第13話

『撃ち落せ』

 心臓の奥で響く音色と重なって、鹿芝の脳内に響くノイズの声音。

「目標を視界に捉えた!人間だ!」

「極力傷つけず無力化しろ!殺しても構わないが可能なら生け捕りだ!女の方は口に咥えて連れ去れ!いいか、遺体に刻み目が残ると腐敗しやすくなる!傷をつけないよう注意を払え!」

 真正面の空から姿を現した、五体の怪物。風を裂くように宙を突き進み、そして鹿芝の立つ地面へと滑空を始めた、その直後だった。

 たきぎから上がった業火のごとく視界を塗り潰す、血液。胸部に開いた大穴を残し、空中で爆ぜる五つの肢体。それらと交錯した五本の斧が地面へと落下し、重い衝突音と共に足裏を伝う地盤を震動させる。

(駄目だ...見たら駄目だ...)

 フィアは自分の身体に念じていた。見てはいけない。見たら駄目だ。見たところで意味なんてない。華奢な自分の身体が、ここで直視した現実を飲み込めるような度胸を、動じない心臓と頭脳を持ち合わせているとは思えない。右に五本、左に五本ある指の全てで両目を覆うことが、今できる最大限の回避行動だった。

「おい、やられたぞ!」

狼狽うろたえるな!相手は獲物だ!そしてこちらが狩る側だ!その認識を強く持ち、ここで示せ!」

 逆方向から、横一列に並走して宙を突き抜けていく七体の怪物が、地上に佇む鹿芝の姿を視界の中央に収め、即時に散開する。

 鹿芝の足元に、七つの巨躯の影が落ち、円を描きながら鹿芝の周囲を駆け巡った。見上げると、怪物たちが鹿芝の頭上を包囲していた。

 直後、獰猛な眼差しを放ちながら、前後左右の四方から鋭利な爪の切っ先が鹿芝の肢体へ向かう。

「獲物は、お前らだよ」

 鎖が宙を駆け抜ける金属音を撒き散らしながら、怪物の身体四つの噴いた鮮血が心臓の脈動を体現するように舞って踊り、臓物の塊と一緒になって土の中へ潰れていく。

 同時に、上空から血の粒が落下する。鹿芝の頭上を囲う残り三体の喉元を貫く鎖、その凹凸おうとつに沿って首が骨の奥から膨れ上がる感覚。激痛に悶える声を吐き出すこともできずに口腔を血の熱と味で満たしながら、喉元と鎖の隙間から溢れ出る赤い液体の筋がその胸板をなぞる。

 血流の尾をなびかせながら鎖で括られた短剣が引き抜かれ、三体の怪物は地へ叩きつけられた。

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