第6話 もうひとつの追放 1/2




サングラニト王国を出て五日目の朝、ティーレマンス王国の王都ティーレマンスに無事辿り着いた。



王都の入り口には、街へ入るための検問が行われていて、行列を作っていた。


私も列に並ぼうとするが、検問所の騎士がこちらに気づき、手招きをしてくる。



手招きした騎士は顔見知りで、私が勇者パーティーの勇者であることを知っていて、いつも検問所を並ばずに通過させてくれる。




「いつもすいません」

「なーに、勇者様に並ばれるとこっちが困るからな」


騎士は笑顔でそう言うと、関係者のみが使える扉を開け、検問所を通してくれた。



検問所の先には、王都の街並みが広がっていた。


隙間がないほどの間隔で建物が建てられ、家屋以外にも商店や教会、冒険者ギルド等があり、中央通りの先に聳え立つ王城が見える。


行き交う人も多く、繁華街では身を縮めなければ通れないほど密集している。


何度来ても、王都、って感じがしてしまう。




今日は、他のパーティーメンバーと一緒に、前回の戦果報告と次回の討伐対象を確認するのが目的だ。


パーティーメンバーは私を入れて4人。

その内、1人はこの国の第三王女で、もう1人は騎士団長のため、待ち合わせなどなくいつも王城で集合となっている。



王城までは徒歩20分ほど。


普通、王城へ行く際は馬車を使うのが一般的だが、王都では馬車も渋滞してしまうため、私はいつも歩いて向かっている。




20分歩いて王城の門前に着くと、入口の騎士に約束している旨を伝え、身分照会をしてから入城を許可された。


王城の入口まで来ると、騎士2名が待っていて、そのまま謁見の間に連れて行かれる。


通常は控室で待ち、時間になってから謁見の間に向かうのだが、前3組の謁見が早く終わり、国王と王妃が待っているということであった。




「勇者、マルティナ•プリズム様がいらっしゃいました」

「入ってよし」


謁見の間に入る前のいつもの掛け声?が終わると、謁見の間に入った。



謁見の間には、国王と王妃、それと宰相や大臣、執事がおり、他のパーティーメンバー3人は既に玉座の前で待っていた。



「マルティナ、遅れて登場とは、良いご身分だこと」

「まったくだ」



慌てて玉座の前に来た私に嫌味を言ってきたのがパーティーメンバーの1人、この国の第三王女、ティエル•ミル•ティーレマンス。


そして、「まったくだ」と国王や王妃に聞こえない小声で言ってきたのがもう1人のメンバーで騎士団長のマークだ。




「早まっただけなのに•••」



今、そう言ったのがこのパーティーで唯一仲間と呼べるメンバーで回復魔法使いのルイファ。




「よいのだ。勝手に早めたのはこちらなのだからな。それに、大して待っておらぬ」



玉座に座る国王の横で、王妃であるマニーシア•ミル•ティーレマンスがその場を一瞬で鎮める凄みのある声で言った。


この国は実質、国王であるタバーニ•ミル•ティーレマンスではなく、王妃であるマニーシアが実権を握っている。




「それではティエル、早速戦果の報告を」

「畏まりました」



ティエルは横一列で並んだパーティーメンバーの前に出ると、実母であるマニーシアに報告を始めた。




「今回は、王都より馬車で8日程の距離にあるミラーネットの近郊に発生したワイバーン(A )を25体討伐しました」


「ほう。ワイバーン(A )とは、また厄介な敵であったな」


「はい。ですが、私とマークにかかれば何の問題もございませんわ」




実際は全て私が倒しているのだが、ティエルはいつも自分とマークと言って報告をするのだ。


ただ、今回の敵は、今までの敵と『強敵』という共通点以外に、異なる点があった。




「ワイバーン(A)は今までの敵と違い、空を自在に操るという。どのようにして討伐したのだ」



実質実権を握る王妃マニーシアは、すかさずそこを突いてきた。



「それは•••、その•••」



倒した私なら答えることはもちろんできるが、ここで答えることは憚れた。



なぜなら、謁見の前での虚偽は、即刻、死罪となるためだ。

例え第三王女であっても例外はない。


既に自ら討伐したと虚偽を働いている以上、私が倒し方を教えてしまえばどうなるか•••。



ティエルが処罰の対象になるのは構わないが、ティエルが適当な嘘を並べて私が虚偽罪にならないとも限らないのだ。




「本当にお前とマークで倒したのか?」


「も、もちろんです。そもそも、ルイファは回復魔法を使いとして貢献してくれますが、そこにいるデブ勇者はただの飾りで、戦っているとこなど見たこともありません」


「ほう」




ほう


私も心の中で王妃と同じ台詞を言った。



戦ったとこを見たことがないのは、寧ろこちらなのだが•••。

それに、戦うところを見たことがないのは、お前とマークがテントの中で一晩中お楽しみだからだろう、と思わず喉元まで言葉が出かかったが堪えた。




「勇者が仕事をしていないと、それは真か?」


「はい。本来ならばその見た目から•••、いいえ、本来ならばパーティーからの追放も当然なくらいの実力ですわ」



マニーシアは真っ直ぐ私を見つめ、何かを考えているような表情を浮かべる。


マニーシアは賢く聡明だが、自分の娘に甘いところがあるのが唯一の欠点だった。




でも、これは追放されるチャンスだな。

この国の勇者パーティーに所属していても、お金も貰えないし、固執する必要はどこにもない。



「マルティナよ。私はお主から強者特有の何かを感じているのだが、実際はどうなのだ?」


「ティエルが私の戦いを見ていないのは本当ですよ。そちらはそちらで、いつも夜通し激しいですから」


「ん?二手に分かれて討伐していると言うことを申しておるか?」


「いいえ、そういう意味ではありません。ただ、ひとつ言えるのは、私はこのパーティーにはもう必要ないと言うことですかね」


「「なっ!!」」




私の発言に、王妃のマニーシアも驚きを見せるが、それよりも大きな反応を見せたのはティエルとマークだった。



「飾りと言われた私が勇者を名乗ることを、国民は納得しないでしょう」


「う〜む」



マニーシアは、右手で頭を支えるような体勢をして、この日、1番難しい表情を浮かべた。




「勝手に抜けるなど、絶対に許さない!!」


「どうしてでしょうか?」



ティエルが怒気を含んだ顔で言ってきたので、私は普通に聞き返した。



「どうしてって、魔物の相手はどうするのよ!?」


「??ティエルとマークでやれば、何の問題もないのでは??」


「くっ」



私とティエルの会話を聞いていたマニーシアが訝しんだ顔でこちらを見てくる。



「ティエル、ここが謁見の間ということを忠告し、もう一度聞く。魔物の討伐はお前とマークで行ったのだな?」


「•••はい」




今までのことが虚偽であったことを認めるわけにはいかないティエルは、静かに返事をした。



「本当だな。信じてよいのだな?ティエル、それとマークよ」


「は、はい•••」

「はい•••」




2人が返事をしたところで、マニーシアは私を見つめ、微かに微笑んでこう言った。



「今までご苦労であったな。今日この場をもって、勇者の任を解くとしよう」




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