第7話

「この学校、そして周辺地域で起きたのは連続して児童が正気を失う事件だ。その発言内容が共通していることから僕たちの部門の仕事だとされた。だが当時は解決には至らなかった。」


 そこで雫が先生に指名されるのを待つ生徒のように片手をあげた。仰々しい仕草で指し示してやると口を開く。


「三十数年前って言ったら柄時さんが現役だった頃のはずだよね。あの人やその周囲にいたっていう凄い人たちがいて解決出来なかったものがなんで今お鉢が回ってくるの?」


 雫の疑問も当然だ。警備課は基本的に事前情報を与えられることが少ない。そもそも知ることによって怪異というものが強化されることもありうるからだ。そこで調査部から与えられる最低限必要な情報を頭の中から絞っていく。


「んー……そうだな、例の神社のやつがこの学校がある山でも発生していること。それが土地神と絡んだ結果三十一年前に祀り直して封じたらしいんだがそれが安定期に入って直接的な介入ができるようになったことだな。まあ今回は軽い調査で二泊三日滞在するだけに等しいからそう気にすることもないと思うよ。そもそも重い調査なら六条先輩が同行できる日にずらされてる筈だしな」

「ああ、確かに。慣れてる二人でもないのに行かされてる時点で軽い案件なのは当たり前か。ならすぐにでも資料探し行く?先達が見つけてる部屋とかあったでしょ」


 納得してくれたらしくこくこくと頷く動作すれば雫はすぐに立ち上がる。慌てて自分も立ち上がろうとしたけれど、体幹も弱ければバランス力もない僕だから立ち上がり切れず尻もちを無様につく羽目になった。呆れた顔で手を差し出しながら雫が問う。


「あんたなんでこの仕事出来てるの?どんくさいにもほどがない?」

「強いて言うなら血筋と六条先輩のお陰かなあ」


 雫の手を取りながら笑えば心底から実力主義で努力家からして苛立つ物言いだったのだろう。思いっきり脇腹に肘を入れてきてそのまま足音も高く部屋を出ていくものだから慌てて後を追いかけた。本物のいわくつきの廃校で一人きりになんて札束を積まれたってなりたくない。まあ特に危険な場所じゃないと判断したから雫は置いて行ったのだろうけど。

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