朔 <中編>
――トイレに倒れてた女の子?
あーうん。いたねえ。
面倒な人に遭遇しちゃったなーって。
途中から面倒臭くなって「別の店探すから行こうよ」って言ったんだけどねー……
あの子、頭に血が上っちゃうと、周りが見えなくなるから。
無駄な正義感を振りかざすというか。見てて疲れるよね。
結局、私の車に乗せてお家まで送る流れになっちゃってたけど、うーん……って感じだったし。
――女の子の話かぁ……
見た目からして、気持ちのいい話は聞けなそうなのがわかってたから、深入りしたくなかったんだよねぇ。
男の子たちに
……下手したら精神障害とか、知能障害を抱えてて
『
可哀想だけど、そういう子にまともな正論を言っても時間の無駄だなって。
なによりさ。父親と母親が家にいて、普通に三食出てくる生活に疑問を持たないあの子には、彼女の話は理解できないだろうなって思ったんだ。
身の上話するの好きじゃないけど、わたしはさ、
お母さんとお婆ちゃんとお母さんの彼氏がいて、父親の違う弟がいる家庭でさ。
父親は別の土地で暮らしてて、今でもたまに会ってるから不仲ってわけじゃないけどね。
今だと
両親
こういうややこしいことは、はじめっから居るのが当たり前だと思って生活できてる人たちには、どんなに言葉を尽くしても、本当の意味で理解できるものじゃないし。
万人が理解しなきゃいけない義務もないから。
――話、脱線した。
□□□□□団地について?
着いてから、車内で待ってる間に何度かカーテンを開け閉めしてる暗い部屋が目についたね。
部屋の中からこっちの動きを見張ってる住人っぽかった。
時間も時間だし、申し訳ないけどあまり気分のいい場所ではなかったから『早く帰りたい』と思っていたら、あの子たちが立ち止まって扉を開けるところまでは、階段スペースから見えたよ。
カーテン開け閉めしてる部屋だったから、最初は女の子の部屋の住人が見てるなって思ったけど。
わたしが思い出せるのはこれくらいかな。
――え、十三年前の新聞記事?
『△△山の■■建設資材置き場で男女○人の遺体』
うち一人の女性はピンクのダウンジャケット所持。
なんなのこれ。あの日とこの記事、関係あるの?
――あの子のホームページ?
ああ、なんか昔、自分でホームページ作ってたって話は聞いたことあるけど。隠しサイト?
あの子のホームページ自体、見たことないから知らない。
……自殺サイトに繋がってた?はぁ。
――飛び出してきた人はどんな格好だったか?
髪の長い女の人だったはず。
――え、違う?
ちょっとちょっと、話が読めない。
刑事さんは私に何を言いたいんですか。
あの子の話とわたしの話が食い違い過ぎてて、どちらかが嘘ついてるって?
言わせてもらうけど、あの子とは十年以上、連絡とってない。
あの子LINEしてないし、facebookも見る専で動きがなかったから。
わたしたちがその、十三年前の事件に関係してたら、もっと入念に話し合いするでしょ。
そんな事件、わたし今初めて知ったから。
――高校の同級生だったか?
さっき言ったじゃん。
同じ高校の同級生だったから、友達になったって。
なに
近づくために同じ高校に進学したんだろう?
刑事ドラマですか。
あなたは、あの子の父親が私の父親だったから、悪意を持って近づいたんだろうって言いたいの? 失礼じゃない?
あの日、初めてあの子に実家に誘われて、ドライブ帰りに泊まったけど。
昼過ぎに起きて、年始に家族団らんしてるところに、初対面の
あの子は、わたしや母さんの存在なんて、知らない。
ただの母子家庭の子だって認識しか、なかったはずだから。
――悪意であの子に近づいたのか?
あの子は悪い子じゃないけど、
ああいうど直球で馬鹿正直なめんどくさい子だから、
友達いなかったんだよ。
近づいてニコニコして、あの子の話をウンウン聞いてあげるだけで『親友だ』って喜ぶもんだから、楽勝だったよ。
ちなみにこれから仕事なんで。
仕事? 看護師ですが。
――なぜ泥酔した女の子の介抱しなかったのか?
休日まで人の生き死にに遭遇するのって、ホント勘弁ですよ。
患者さんとか『献身的に看護をするのが当然』と思っている人多いけど、看護師だって人間ですから。
職業倫理に背くとか言われても。
片親で経済的に余裕のない家で、堅実に手に職つけようと思って看護師選んだんで。
本音さえ言わなければ、わたし、なにも間違ってないですよね。
当時から本音でしか話せなかったあの子には同情しますよ。
社会の建前や大義名分を守って、個人の本音は隠すことが、良好な人間関係の大前提なのに。
あらゆる立場に置かれた人間を想像できなくて、わかりやすい表面上の社会悪にばかり噛みついて、周囲を敵に回すなんて。ほんと、可哀想。
あの子のように自分の置かれた環境が、社会のオーソドックスな価値観とブレがなくて、周りの同級生もみんな自分と似たり寄ったりの環境だと信じてる人間には、理解できない現象はすべて『怪奇現象』に見えちゃうんですね。
わたしたち、あの晩、殺人現場に居合わせてたんですね。
飛び出してきたあの人は、自殺サイトで仲間募集に反応して集まる人間を、殺してたんですか。
じゃああれは返り血だったわけですか。
***sukeの書き込みはあの子のパソコンからだった?
あの子は自分のサイトで自作自演してたんですか。
ダッサ。
……え?
犯人は服装倒錯者?なんですかそれ。
素人が書いたヘタクソな推理小説じゃないですか。
『あの子なんていない』?
わたしたち『二人でドライブしてた』って言ってるじゃないですか
……んとに、勘弁してくださいよ
わたしこれから仕事なんですよ
職場まで押しかけて来て失礼ぶっこいて
もうどいてください
いまさら、十年以上も前の話を蒸し返して
ありえないですよ
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