第5話 家と体重の秘密と、クロエの思い




クイーンテリルバード(A)を倒し、サングラニト王国の第一王女クロエと騎士達を助けた私は、順調に馬車を進めていた。


このまま行けば、明日にはティーレマンス王国の首都ティーレマンスに着きそうだ。




それからしばらく進んだ所で日が落ち始めたため、街道から少し外れた林の中で野営の準備を始める。


野営の準備と言っても、『亜空間収納』の中に最初から格納されていた『家』を出すだけだ。



この『家』は2階建で、1階はキッチンと広々としたリビングダイニング、お風呂とトイレがあり、2階には私の寝室とあと3部屋空いている部屋がある。

外側には馬小屋も完備されている。


初めてこの『家』を出した時、あまりの大きさにその場に尻餅を着いてしまった。




それと、この『家』は少し変わっている。


まずキッチンはスイッチを押すと火が自動に着く。この世界では薪を焼いて火を起こすため、このような仕組みは聞いたことがない。



次にお風呂とトイレだ。

なんと、お風呂はいつでもお湯が出るし、トイレもどういう仕組みなのか水を流せばいつでも綺麗な状態だ。


この世界のお風呂は薪を焼いて水を熱くするもので、そもそもお風呂は王族や貴族の家にしか備え付いていない。


私を含めた庶民は、体を拭くか、井戸の水を浴びるくらいだ。



トイレに至っては、王族、貴族、庶民関係なく汲み取り式•••。



だからこそ、この『家』はおかしいと思っている。確かに便利で、もうこの『家』なしでは生きていけないかもしれないが•••。



そういえば、初めて『家』を出した時、頭の中で《悪神様から異世界のお家をプレゼント》という声が聞こえたな•••。




まあ

深く考えてもしょうがない。


今は『鳥の唐揚げ』を作らなければ。




適当に切り分けたクイーンテリルバード(A)の肉に醤油とニンニクを塗す。


因みに、この『醤油』という調味料、『異世界料理レシピ』に載っていたのだが、作るのに長い時間かかった代物だ。


最初は発酵という、まったく未知の工程にレシピを訝しんだが、今となっては醤油のない人生は考えられない。




お肉を漬け込んでいる間、今度はお米を研ぎ、炊く準備をする。


と言っても、この『家』に備え付きの『炊飯器』があれば、スイッチひとつで簡単に作れる。




ここで、お米に纏わる嫌な記憶を思い出してしまう。



こっちの世界では、お米は家畜の餌となっており、レシピを信じて初めて白いご飯を作った際、ミーシアとアリナタに



『家畜の餌を食べるなんて、あなたは人間なのではなくて、豚なんじゃなくて?』



と冷たく言われたのだ。





人を豚扱いしたにも関わらず、その後、2人も白いご飯の虜になっていたな。





私は嫌な記憶を忘れるべく、漬け込んでおいたお肉を油で揚げていった。


『鳥の唐揚げ』が完成したと同時にお米が炊き上がり、1人の夕食を始めた。




「う、うまい!!何度食べてもうまい!!」




私は『鳥の唐揚げ』20個と、ご飯を2杯、あっという間に平らげた。


因みに、『鳥の唐揚げ』は全部で200個近く作っていたため、余った分は『亜空間収納』に仕舞っておく。


こうすることで、腐ることなく、出来立ての状態で保管されるのだ。




さて、夕食が終わったところで、体重の確認だ。



夕飯で摂取したカロリーは約2,000キロカロリー。



頭の中でステータスを開くと、今日消費した▲2キロ分の体重が戻っていた。




体重:88キロ→90キロ(+2キロ)




この90キロが私のベスト体重だ。

ベストというか、90キロ以降、どんなに食べても増えない。


だから、1番体重の蓄えがあり、スキルを1番使える状態の90キロがベスト体重だと思っている。



体重が戻ったことに安堵し、私はお風呂に入って就寝した。











▷▷▷▷クロエ◁◁◁◁







私はサングラニト王国の第一王女、クロエ•リル•サングラニト。



今日は17名の騎士を連れ、王都周辺の街を回り、魔物の被害状況を確認していた。


なぜ、王女自らがそんなことをしているのか、それは私自身の性格もあるが、妹で第二王女のミーシアが勇者パーティーに配属されたことが1番大きい。



本来なら私が勇者パーティーに所属するはずだったのに、ミーシアは国政が一切できないため、勇者パーティーに回されることになった。



マルティナ様のお傍にいることが叶わなくなった私は、少しでも勇者パーティーとの関係を築くため、街の被害状況を調査し、次の派遣先の提案を行なっている。




いつも私を助けて下さるマルティナ様。

優しく声を掛けて下さるマルティナ様。

王女としてではなく、クロエとして接して下さるマルティナ様。




いつの間にか、私はマルティナ様をお慕いする様になっていました。




それなのに•••





『申し訳ありません。万が一にも契約に触れるとまずいため、今は、何もお話しできません』



『ミーシア•••、いいえ。サングラニト王国第二王女様に聞いて下さい』





それだけ言って、私の顔を見ることなく行ってしまった•••。




自然と私の瞳から涙が溢れる。



好きな方に見てもらえないことは、こんなにも悲しいことなのですね•••。





ですが、私は諦めません。




急いで城へ帰り、ミーシアに事情を聞かなくては•••。



私は急いで城のある王都へ向かった。





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