第12話「そういうわけって、どういうわけ?」
入学式の次の日である4月2日は、始業式だ。怜真たちは高校2年生に進級した。
2年のクラス分けには1年の進路相談で決定した文理選択の結果が反映される。理系である怜真、倫、陽樹、信長、太陽は1組になった。
教室に入ると、ニヤニヤしながら陽樹と信長が近づいてくる。
「おう、怜真! 今年はおんなじクラスやな!」
「ああ、残念ながら」
「何言うてんねん! 嬉しい癖に!」
1年の時に同じクラスだったバスケ部員は、倫だけだった。そのせいで、倫以外の部員がクラスにいることに、少しだけむず痒い気分になる。
「あ、ハリー!」
教室の後ろのドアから入ったきた太陽を信長が見つけて、手を振った。こちらをみて笑顔を浮かべながら太陽が向かって来た。
「おはよう。今年は怜真も同じクラスなんやな。よろしく」
「うん。でもなんか変な感じする」
「確かに。去年は授業とかでも一緒なことなかったしな。そういえば、さっき悠仁に会ったんやけど、悠仁ら文系組もみんなおんなじ4組らしいで」
「そうなんや」
古倉高校は女子比率が高いこともあって、普通科は1組が理系クラス、2組が文理の混合のクラス、3組、4組が完全に文系のクラスという構成になっている。そのため文系の場合には、異なるクラスになる確率が高い。しかしながら、偶然にも文系の深、悠仁、昭、秋寿は4組で同じクラスになったようだ。
「それにしても深が文系ってなんか似合わへんよな」
陽樹が言ったのに信長が呼応して、
「なんで文系なんか、怜真は知ってる?」
「聞いたことないけど、でも別に文理とかどうでもいいんちゃう? 深って高校の勉強は文理問わず一通り終わったって言ってた気がするし。知らんけど」
「「「あー」」」
3人の返事がハモった。
「それやったら、何で文系なんやろうな?」
「進路とか関係してんちゃう? 大学は文学部とか法学部とか」
「意外と好きな子が文系やからみたいな理由やったりしてな」
「信長お前、それはないやろ」
「わからんで? 天才の考えることは一周回って常人に返ってくるかもしれへんやん」
「まあ確かに女子多いから文系は一瞬考えたけどなぁ」
「でも深は陽樹と違ってめっちゃモテるやん。去年も他クラスから深に会いに来てる女子とかアホほどいたやん。深が片思いとか絶対ないやろ」
「わからんで? 意外と奥手なんかも? あとさらっと俺を傷つけるのやめへん?」
「思ったで! 奥手やったらめっちゃいいよな! 少女漫画とかにありそう!」
「お前、少女漫画好きすぎやろ」
3人が雑談を始めたので、怜真は一旦荷物を置きに自分の席に向かうことにした。
席に着くと自然と倫のことを探してしまう。どこにもいない。ということはまだ来ていないのだろうか。確かに、来ているのであれば信長たちとしゃべっているところに合流してくるはずだ。
適当に周辺のクラスメイトに挨拶をしていると、新しい担任が入って来て、始業式のために体育館に移動するよう指示が出た。倫の席を見ると、いつの間にか荷物が置いてあって、その姿はなかった。すでに移動したのかもしれない。陽樹たちもいなかったので、怜真は周囲のクラスメイトと一緒に体育館に移動した。
始業式では、校長の長話——怜真の体感的に、中学の頃の校長よりは遥かに短いが——の後に、進路指導部長の校長を凌ぐ長話があった。こういうところが古倉高校が自称進学校たる所以な気がする。怜真は古倉高校のこういうところが唯一好きではない。単に怜真が勉強嫌いなだけだが。
2つの長話が終わると体育館から教室に戻る。その途中で倫に声をかけた。
「倫、待って」
「……ああ、怜真。おはよう」
一瞬倫が振り向くときに躊躇したように見えたのは気のせいだろうか。
「なんで先に行くんよ」
「いや、普通に、そういうわけじゃなくて」
「そういうわけって、どういうわけ?」
「別に、言葉の綾。というか今年も同じクラスやな」
「うん。よかったわ。まあ理系選んだ時点で問題ないと思ってたけど、ワンチャンちゃうかったらどうしよかなって思ってたから」
「そやな」
今日の倫はテンションが低いみたいだ。そういう日もある。去年も度々あったから別に気にしていない。
適当に会話を交わしながら教室に戻ると、すぐにロングホームルームが始まった。そこでは主に委員会やクラスの係決めが行われ——ちなみに怜真はなんだかんだで体育委員になった——、最後に大掃除をして今日の授業は終わった。
しかしながら、部活動を嗜む者たちにとっては、ある意味これからが本日のメインイベントだ。部活動紹介のレクリエーションである。
体育館に集められた新1年生の前で、各部持ち時間3分の間に自由に自分たちの部活動を自由にアピールするというものだ。
今年は涼哉と悠仁が部活動について話しながら、琉瀬、相志郎、深、綾羽、怜真が後ろで実践し、バスケの魅力——主にかっこよさを知ってもらうというものであった。
結果から言えば大成功だった。特に、最後に深がバックコートのフリースローラインという超遠距離からシュートを一発で決めて見せた所では、興奮した女子生徒が何人か泣き出してしまっていたほどだ。
