2 後衛ばかりが凸るパーティ

7・ぬれるきのこ?!

「見て! 敵らしきもの発見」

 先方にはゴブリンと思しきものがうろうろしている。

 どうやら任意エンカウント式のようだ。

 ゲームでの戦闘には二種ある。

 任意とランダムだ。


「気づいたらこっちに来るのかな?」

と佳奈。

「たぶん、あの感じだとぶつからなきゃ戦闘に発展しないタイプじゃないかな? まだ様子を見ないことには分からないけれど」

「つまり合意の上でヤルか、無理矢理ヤられるかってことか?」

と和宏。

「え?」

「ヤられる前にヤレ! これ鉄則」

 そう言うと和宏はゴブリンに突撃した。


「ちょ……まっ」

 慌てて追いかける優人。それに続く佳奈。

「兄さん! なんで突っ込んでんの?! (後衛職でしょ?!)」

「気づかれる前なら、ワンチャンある」

と親指を立てる和宏。

「なんのワンチャン?!」

と佳奈。

「俺の使命を果たすため……ぐはッ」

 和宏は振り返ったゴブリンに、”何してるのよ、あなた(笑)”と言われんばかりに、ぽこんと殴られて気を失った。


「あああああああああ! お兄ちゃん! わたしのお兄ちゃんがああああ」

 発狂寸前の佳奈。

「……(そうなるわな(苦笑))」

 優人は笑い事じゃないなと思いつつも、聖職者かいふくがかりを失った状況を冷静に分析しようとする。

「優人! こうなったら、あなたが回復しなさい!」

と佳奈。

 剣士に回復しろとは無茶ぶりもはなはだしい。

 そんなの無理! と言おうとしたところで、佳奈は杖を両手で持ち上げ天に掲げた。


「女神が言っていたじゃない。この世界は『発想力こそが全て』だって」

(そこまでは言ってない(笑))

「厨二病舐めんじゃないわよ! この戦況をひっくり返してやるんだから!」

 まるでボス戦のような物言いだが、レベル1の初戦闘である。

 しかも、自爆。


 佳奈は優人の方に向き直ると、手に大剣を持っているのを確認し、

天上天下唯我独尊わたしさいきょう!!!!」

と唱える。

 きらりーんと空の一部が光った。

「全知全能の神よ。優人に回復の力を授け給え」

 目を閉じ、祈りを捧げる佳奈。

 すると優人の大剣に『天上天下唯我独尊』という文字が浮かび上がった。

「あとは任せたから」

とゴブリンに向かう佳奈。


「ちょ……まっ!(なにこの後衛ばかりが凸るパーティ!)」

「任せて! 魔法少女は肉体派なんだから!」

とどや顔の佳奈。

「お姉ちゃんは魔法使いでしょ!」

 叫ぶ優人の言葉は届かないのか、

「伸びろ! 魔法の杖!」

 次なる魔法を唱えている。

「……(その魔法の使い方、なんか間違ってない?!)」


 ヤレヤレとため息をつきながら、転がっている和宏の元へ近寄る優人。

 どうやら死んではいないようだ。

「さて、どうしたもんか」

 優人は顎に手をやり、思案する。

「回復の定番と言えば回復薬だけど。アオキノコと蜂蜜でいけるかな?」

 某ゲームを思い出し、

「とりあえず、きのこ召喚してみようか」

と大剣を両手で刃先を下に向け持ち上げる。

 さらに、

「いでよ! きのこ」

と唱えながら地面に大剣を突き立てた。

 するとぽこんときのこが地面から飛び出してくる。


「お! おおおう?……これはアオキノコじゃなくて1UPきのこ?」

 どこぞのブラザーズが活躍するゲームに出てくるあのキノコにそっくりの見た目だ。

「あれってタッチして吸収される感じだけれど、効くのかな?」

 優人は訝しがりながら、和宏の口に突っ込んでみる。


「うぐぐ」

 息苦しかったのか、和宏の意識が戻ったようだ。

「ちょ、何しているんだ。優人」

「兄さんが気絶しているから、俺のキノコを口に突っ込んでみたところ」

「俺の?!」

 驚く彼。無理もない。

「そんな破廉恥なことはやめろ!」

「兄さんは俺のキノコが食べられないというの? あ、ごめん。これ食用じゃないかも。塗れるかどうか試してみてもいい? 先っちょだけでいいから」

「先っちょが濡れる?! 何言ってんだ! やめろ優人! 変態!」

「ね、ちょっとだけ」

「いやあああああああああ!」

 なにかを勘違いした和宏の悲鳴がダンジョン内に響き渡ったのだった。

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