大晦日 <前編>
コンビニの駐車場には私たちの車以外、一台もありませんでした。
友人と私は、先ほど
しばらく押し
お互いにドッと疲れて、座席を倒してぼんやりしていましたが、トイレに行きたくなった友人が店に向かったので、私も飲み物を買おうとついていきました。
店内はバイトの若い男の子が一人いるだけで、他の客は見当たりませんでしたが、明るく温かい雰囲気に『人のいる場所に来たんだな』と安心できました。
友人がトイレに行っている間、軽食やお菓子売り場を回ってからお茶を購入し、雑誌スペースで漫画の立ち読みをしていましたが、なかなか出てこないので先に車に戻ることにしました。
助手席に戻って自分の携帯をいじっていると、窓をコツコツ叩かれました。
叩かれた窓を見ると、トイレから戻って来た友人が外に立っていました。
「何してるの。入ってきたらいいじゃない」とドアを開けて言ったところ、彼女は私の腕を掴み、車から引きずり出しました。
なになにどうした、と驚いている私に
「トイレがずっと使用中なの」と困った顔をしていました。
「だったら他の個室を使いなよ」と半笑いで言うと、
「ここのコンビニ、トイレ一つしかないよぉ」と泣きそうな声で訴えてきました。
この時、私たちが店内に入ってから二十分程経っていました。
駐車場に停車して揉めていた時間も含めたら、三十分以上経過していたでしょう。
外から店を眺めると、店舗の壁際に、一台の自転車が止まっていました。バイトの子の持ち物だと思いました。
「徒歩で来たお客さんが
仕方なく、レジ裏にいるバイトの男の子を呼んで「他のバイトの人がトイレを使っているのか」と聞いてみたところ、今の時間帯は彼以外のバイトも店長も不在で、店内は私たちが来る三十分以上前には、客足が途切れていたことを聞きました。
とはいえ、バイトが一人で切り盛りしているなら、客の来店を見逃している可能性もあるので、トイレの前まで様子を見に行きました。
『腹痛で困ってる人だったら申し訳ない』と思いながら。
<使用中>と赤いマークがついたドアを何度か叩きました。
全く反応が返ってきません。
扉の鍵は内側からかけられていて、隙間から中の明かりが漏れているので、誰かがいるのは間違いありませんでした。
何度か扉をノックしながら声をかけてみたものの、本当に反応がなく、物音ひとつしないのが不気味でした。
十分ほど時間をかけて中の人間にうったえかけていましたが、本当に反応が返ってこないので、
「中で倒れてない?」
と友人は言いましたが、私はそれ以上の最悪な想像をし始めました。
レジ裏で淡々と仕事をこなしているバイトに「様子がおかしいから、トイレの鍵を開けて中の様子を見てください」とお願いすると、
「できません。僕バイトなんで」
と
「バイトでも今は
彼は私を
「僕はただのバイトですし、店長とは連絡とれません。そんなに心配でしたら、お客さんがトイレの鍵を開けてください。万が一にも女性の利用者でしたら、男の僕では不都合ですから」
と、もっともな反論をしました。
『たしかに、女性が倒れていたら、あられもない姿を男に見られるのは可哀想だなぁ』
と、店員の態度に苛立ちつつも納得していると
「ちょっと。あいつ、もっともらしいこと言ってるけど、その、もし……アレだったら……」
友人は口ごもりながら、目で
『私たち、第一発見者にさせられるんだよ』と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます