第7話 もうひとつの追放 2/2
「我儘を聞いていただき、ありがとうございます」
「あ、あの!!それでしたら私の任も解いていただけないでしょうか?」
私は会話に割り込んできたルイファの方を振り向いた。
ルイファは意を結したような、普段大人しい姿からは想像できない、凛とした表情をしている。
「それはならぬ。ルイファは貴重な回復魔法持ちであるからな」
「回復魔法と言っても、私がこれまでに行ってきたのは、現場に向かうまでに負った擦り傷を回復していただけです!!」
ルイファの言う通り、敵は全部私が倒していたのだから、誰かが怪我をするわけもなく、移動中に負った擦り傷を回復していただけであった。
「そうなのか?」
「はい。嘘は申していません」
マニーシアは、ティエルとマークに目線を移すと、2人は罰が悪そうに頷いた。
「そうであったか。ならば、代わりの回復魔法使いを探すまでの間だけ続けてもらえぬか?」
「分かりました。代わりが見つかり次第、任の解除をお願いします」
ルイファはそう言いながら私の方を見て、片目を閉じて見せた。
私同様、ルイファも仲間と思ってくれていて、後を追ってくれたということなのだろうか?
正直な気持ちとしては、嬉しいの一言だ。
ティエルとマークがテントを占領し、夜通し楽しんでいる最中、ルイファは私と一緒に魔物討伐について来てくれていた。
もちろん、倒すのは私だが、「すごい!!」「大丈夫?」「カッコいい」と色々と声を掛けてくれ、気遣ってくれたのだ。
「戦果報告は終わりとし、次に次回の討伐計画の話に移る。マルティナ、お前は退室してよいぞ」
ルイファのことを考えていた私は、マニーシアの声で我に返った。
「お、お待ち下さい」
「マーク、どうしたのだ?」
「その偽勇者が使っていた剣を私に譲るよう命じて欲しいのですが•••」
「何!?剣だと!?」
マニーシアが私の腰にある剣に目を向けたので、鞘に収まっている状態のまま手渡してあげた。
マニーシアは鞘から剣を抜き、まじまじと見るが、見るにつれて顔から力が抜けて行く。
「期待した割には、普通の剣だな」
はい
どこにでもある、普通の剣です
「その剣があれば、もっと魔物の討伐が効率的にできます」
「この剣で!?」
マニーシアが疑うのはもっともだ。
どうやらマークは、私が魔物を討伐できる理由が剣にあると思っているらしい。
「しかし、これは王国から献上したものではなく、マルティナ個人の私物だ」
「ですから、私に譲るよう王命を」
直接私に頼むのがそんなに嫌なのだろうか?
どこでも買えるたかが1,000Gの剣に対して王命!?
「条件を飲んでいただければ、差し上げますよ」
「何!!偽デブのくせに条件だと!!」
「マーク、それにティエルも。先程からの暴言、さすがに見過ごせぬぞ」
「「わ、分かりました•••」」
「して、マルティナ。条件とは?」
「はい。パーティー追放に関する契約書を交わさせて下さい。もちろん、そちらに有利な条件で構いませんので」
「な、何だと!!」
「何ですって!!」
マークとティエルが王妃の前であることを忘れたかのように狼狽、大きな声を上げた。
この2人の反応からすると、討伐がうまく行かない時は、温情とか恩赦とか言い、私をパーティーに戻すつもりだったのだろう。
幸い、契約の取り交わしが一般的なこの世界で、驚く2人を他所にマニーシアは意に介していなかった。
私は目の前に契約書データを表示すると、素早く作成し、マニーシアに提出した。
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◇契約内容◇
ティーレマンス王国の勇者パーティー追放に関して、今後、いっさいお互いに関わらない。
※他の王族、第三者を通じた関与も認めない。
◇契約破棄条件◇
〈マルティナ•プリズム〉
これまでの討伐に対し、ティーレマンス王国第三王女、ティエル•ミル•ティーレマンスが謁見の間で真実を話すこと
※真実の宝珠を使用
〈ティエル•ミル•ティーレマンス〉
マルティナ•プリズムとの奴隷契約
◇契約違反時の罰則◇
当該者の死
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マニーシアが契約書を確認している最中にも関わらず、慌てた様子のティエルが横から覗き込む。
「なっ!!真実の宝珠ですって!?」
ティエルは頭を抱え、天を仰ぎながら叫んだ。
『真実の宝珠』は、これまた悪神様が作ったとされる水晶玉で、普段は青色をしていて虚偽を話した瞬間、赤色に変わる代物だ。
「ティエル、何を驚いているのだ?妥当な契約書だろ?」
そう言って、マニーシアは近くにいた法務大臣に契約書を見せる。
法務大臣も契約内容に不利な条件はなく、妥当な内容だと判断し、すぐに頷く。
「しかし、こんな条件•••」
「ティエル、お前は何を心配しておる?さっさと契約をせよ」
その言葉に素早く反応した私は、お互いが見える位置で契約書を空中に表示させた。
後は承諾の証に、お互いがデータ上の契約書に掌を触れるだけだ。
私は迷わずに掌を触れた。
「う、ぐっ」
ティエルは唇を噛み、瞳には涙が滲んでいた。
そんなティエルにマークが近づき、何やら耳打ちをしている。
「あのデブが倒せた魔物が、俺達に倒せない訳がない」
「•••そうよね、•••、きっとそうだわ」
「デブが倒せていたのはあの剣に秘密があるに違いない。それも手に入ったんだ」
「分かった。さすがはマーク。愛しているわ」
「俺もだよ」
私はレベルが高いだけあって、あらゆる身体能力が人よりズバ抜けて優れている。
そう、聴力もね。
「いいわ。契約してあげる。せっかく私の温情でパーティーにいさせてあげたのに、もう終わりね。一時でも王女である私と一緒に過ごせたことに感謝しながら一般庶民に戻りなさい」
ティエルは空中に浮かぶ契約書に掌を触れた。
《契約、完了しました》
《悪神様の管理の元、いかなる場合でもこの契約書は有効となり、無理に破棄しようとした場合は死が与えられます》
これで晴れて、掛け持っていた勇者パーティーを追放となった。
私はマニーシアに剣を渡すと、ルイファにある物をあげ、「ありがとうございました」と笑顔で言って王城を後にした。
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