玉鉤 <前編>
玉鉤とは古代中国で
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私の職場の同期に、少し変わった人がいました。
彼は階段ばかり使うので、最初は
しかし出先のオフィスが高層ビルで、エレベーターを使わなければならない場面になると、先に人を行かせ、誰も乗っていないことを確認してからでなければ乗らず、一度乗ると絶対に自分の後ろに誰も立たせないよう、壁際に立ち続けました。
他の男性社員から聞いたところによると、トイレに入るときに先客がいた場合は出て行ってしまい、自分一人しかいないことが確認できなければ入れないと噂され、酒の席では少しでも性的な話が入ると、
男性特有の悪ノリに軽く乗ることはあっても、自分のことを話さないので社内の男性コミュニティから距離ができていましたが、同期の私は異性なこともあってか、そこまで会話を警戒されず、程よい距離感で過ごせていました。
入社して数年たった頃、私の他支店への異動が決まり、同期の人間だけの
その日が金曜日で終電間際だったこともあり、ホームで待つほかの乗客も酔った人間が多く、到着した電車に乗ると、乗務員たちが入口の客をぎゅうぎゅうに抑え、私たちは通路の中央あたりで人の間に挟まるように押し込まれました。
女の私だけでなく、隣に立っている同期もかなり苦しそうでした。
電車が動き出し
本来彼の降りる駅よりもずいぶん遠く、
店を出たときは、そんなに酔っていないように見えましたが、顔に出なかっただけなのか、密集した空間に人酔いしてしまったのか。
心配になり彼を探すと、ホームの端、誰もいないベンチに
「気持ち悪い? 大丈夫?」と声をかけると
「気持ち悪いというか、ちょっと苦手で……」と涙を浮かべていました。
男性というのは
彼の背中をさするなどしましたが、これ以上自分のできることが思いつかず「電車きついなら、タクシー相乗りで帰ろうか」と提案すると「ありがと」と消え入りそうな声で肩を震わせていました。
駅を出てタクシー乗り場に向かうと、待機車は見当たらず、タクシー会社に電話すると「すぐに手配できる車がなくて、いつそちらに向かえるかわからない」と返ってきました。
それでも来てくれるならいいと、駅前の公園のベンチに腰を掛けて待つことにしました。
同期の彼は「俺、狭いところとかで、人と一緒になるの無理で」と切り出しました。
「人から聞いてたから、なんとなく知ってた」と言うと
「昔、ちょっと、あって」と歯切れが悪い返事になりました。
彼は一度深呼吸すると「最後かもしれないし」と言うと、
私の顔は見ずに、ぽつぽつと語り出しました。
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