが生じている相志郎を中心として確実に1本取りに行く。チームの意思が決まった。

 相志郎はハイポストでいとも簡単に面を取った。見れば正義はなすすべなく、完全に相志郎に抑え込まれている。陽樹はそこへバウンズパスを出した。

 ——相志郎と正義の1対1で、相志郎が簡単に2点を先制する。それから緑が——悠仁が仕掛けてくるのを見よう。怜真はそんなことを考えていた。

 しかし、悠仁に対してそんな後手に回った駆け引きを描いている時点で間違っていたのだ。

 相志郎が陽樹からのパスを受けた瞬間、

「プレスッ!!」

 怜真の目の前で悠仁が叫んだ。そして正義、倫、晴が一気にボールへと飛び掛かった。

「相志郎さん! トリプルチーム!!」

 怜真は驚きながらも相志郎に伝えようと叫んだ。しかしながら、想定外も想定外で、相志郎はひどく動揺してしまった。そして普段の相志郎には決してあるまじきことであるが、焦った結果ふわりとしたパスをそのまま陽樹に返してしまった。

 当然それを読んでいた悠仁がボールをカットすると、そのまま空中で身体を反転させ、

「昭っ!」

 すでにファストブレイクのために走っていた昭に向かって投げた。パスはドンピシャで、昭は完全にノーマークでレイアップシュートを決めた。

 そこから、黄のゲームコントロールは少しずつ壊れていってしまった。まず、相志郎が完全に切れてしまったのだった。冷静さを取り戻すどころか、ミスを取り返そうと余計に焦ってしまい、さらにミスを重ねてしまった。挙句の果てにはチャージングまで取られてしまう始末だった。また、正義は実にいやらしいオフェンスをする。ちょろちょろと動き、スクリーンプレイを何度も繰り返す。そしてリバウンドをとにかく頑張る。正義のプレイにフラストレーションを溜めた相志郎は、ファールを重ねてしまい、気づけばものの数分で4つも取られてしまった。そこでやっと相志郎は落ち着いたが、時すでに遅し。あと1つファールを取られると退場になるので、相志郎のディフェンスは委縮してしまい、ペイントエリアは正義の独壇場となったのだった。

 怜真や遥也が苦し紛れに何とか得点をもぎ取るのに対して、緑は正義が実に簡単に得点していく。得点差にこそ現れていないが、戦況は圧倒的に緑が優勢だった。

 流れを何とか取り戻そうと、黄はとにかくなんとかして正義を止めようとした。そのために相志郎のカバーにすぐに行けるよう、それぞれが内に寄ったディフェンスのポジションを取った。しかし、そうなると今度は倫と晴のアウトサイドのシュートが絶大な効果を発揮することになった。

 悠仁はあえて一度正義にボールを入れ、ディフェンスを集めてから外に展開させた。時にはあえて何度も内外の出し入れを繰り返したりもしていた。

 その結果、黄のメンバーは心理的にも肉体的にも疲労していった。その疲労はディフェンスの強度だけでなく、当然得点力も奪う。そしていよいよ得点差が14を超えた。

 あっけなくも黄は、緑に負けてしまったのであった。


「本当にすまん。俺が悪かった」

 試合終了後、開口一番に相志郎が謝った。

「別に相志郎だけの責任ちゃうよ。俺もなんもできひんかった」

 遥也は別に相志郎をフォローするつもりでいったわけではなさそうで、ただただ悔しそうだった。遥也の言葉に同調して、幸と陽樹も頷いた。

「それに何より、晴に負けたんが死ぬほど悔しい」

 それに同調する者は誰もいなかった。しかし、遥也はさっきよりもはるかに悔しそうだった。怜真は取り合えず無視することにした。

「悠仁は最初から相志郎先輩を狙ってたんでしょうね」

「完全にあいつの手のひらの上やったわ」

 相志郎は、次の試合の準備のためにミーティングをしている悠仁の方を鋭く睨みつけた。相志郎がここまで感情をはっきりと見せるのは珍しい。それほど悔しかったのだろう。

 第3試合は、赤対緑である。

「とりあえず皆さん、切り替えていきましょう。次も強敵です」

 怜真がそういった瞬間に笛がなった。怜真たちは円陣を解いて、得点板をするためにそちらに移動した。

 第3試合が始まる。

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