大晦日 <中編>
そして
私はバイト店員の
友人は
「わかった。鍵開けるから、ちょうだい」
私はバイトに対して
「鍵はありません。ノブの中央に溝がついたパーツがあるので、コインを
バイトは目を合わせず、ぶっきらぼうに答えました。
それなら初めから教えろよ!と心の中で毒づきましたが、人命が
小銭を持ってドアに駆け寄ると「待って」と友人が止めました。
「本当に……倒れていたら、見たくない……」
そう言って、友人は店の入り口まで離れていきました。
『半分はあんたの為なのに……』と、裏切られたような気持ちになりましたが、気を取り直して
ノブを回し、扉を内側に押して開くと
ピンクのクロックスが片方、床に転がっていました。
もう少し中に入ろうと慎重に扉を開くと、途中でつっかえ、それ以上は開かなくなりました。
この日何度目の覚悟でしょうか。
開いた隙間に頭と肩を入れて、扉の向こうを覗き込むこと――……
若い女性が倒れていました。
最初に目に入ったクロックスのもう片方は、
裸足で床にへたり込み、便座に頭を突っ込むように倒れて動きません。
「ちょっと! 人が倒れてる! 警察と救急車呼んで!
あと店長に連絡しなさい!」
バイトは「え、本当に?!」と悲鳴のような声を上げた後、
「店長と連絡がつかない以上、僕の一任ではできません!
警察も救急車も、店の前に止められては困るので呼べません!」
と開き直りました。
こんな時でも、そんな主張が通ってしまうものなのでしょうか。
『もう、この中でどうにかできるのは、私たちだけだ』
と友人の姿を探すと、
彼女は店の外からガラス越しにこちらを見ています。
完全に見物人のスタンスをとっていました。
今いる限られた人間の中で、協力が得られないのは
『そこに逃げる余裕があるなら、あの時さっさと別の店探して移動すればよかっただろう』
自分が置かれた
個室には、いまだ意識の戻らない女性がいます。
恐るおそる、首の横の
彼女の手や足は、冷え切っていました。
『なんでこんな季節に薄い格好をしているんだ』
『個室から出したいけど、勝手に身体を動かして大丈夫か』
疑問は尽きませんでしたが、思い切って、彼女の肩を揺さぶりながら話しかけました。
――……ゥー……ン
小さな
意識がないというよりは、寝ぼけているような反応だったので、今度は耳元で「あなたの名前は?」と叫んでみました。
――ゥ……ィ……
よく聞こうと顔を近づけると、アルコールの
長く
身体に目立った
――……ンモォ……コノ……マ、イサ……テ……ォ
彼女は私の手を振り払い、呟きました。
――……セッ…カ…ィ
『このままでいさせてよ、お節介』?
そもそも、私がトイレを使いたいわけではなかったのです。
この
友人に
あのバイトは自分のシフトが許す限り、この哀れな
この店の店長は、トイレ掃除とバイト教育に関心がないのでしょうか。
全部
私からしても、本来はまったくの他人事だったはずなんです。
トイレで泥酔した女性が、急性アルコール中毒かもしれないと心配してましたが、私の呼びかけに反応した上に、手まで払いのけたことで、私の中の何かが壊れました。
「お前ら、ふっっざけんじゃないっつーのっ!!」
腹の底で煮えくり返った感情は、
落ちていたクロックスを掴み、女性の背中に叩きつけました。
「立ちなさい!
背中を叩かれた恐怖で意識がはっきりしたのか、彼女は私を見て涙を流し始めました。
私の怒号に驚いて、雑誌コーナーの列まで静かに移動してきたバイトと目が合いました。
「警察も救急車も店長も呼ばずに、
怒鳴られた彼は、
外にいる友人は、何事かと店の入り口まで移動してきたので
「トイレ、使いたいんでしょ。酔っ払いどかすの手伝って」
と、吐き捨てるように言いました。
友人が両脚を、私が両腕の付け根あたりを持って運ぼうとすると、酔った彼女は抵抗しました。
「……いいです、ひとりで……あるける」
彼女は何度か立ち上がろうとしましたが、力が入らずへたり込むので、私は強引に彼女の左腕を自分の肩に乗せました。
身体を安定させるため、自分の右腕を彼女の腰にまわした時、レジの奥から出てきたバイトが、500mlのミネラルウォーターを二本、私の前に差し出しました。
「お代は要りませんので」
先ほどは勢いで『水持ってこい』と言ったものの、タダで受け取るのも心地悪いので「払いますよ」と言うと、
「大丈夫ですから。その人お願いします」と答えられた。
『水二本で救急車もタクシーも呼ばずに、厄介な客が追い払えるなら、安いもの』ということでしょうか。
今まで非協力的で責任逃れをしていたバイトからの
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