第52話 お仕事順調
アデリナが言った通り、俺たちの冒険者稼業は、目下絶好調だった。この半年の間に、俺達のパーティーは自他共に認める、王国冒険者ギルドにおけるトップグループパーティになったのだから。
俺たちが加わる以前のマリウス達三人は、優秀な前衛と高火力を持ちながら、高難度依頼の成功率が低く、ギルド格付け二級パーティーにとどまっていた。俺から見るとその頃だって、彼らの能力はさして今と変わらず高かったように感じるんだけど、強いて言えば当時の彼らには「余裕」がなかったんだろうね。
その「余裕」を生み出したのが、新たに加わったクリスタと俺、というわけなんだ。どっちかというとアガリ性の彼らをクリスタの精神安定スキルが平静な状態に保たせることで、ディフェンスからオフェンスへの切り替えタイミング、突くべきポイントといった戦闘に不可欠な判断を、極めて正確なものに変えた。そして俺の強化魔法と、敵の能力を下げるデバフが、さらに一枚壁を乗り越えさせる要因になったんじゃないかと思う。
そして、見違えるように次々と高難度の依頼を成功させるようになった俺達に、上位パーティも注目するようになったんだ。そして最大の転機は二ケ月半前……王国筆頭とされている特級パーティから指名されて、合同で火竜討伐の国王依頼をやったことだ。
まあ結局のところ、王国筆頭魔法使いであるナターナエルが渾身の全力魔法を練り上げている間、二つのパーティ合同で火竜を巣に足止めして時間稼ぎをするだけの役目だったんだけどな。だけどその時間稼ぎってのが滅法大変で……本当に死ぬかと思った。途中からは、クリスタを連れて来てしまったことを真底後悔していたくらいだ。
だけど最後には、ナターナエルの超絶魔法で火竜は引き裂かれ、討伐は成功した。
俺達……マリウスパーティも、確実に貢献したはずだ。振り降ろされる竜の爪を盾で堅実にいなし防ぐマリウス、竜が火のブレスを吐く直前に突っ込んで危険をその身に引き受け、ギリギリの瀬戸際でかわすユリアン、隙を見て竜の弱点に岩石をぶち当てては、動きを封じていくアデリナ。
そして……俺の支援魔法と、クリスタの法術は、一緒に組んだ特級パーティのメンバーにも実に有難がられた。彼らのパーティには高火力魔法使いや優秀な剣士はいるが、俺やクリスタみたいな支援に特化したメンバーが欠けていたからな。火竜に止めを刺したナターナエルの魔法にも、かなり俺のバフが利いていたはずだ。実は討伐後すぐ引き抜きの話があったから、ナターナエルもそれはわかっていたんだろう。もちろん移籍は、即座に断った。マリウスパーティという、クリスタがストレス少なく過ごせる「居場所」を、捨てるわけにはいかなかったからな。
それはともかく、国王依頼の成功は俺達にものすごい巨額の報酬と、巨大な名誉をもたらした。
マリウスパーティは、ギルドから王国で五組しかいない特級パーティと認定され、マリウスとユリアンには一級戦士、アデリナには一級魔法使いという格付けがされたんだ。俺はと言えば二級魔法使いってことだけど……まあ、補助役が評価されにくいのは、いずこも同じってことで。
クリスタは二級聖職者の称号をもらったけど、これは本当にすごいことなんだ。冒険者登録したばかりの等級は六級……そこからわずか数ケ月で二級とか、普通はありえない超スピード出世になる。本人はそれを、ありがたいとも嬉しいとも思っていないみたいだけど……まあ、あの齢で司祭に任じられているくらいだから、そういう他者からの評価を、気にしなくなっているのかも知れないね。
そんなことより、パーティの格付けが上がったことで、高難度の依頼がご指名でどんどん舞い込んで来るようになったのが、俺たちにとって一番嬉しいことだったんだ。今日のトロール退治だって、その一つさ。
この半年で五人の呼吸もばっちり合って、そういう難しい依頼も、怪我をすることなくこなせるようになっていたんだ。おかげで懐もとっても暖かく……俺とクリスタは、カネのことをあまり気にしていなかったんだけどね。ちなみにクリスタは自分に与えられた報酬を、自分には必要ないとか言って全部俺にそのまま渡して、時折ちょっとしたお小遣いをねだってくるだけだ……いいのかなあ。
まあ、そんなこんなで俺達が冒険者たちの間で「王国で、今一番乗ってるパーティ」と言われていることは、事実なんだよね。
「そうか……アデリナの話を聞いて、俺も考えたんだが。みんなに相談がある」
一番陽気に飲み食いし、大騒ぎしていたリーダーのマリウスが、急に表情を引き締めて重々しげに口を開いた。俺たちは、ちょっと驚きながらこのリーダーに注目する。
「実は……このパーティを、解散しようと思っているんだ」
「ええっ?」「どうして?」
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