第3話

 図書室の閉室時間が迫り、追い出された先輩と僕はグラウンドを通って宿舎に帰ろうとしていた。女子棟も男子棟も図書館から行けば同じような道を辿ることになる。今夜の夕飯はなんだろうかとすきっ腹を撫でていると、背中に衝撃が走った。思わず前に倒れこむように転びかけたが先輩がとっさに腕を掴んでくれたことでどうにかバランスを立て直すことができた。先ほどの衝撃は何だったのかと思えばなんてことはない。同期の歌井奏が背中に飛びついてきただけだった。


「めーたーりん!!!久しぶり!お帰り!元気してた!?」


 ぱああっと顔を明るくして癖っ毛の頭をぶんぶん振りながらこちらの肩を揺さぶってくる。元気が有り余っているこいつは今朝、今日は海潜る訓練だから疲れちゃうとかなんとか言っていなかっただろうか。


「ハイハイ元気元気。お前はどうだったの」

「俺も元気!いやあツンツンクールな目谷くんが俺の様子聞いてくれるとか情緒成長したね!おかあさんはうれしいわ……!」

「いつ僕はお前の息子になったの?カナリア頭」


 そんなやり取りをしている間に先輩は先輩で歌井の相方である咲野雫と会話している。先輩は僕たち同期の中で唯一女子で残っている雫を可愛がっている。どうしたって女の子が少なくなりがちなこの仕事で、しかも二人揃ってフィジカルが強いのも理由かもしれない。雫は一見したら伸ばした黒髪の綺麗な大和撫子に見えるから侮られることも多い。でもその侮られる容姿を大いに利用して成果をあげる効率主義で冷たいところがあるのが雫だった。

 なにせ僕たち特殊部隊は余程のことがない限りは奇怪な事件の捜査や異常性が強すぎて公開できない事件を捜査する。その効率主義は遺憾なく発揮されているのだ。


「奏も唯央もいつまでじゃれてるの?お腹すいたし早く食堂行きたいんだけど」


 ぐりぐりと頭を押し付けてくる奏に無抵抗なままぼんやり先輩と雫を眺めていたらそんなことを言われる。そっちだって先輩に懐いてにこにこ笑ってた癖に、と思わなくもないが近接格闘や逮捕術に長けた雫に空腹で疲れてる今締め上げられるのはごめんこうむりたかったので適当に謝りつつ雫と先輩の後ろについていくように歩き出した。

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