第43話 迷宮攻略
俺の電撃魔法で青白く輝いているアイゼンバウムの木棒を斜めに構え、クリスタが碧いセミロングをなびかせながら、身を低くして走る。
巨大な、体長八エレほどもある古代種の魔狼……アルトフェンリルの重い攻撃を先ほどから跳ね返し受け流している盾戦士のリーダーを追い越し、敵の左側に回りこんでいくクリスタ。戦士の青年も、俺の魔法で強化された速度を利用して右サイドにすばやく展開して、機会を窺う。
美しい曲線軌道を描いて振り回されるクリスタの木棒がアルトフェンリルの前脚に触れると、「電撃」の衝撃で敵は弾かれたように跳び退き、その怒りのおもむくままクリスタに牙をむく。しかし魔物が彼女に向けて突っ込む前に、リーダーが盾ごと自分の身体をぶつけ、もう一度自分に敵意を向けさせる。
リーダーとクリスタが連携し、互い違いにアルトフェンリルの注意を引いている間、戦士の青年はじっとこらえて自分の存在を消し、決定的なチャンスを待っている。
何回目かの棒術攻撃を受け、しびれを切らした魔狼がいよいよ本気の突撃をするべくクリスタに向き直り、一旦力をためようと姿勢を低くして静止したその刹那、青年は一気に跳躍しアルトフェンリルの背後から、尾骨に近い脊椎にその剣を突き立てた。そして次の瞬間には剣を手離して、跳び退きざま叫んだ。
「アデリナ、頼む!」
「……いにしえの神よ、我に力を与え給え! ドンナーのいかづちよ、ここに下れ!」
ここまでまったく戦闘に参加せず、ひたすら気配を隠しつつ長い長い呪文詠唱を行っていた若い女魔法使いが満を持して魔法を発動させると、青年が突き立てた剣に向けて、本物の雷もかくやと思わせる激しい稲妻が閃いた。ドォンという重低音が響き渡ったあと、そこには脊椎を体内から焼かれ、完全に絶命したアルトフェンリルの死骸が転がっていた。
「よしっ、やったな!」
「やりましたねっ!」
ここは、王都にほど近い迷宮だ。
はるか古代には石炭なんかを掘り出していた坑道だったという話だが、その真偽は定かじゃない。今は面倒な魔物が多く住み着いて簡単には入り込めないけど、宝石や貴金属といった「ヒカリモノ」を好む魔物がせっせと集めた財宝が得られることから、冒険者達が一獲千金を狙って攻略に精を出す、有名な高難度スポットになっている。
俺とクリスタは、あの三人パーティに誘われて、一緒にこの迷宮を攻略している最中だ。あの晩「冒険者の酒場」で真っ先に絡まれて、一転打ち解けた幼馴染萌えのリーダー、そして戦士の青年と女魔法使いのカップルだな。不思議に馬が合って、というよりもクリスタが懐いてしまったので……あれから機会があるごとに一緒に食事や飲み会をする関係になっていたんだ。
「うん、アルトフェンリルの金色毛皮がこれだけいい状態で手に入ったのは実に美味しいな。安く見積もっても、五百マルクにはなるぞ」
リーダーが満足そうにひとりごちる。
「リーダー、これもウィルさんが作戦を考えてくれたおかげだからね」
「そう、アデリナの言うとおりだね。安物の剣を持ってこいとウィルさんが言ってた意味が、ようやくわかったよ、雷撃をピンポイントに集めるためだったんだね。うまいところに剣を突き刺せてよかった。失敗したらとドキドキだったよ」
魔法使いと戦士の若いカップルも、額から汗を流しつつ笑顔。そしてまた意味ありげに二人、視線を絡ませている。え~い、もげてしまえ。
「ユリアンの剣技だったら、正確に決めてくれると思ってたよ、予想通りさすがだな。アデリナの魔法も凄い威力だったし……なんたってマリウスさんが長い間よく耐えて引きつけておいてくれたからだよな」
俺は心から彼らの腕前を賞賛する。そう、このパーティメンバーの力は大したものだ。そして俺達の支援がいいスパイスになっているみたいで、ちょっと嬉しいかな。
「いや、普段の俺たちじゃあ、こうはいかなかったさ。ウィルの支援魔法が期待以上によく効いて……それ以上に、なんたって嬢ちゃんの説教ってか説法ってか、あれがすげえんだ。あんなでっかいアルトフェンリルが全然怖くなくなっちまって、目の前に来ても落ち着いて戦えたんだよ、そう思わねえかユリアン?」
「そう、不思議なんだけど、魔物に吠えられた時も、突っ込む時も全然怖くなかったよね。最後の瞬間まで、冷静に剣を振り下ろせたんだ」
「えへっ! お役に立てて、うれしいですよっ!」
彼らが賞賛するクリスタの業「鎮静の詞」は、例のルーフェの精神操作……なんでも「戦の歌」の縮小版なんだそうだ。強大な敵に向かう時に、余分な恐怖心や緊張はしばしば行動を誤らせる。だから無理にでもそれを落ち着かせるルーフェの法術は、とても役に立つんだ。
勝利の興奮を共有しつつ、互いの技術と勇気を讃えあう。やはり冒険者パーティの醍醐味は、これだよな……
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