第24話 歓談
「うわはははっ! やはり幼き頃より互いを知り尽くしたパートナーというのはよきものであるわな! ウィル殿の心根、誠に理解できるというもの!」
リーダーの男が上機嫌でエールをぐびぐびあおっている。「幼馴染萌え」という共通点があることがわかった途端、やけに気に入られてしまったらしい。
「まあ、俺は結局のところ、別れちゃったからさ……」
「うむ、だがそれも故あってのこと、民草の暮らしを守るが為……辛かったであろうが、ウィル殿のような誠を持った御仁には、いずれ素晴らしいパートナーが現れるであろうよ」
「あら、その席にはもう私が立候補していますけど?」
無邪気に微笑みつつ、唐突に爆弾発言をぶっこんでくるクリスタ。おい、暴走するんじゃないぞ。
「おおっ! いやはや、そうであったか。さすがに聖職者殿では、あっちのパートナーには少々……と思ったが、ルーフェは男女和合を司る神であるからな! これはめでたい」
「いやまだ何も……」
男はもう俺の言い訳なんて聞いちゃいない。上機嫌で「パートナー立候補!」のクリスタにあれやこれやと絡み始める。
「ふふっ。リーダーはあなた方のことをずいぶん気に入ったみたいね」
俺と同じ年頃かと思われる女魔法使いが柔らかく微笑みながら口を開く。長くて艶のある黒髪を腰の近くまで流し、切れ長の眼にシャープな顔立ちの、なかなかの美人だ。その向こうにはおそらく少しだけ年下であろう若者……その佩く剣は一見しただけでかなりの業物とわかり、おそらく攻撃型の戦士なのだろう。盾戦士と攻撃戦士と魔法使い、理想的なパーティ構成だ。フリッツとエルザと俺も、そうだったけどな。
「ああ、幼馴染萌えの共通点でな。で、その幼馴染の奥さんは今?」
「リーダーとの子供が出来たので、冒険者は引退したのよ。それで、私達と組むようになったというわけ」
私達と……というところで女魔法使いと戦士の若者が、視線を意味ありげに絡ませる。そうか、この二人は「そういう関係」ってわけか。
「ねえ、あなたは魔法使いなのよね。唄われたような活躍をできるほどの力を持っているのなら、当然魔法学院出身だと思うんだけど、私の記憶に、あなたのような人は、いないのよね。齢はあなたと近いはずなんだけど」
そうか、この女魔法使いは、魔法学院卒なのか。まあそうだろうな、王国にあって一線級の魔法使いは、すべからく学院出だもんな。
「うん。いっとき学院には在籍してたんだけどね。俺は割と早く中退しちゃったから、君と一緒に学んでいないんじゃないかと思うよ」
「中退ですって? なぜ? 学院に入るだけでも、簡単じゃなかったはずなのに?」
「その理由が、あの唄にあったろ。エルザが冒険の旅に出ると決めて、俺に学院をやめて一緒に来いと言ったんだ、ずいぶん勝手な話だよな。でも俺は、魔法学院よりエルザを選んだ、それだけだよ」
女魔法使いの眼が、驚きに見開かれる。何か記憶の隅っこに引っかかるようなものがあったらしい。
「ああ、一級上に十年に一度の素質と言われた方が……その方は私達が入学して一年ほどで、理由を告げず退学されたと聞いていました。それがウィルフリード様だったのですね……」
急に「様」付けになっちまったか。まあ、魔法使いの上下は、力の大小がすべてといっていいからな。
「ウィルと呼んでくれよ。十年に一度かどうか知らないが、それは多分俺のことだろうと思う。魔法の素質だけは、たぶん相当あったんじゃないかと思うけど、学院をやめてきちんと魔法理論を系統立てて学ぶ機会を失ってしまったから、限られた魔法しか使えないんだよ。半端魔法使いもいいとこだから、敬語使ったりするのは、やめてくれ」
「限られた魔法というと?」
「戦闘に堪える自信があるのは支援魔法だけだね、身体強化とか、武器への電撃付与とか、相手に対するデバフとか。君たち学院卒業者なら当たり前のように使える火球や氷槍なんかの直接攻撃魔法は、まったくできないんだよ。エルザの攻撃を強くすること、エルザの身体を守ること、それに必要な部分だけ、自己流だけど必死で身に付けたんだ」
「それで、よかったのですか? 異才と称されていたのに?」
女魔法使いは信じられないといった表情だ。まあ、そうだろうな。魔法使いなんて言う連中は、みんな己の魔法の限界を極めることに必死になっているマニアックな奴らだから。それにしてもまだ敬語だ、やめてくれよ。
「うん、後悔はしていないね。お陰でエルザと一緒に歩く何年かを手に入れたんだから」
後方の若者がうなずいて、女魔法使いの右手に軽く触れる。二人は視線をまた絡ませる。
「そう……ね。素敵だと思うわ」
女魔法使いの眼にもようやく理解の色が広がって、それを見る若者の眼も優しい。ええいこいつら、もげてしまえ。
「それで、今は?」
「何しろ、『王妃の元カレ』についちゃ君たちも聞いてたように、無いこと無いこと悪評が流れちゃってるんで、パーティ組む相手もいなくてずっと一人で稼いでるんだ。ああ、一人だった、と言うべきだったか」
「過去形、なのね?」
「そこにいるクリスタが拾ってくれたから、しばらく一緒にやろうかな、というところさ」
「彼女、ずいぶん若くない?」
「十五だって言ってたな」
「それって、ほとんど犯罪よ、ねえ」 「うん、犯罪だね」
女魔法使いと若者が息を合わせて攻め立ててくる。
「いやまあ、そういう意味のパートナーじゃないからさ……」
不本意ながら、防戦一方の俺だ。
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