そういうわけでバスケ部の体験入部には大量の生徒が押し掛けた。もちろん、マネージャー志望の女子生徒で。この問題については、海野がブチ切れたおかげで瞬時に解決した。みんなビビってどんどん去ってしまったわけだ。
それでも残った2人の生徒が、海野の面接を経たのちにマネージャーとして入部した。ブチ切れていた海野も、入部した2人のマネージャーが優秀そうだとわかった途端に機嫌がよくなった。
ひとりは、プロバスケに魅入られて昔からバスケが好きだが、自身の運動神経の悪さを理由にプレイヤーはもとから諦めて、マネージャーとしてバスケに関わってきた女子生徒、もうひとりは、同じく運動神経が壊滅的でプレイヤーとしては無理だと中学の部活で悟ったが、バスケが好きだから何か違う形でも関わっていたいという男子生徒であった。
一方、プレイヤーの方はというと、これまた勧誘の効果もあって始めこそ大勢の入部希望者で溢れた。しかし、練習の厳しさ、レベルの高さに諦めるしかないというのがほとんどで、最終的に残ったのが6人だけであった。ただ、これはこれで精鋭が集まったという風であった。
体験入部が終了し、本入部が確定した金曜日の練習終了後、先生が部員を集めて改めて新入部員に挨拶をさせた。先に女子部員から始まり、それから男子部員へと移った。
「それじゃあ次は男子。名前を呼ばれたら名前と軽い自己アピール、意気込みをお願いしよかな。まずは山本君」
入部届を受け取った涼哉がそれをめくりながら、ひとりずつ指名していく。
「はい。山本
「はい、ありがとう。功徳も言ってくれたように、功徳は男バスのマネージャーではなくて、バスケ部のマネージャーとして活動してもらうことになります。なんで、ちょっと俺らとは行動のタイミングがずれることも多いかもしれへんけど、俺らならそれでも仲良くやっていけるよな?」
「当たり前じゃないですか」
「お、悠仁。即答してくれて嬉しいね。だから功徳、大丈夫やで。よろしくな。じゃあ次、
「はい。二敷
「期待の大型新人やな。俺は小型キャプテン(物理)なんだけど……」
「(器)の間違いでは」
「おい、誰や今ゆったやつ!」
「はい、キャプテン。僕です」
「深かよ! てかお前白状するなよ! 告げ口するパターンはあるあるやけど、自白するパターンは初耳やぞ! 次!
「はい。上井
「かたいなぁ。もっと砕けていこうぜ。じゃあ次は
「はい。烏丸
「これまた嬉しいこと言ってくれるね。よろしくな! じゃあ次、
「はい! 四條
「短い! けど元気がよくて大変結構! 次、
「はい! 大川
「宝と同じくらい元気! いいねぇ。センターからフォワードってことは、うちの相志郎とは逆の道筋をたどる感じかな? 相志郎も中学の頃はウィングやったもんな?」
「…………うん」
「相志郎は幸から元気分けてもらおっか。じゃあ最後、内田君」
「はい。内田
「え、それ悪役じゃない?」
「あるいは、ばいき〇まんです」
「やっぱり! 典型的な『悪』やん! 君の名前は『正義』やのに!」
「よろしくお願いします!」
「なんか納得いかへんけど、よろしく!」
これで新入生の自己紹介は終わった。
「みんなありがとう。最後に先生、お願いします」
涼哉の言葉で椅子に深く腰掛けていた海野は立ち上がった。
「うん。涼哉ありがとう。じゃあ締めとして、私が常に心掛けていることを新入部員の皆さんに、そして上級生にも改めて、伝えておきます。それは、勝つことは一番の目標じゃないってことです。部活動は学校の活動の一部です。ということは、部活動を通じて——ここはバスケ部ですから、バスケを通じて——、皆さんにはたくさん学んでもらわなければならないのです。バスケの技術や試合に勝利することは、学ぶべきことのほんの一部にすぎません。他にもたくさん学んでもらわなければなりません。そういうわけでそのような『ほんの一部だけ』にこだわるようなことはしません。あなたたちのバスケの上達よりも、チームの勝利よりも、もっと大事なことがあります。少なくとも私はそう思っています。しかし残念ながら、私は未だに『それ』を言語化することができずにいます。ですのではっきりとした言葉で皆さんに伝えることができません。ですから、皆さんには自らの身をもって、経験をもって学んでほしいです。たくさん学んでください。
他方で、『勝ち負けなんてどうでもいい』と言っているわけではありません。相対的に勝ち負けよりも大事なことはありますが、絶対的に勝ち負け自体は重要です。生存競争で溢れている世の中を見れば一目瞭然でしょう。ですので、私は自分に出来る最大限で皆さんを勝利に導こうと努力します。皆さんもそれに応えてくれることを期待しています。以上」
涼哉の合図で全員が「ありがとうございました」と頭を下げてから、
「それじゃ、明日からインハイ予選まで、全員で頑張っていきましょう!」
『はい!』
その日は締めくくられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます