第59話 魔法オタクたち

 いかにも脳筋のエルザらしい「殴り合って決めろ」的な裁定で、闇魔法使いの長は放逐され、その部下である魔法使い四名が俺の指揮下に収まることになった。いいのかなあ……「妃将軍」と讃えられ、軍の指揮権をフリッツと二分している彼女が、こんな単純思考で。


「大丈夫。追放した彼以外は、戦闘向きではないけど素直な魔法バカ達よ。ウィルの力を見せれば、素直に従うでしょう。精々役に立つように使ってちょうだいね」


「あ、ああ……」


 エルザは単純で直情的だが、人を見る眼は割と的確だ。人に指示することなんか得意じゃない俺だが、ここはやるしかないだろう。


「と言うわけで、ウィルは指揮官の一人として参加するわ。いいわね? 不服の者は?」


「もちろん、歓迎です。評判通り、素晴らしい魔法技術ですな」

「……」


 ブルーノというらしい部隊長は、どうやら俺の力を認めてくれたらしい。だが、ヘルムートという裏仕事部隊の長は、先程から異議こそ唱えぬものの、ずっと俺に向かって鋭い視線を突き刺してくる。こいつは要注意だ、クリスタには近づけないようにしようと、しっかり脳裏に刻む。


「いいわね。じゃあ、作戦を説明するわ」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 眼の前にいるのは四人の闇魔法使い。とても軍の特殊部隊とは思えぬだらけた雰囲気が伝わってくる連中である。まあ、こいつらは冒険者上がりで、しかも一般的には嫌われる闇属性の魔法を得意としていた連中だ、国に尽くせといくら説こうが、響かないだろうな。


「あんたらの指揮を取ることになったウィルだ。よろしく頼む」


「今までの隊長はどうなったのでござるか?」


「クビだ。俺と魔法を競って敗れたからな」


 ざわっと動揺が広がる。どうもあの男は、戦闘能力に関してだけはここにいる連中より数段強かったらしい。


「そうか、貴公が噂の『王妃の元カレ』でござるな。評判通り大した腕ということか、あの隊長の暗殺魔法を封じることが出来たとは。ご安心あれ、俺らは指揮官が誰であろうと、適切な命令と対価をくれればそれをきちんとこなす。そこは信頼してもらいたいのでござる」


「ああ、期待させてもらおう。早速で済まないが、あんたらの経歴やら一人一人の使える魔法やら、教えてもらいたい。順番で面談させてくれ」


 そうやって四名の新しい部下と個別に話した後、俺の後ろでじっとその様子を観察していたクリスタに声を掛ける。


「どうだ? あの連中は」


「エルザお姉様が『魔法バカ』とおっしゃった通り、なるほど魔法にしか興味のない人たちみたいですね。お兄さんへの悪意は感じられません。お兄さんが彼らを納得させるだけの力を見せ続ける限り、信頼できると思いますよっ!」


 そう、面接の間、クリスタはひたすら読心の業で、こいつらが俺たちに害をもたらすものか否か、見極めていたんだ。彼女が合格を出したのならば、頼りにさせてもらうとしよう。珍しい術の持ち主も、いたようだしな。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんなわけで、闇魔法部隊の最初のミーティングは、俺の実力を見せる会になった。探知を得意とするクサヴァーと言う名の四十絡みの男、追跡系の魔法を使い俺より二~三くらい年上と思われる、ドロテーアと言う女。デバフ系の魔法を担当するダミアンとヘルゲ、二人は俺と近い年齢だろうと思われるが、見るからに陰キャでマニアックな雰囲気を醸し出している。


 これにクリスタと俺を加えた六名が、魔法部隊の全員になる。まあ、部下なんて持ったのは初めてだから、所帯が大きくなくてほっとしている俺だ。


「それじゃ最初に、俺の魔力強化バフを体験してもらうが……クサヴァーの探知魔法がいいだろうな、まず普通に探知網を張ってくれ」


「仕った」


 探知は、己を中心として魔力の網を張り、その中に入り込む生ある者をすべて把握する。隠密行動の際には、実にありがたい魔法だ。俺も王都で先日買った魔法書で勉強を始めているが、まだ身につけられていない。


「出来ましたぞ」


「クサヴァーの探知範囲はどのくらいだ?」


「およそ半径二百エレほどかと」


 二百か。普通に歩けば二分ほどもかかる距離、これは大したものだ。このメンバー、使える魔法は限定されるが、なかなか力の強い者が揃っているらしい。


「よし、では魔力強化をかけるぞ……この者の秘めたる力解き放て……昂魔!」


「ひっ、うわっ、これは……ぐわっ!」


 そんな意味不明の声を上げつつ、クサヴァーが頭を抱えてうずくまる。


「これは、無理でござる。探知距離が一気に二倍ほどになっては、情報量が多すぎて処理仕切れませぬ」


 そうか、やはり処理できなかったか。探知距離が二倍になれば、情報量は四倍になる。それが一気に頭に飛び込んで来れば、パニックになるのは仕方ないか。


「では、この程度ではどうかな?」


 五割り増しバフ程度に手加減したバフをかけなおすと、クサヴァーも恐る恐る探知を張り直し……ぐっとこぶしを握った。


「おお、これなら何とかなりますな。これは……半径三百エレほどを網羅できていますな。実に、実に素晴らしい強化でござる」


「あんたらの隊長として、合格か?」


「無論でござる。しかも拙者の実力では、先程の二倍バフを使いこなせなんだ。まだ修行が足らないと実感したのでござる……次こそは」


 なぜかこの魔法オタクっぽい中年男に妙な火をつけてしまったようだが、とりあえず認めてはもらえたようだ。他のメンバーに視線を回せば……


「探知距離二倍なんてのを見せられてはね。あたしの得意魔法は追跡よ、強化の効果は期待できそうね、よろしく頼むわよ」


「短詠唱で魔法無効化なんかを使ってしまう兄さんには、とても敵わないっすね」

「むしろ俺たちデバフ担当は、いらない子なんじゃないか?」


 癖の強そうな闇の専門家が、口々に支持を表明してくれる。傍らに立つクリスタが、嬉しそうに口角を上げた。


◆◆作者より◆◆

皆様のお陰でカクヨムコン一次を通過できたようです。深く感謝いたします。


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