第15話 目的達成?

 翌日、朝食のテーブルにのこのこ顔を出すと、そこにはアロイスとその妻子の、実に生暖かい視線が待っていた。


「これはウィル殿、昨晩は司祭様とずいぶん仲良くされていた模様で……」


「仲良くって言っても、アロイスさんの想像する仲良しとは、断じて違うから」


 いやしかし、誤解されても仕方ない状況だったかもしれない。結局あれこれ話し込んで、三~四時間はクリスタの部屋にいたから、ナニか済ませるにしても十分な時間だからな。いやきっとこのアロイスの視線は、絶対に「ナニか済ませた」と思ってるに違いない。


「いやいや、男女の仲良しは結局ひとつですぞウィル殿。なるほど、そうですかそうですか……」


 何を勝手に納得しているんだと俺が反論しようとしていたちょうどその時、クリスタが勢いよく食堂に入ってきた。


「皆様、おはようございますっ!」


 相変わらず朝っぱらから無用にテンションが高い奴だ。アロイスがにこやかに受ける。


「ああ、おはようございます司祭様。良くお寝みになれましたかな」


「ええもう、昨晩は思惑通り『目的』を果たせましたからね、もう安心しちゃってぐっすりです!」


「目的とな!」 


 期待通りながらあまりに露骨なクリスタの表現に、ぎょっとした表情のアロイス。いや、あんたが想像してる「目的」とは、かなり違うから。


「目的というと……ですな。司祭様がウィル殿と二人……」


「うふっ。そうですね!」


 こらクリスタ、そこで思わせぶりに話を切るんじゃない。あらぬ誤解が大きくなるじゃないか。


「ふむふむ、若い二人にとっては実にめでたいことです。それでは早速にも誓いの儀式を準備せねばなりませんなあ」


 さすがにこのまま誤解が進むとマズいので、俺もこのしょうもない会話に割り込む。


「アロイスさん、違うんだって!」


「何が違うと? 若い健康な男女が結ばれるのは自然なことであって……」


「だから、結ばれてないって! こらクリスタ、まぎらわしい言い方すんじゃねえよ」


「ふふっ。あのですね、ウィルお兄さんがですね、私とパーティを組んでくれることになったのですよ、『目的』達成なのです!」


「ほほぅ? それは冒険者のパーティということですので? それは意外ですなあ、司祭様は、冒険者の活動をなさりたいわけなので?」


「そうですっ! 私はお兄さんと旅がしたいのですよ!」


 あたかも観光旅行に出掛けるかのように、気楽に言い放つクリスタ。


「ほほぅ、若い女性にはかなり危険な『旅』だと思うのですがなあ?」


「ふふっ。そこは強いウィルお兄さんが、か弱き私を守ってくださるというわけですよ!」


 なんて自分に都合のいい解釈なんだよ。まあ、こんな美少女に「守って」なんて言われて断れる男も、そうはいないんだろうけど。


「うん、まあ。俺も当面目的がなかったしさ、とりあえずいいかなと」


「冒険者パーティですか。聖職者様と支援魔法使いのペアというのは、かなり珍しいのでは?」


「全くその通りさ。二人とも支援系だから、高い戦闘能力を必要とする『冒険』はできないな。ま、当座はアロイスさんを王都まで送り届けるのが仕事さ。王都で遊びながら、ゆっくり考えるよ。軍資金は……とりあえずゴブリンの魔石買ってくれるんだよな?」


 アロイスがはっと思い出したように、手を打つ。


「そうでしたそうでした。お預かりした魔石は二百五十一個でした。トータルちょうど切りのいいところで千マルクといったところで、いかがでしょうか?」


「え、そんなに?」


 この大陸の通貨はマルク。一マルクは十六シリング、一シリングは十二デナリだ。まあ、およそ市場で売ってる大きめの黒パンが一シリング、俺達冒険者が泊まるような安宿が一泊二マルク、って感じだ。危険のない日雇い仕事を一日やって、給金は概ね四~五マルクくらいが相場だから、千マルクってのはめちゃくちゃ稼いだことになる。


 もっとも、同じ魔石をギルドに持って行って売ったら、六百マルクがせいぜいじゃないかな。アロイスはずいぶん査定に色をつけてくれたみたいだ。


「俺としたらありがたいけど、そんなに高く買ってくれて大丈夫かい? 無理しないで欲しいんだけどな」


「いやいやウィル殿。これと同じものを冒険者ギルドから仕入れましたら、大体千三百マルクほど吹っ掛けられるのですよ。そこから比べたら実に格安、まあこれを我々は二千マルクでさばきますから、十分に利が乗るのです。むしろもっと持ってきて頂きたいくらいで」


 アロイスの表情を見る限り、そこに嘘はないのだろう。もらった布袋の中には百マルク金貨が十枚。いきなりお大尽になったもんだなあ。


「そういうわけでウィル殿の懐は、かなり暖かになったようですからな、司祭様も王都でいろいろ珍しいものや美味しいものを、おねだりするのがよろしいかと……」


「いいんですか、ウィルお兄さんっ!」


 クリスタの眼がキラキラ輝く。王都が本当に楽しみなんだろうな。その表情を見ていると、確かになんか買ってやりたくなるのは、男の本能ってもんだ。


「うん、お手柔らかに頼むよ……」 



◆◆作者より◆◆

1マルクを現代日本の2000円でおよそ変換ください。

ウィルは魔石で200万円稼いだことになるのです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る