第4話 命名します

「はい、ではご静粛に」


 ちょっと可愛い朝倉真由美の口から、キジトラの猫人間の名が出てこようとしている。


木島トラ男きじまとらおでいかがでしょうか!」


 そのまんまじゃないか!


「木島トラ男……」


 猫人間は目を閉じてうんうんと頷いている。

 あれ?ひょっとして……。


「素晴らしい」


 なんかだ分かりにくかったけど、感動して言葉に詰まっていたみたいだった。


「あなたは天才だ。お仕事はそう言った方面を?」

「いえ私ペットのトリマーの見習いなんです」


 照れつつもまんざらでもなさそうな真由美だった。


「その才能もっと活かして欲しいものですな」


 もういい。褒めない方がこの人のためになる。

 とりあえず名前から離れようと思い、別の話題を振ってみた。


「あの、トリマーってやっぱり好きがこうじてってやつですか?」

「そうなんです。でも犬ばっかりで、猫目当てだったのに失礼しちゃうわ」


 犬はそんなに好きじゃないんだな。


「このアパート野良猫多いじゃないですか。そのうち触らしてくれるかなーって思ってたらこんな大物引き当てちゃって、もう願ったり叶ったりっていうか」


 駄目だ。やっぱり変な人だった。

 猫キチガイを確認し終えた俺に、真由美はおずおずと手を挙げた。


「あのー」


 真由美がちょっと可愛い顔で上目遣いをしてこちらを見ている。


「トラ男の事、杉田さん飼おうなんて思っていたりしてますか?」

「僕が?まさかこんなの飼うわけないでしょ」


 真由美の顔がパット明るくなる。


「じゃあ私がもらい受けます。やった。猫と一緒に寝るのが夢だったんです」


 それは絶対だめでしょ!


「撤回します。僕が飼います。あきらめてください」


 こんなほぼ人間とうら若き女性を、一緒に住まわせる訳にいかないだろ。

 おまえには指一本触れさせないからな。

 無言で木島トラ男を睨みつける。

 そして奇妙な共同生活が始まる。次回大家の怒り爆発。トラ男の運命はいかに。

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