6・兄、たんぱく宣言?

「兄さんは俺より先に行っちゃだめだよ?」

 ステータスを確認した優人と佳奈はどうやら、和宏のHPを心配しているようだ。

「先にイクな、と?」

 だが、和宏はその言葉に困惑していた。


──優人が早漏か遅漏かわからない以上、そんなことを言われても困るぞ?


「約束はできない」

「なんで?!」

と驚く優人。

「俺は早いからな」

 ドヤ顔で言う兄に、

「いや、でも……聖職者は後尾でしょ?」

と佳奈。

「そうだ、生殖者は交尾だ」

と和宏。

「それなのに先に行く気?」

と優人。


「俺は早いので先にイク。もしかしたら、後からイクかもしれないが」

「は?」

 和宏の発言に”ちょっと何言ってるのか分からないんですけど?”という顔をする優人。

 見かねた佳奈は二人のやり取りをスルーし、パーティステータスを開ける。


パーティ名:女神から派遣された人々

パーティレベル1

パーティリーダー:雛本和宏

特殊技:社畜の魂


「パーティ名!」

 ステータスを確認した佳奈がムンクの叫びのような顔をした。

 それを覗き込み、

「派遣社員ってことかな?」

と優人。

 隣で見ていた和宏は、

「俺たち社畜?」

と首をかしげる。

「不安しかないけれど、とりあえずダンジョンに行ってみようよ」

 提案したのは優人である。

 行ってみないことには何が起きるかわからない。


 そんなわけで三人は、執事にゲートを開けてもらうことにしたが……。

「open the pigeons gate!(開きなさい 鳩ゲート)」


──待て。その青い鳥は……俺たちどこに向かうんだ?!


 執事が両手を空にかざすと、青い鳥が出現。

 掛け声と共に鳥が縦半分に割れ、左右に開く。

「どこかで見たことのあるようなマークだけれど」

 優人は背中に大剣があることを確認すると、躊躇ためらいなく入っていく。

 さすがゲーマー。怖いもの知らずだ。

「きっと気のせい」

 腕が鳴るわね! と言いながら杖を両手で握り締め、その後に続く佳奈。

「これって、あれじゃ?」

と言いながら、こわごわ中に入る和宏。


「ところで兄さん、武器は?」

 武器を持っていない和宏に気付いた優人がそちらを見ながら。

「俺の使命は種まき。そんなものは要らない」

と、優人の質問に親指を立てる和宏。

「種まき? (回復のことかな)」

「そう、種。けれども一度にたくさんは撒けない」

 心なしか和宏は肩を落として。


「でも、マラー的なものでみんなに撒けるでしょ? (パーティを一度に回復出来るよね?)」

と優人。

「マラ? みんなに?! 俺は人間だぞ?」

 何故か優人の言葉に驚愕する和宏。

「お前は撒けるのか?」

 年齢の違いだろうかと焦りを感じる和宏に、

「俺は剣士だから、無理だと思うけど」

と優人。


「剣士とか関係ないだろ? 俺はそんなマシンガンみたいに連射は無理だ」

「うーん。パラメータがあがれば、ある程度は速くなるんじゃないの? (詠唱時間短縮とか)」

 優人が唸る隣で、

「無理だろ。そんなに俺は若くない」

と言い出す和宏。

「年齢関係ある?!」

と驚く優人。


 今まで遊んだゲームでも年齢が反映されるのは、生活シミュレーションゲームくらいだ。ロールプレイングゲームや戦闘するシミュレーションRPGで年齢により衰え、詠唱速度が落ちるゲームなんてやったことがない。

 何を言っているんだ兄さんはと思いつつ、佳奈に視線を移せば何か考え事をしているように見えた。


「どうしたの? お姉ちゃん」

「いえね。MPとかSPがあるということは、使ったら減るわけでしょ? 先に宿屋とかを誘致したほうがいいんじゃないのかな? って思って」

 優人は話を聞いて、確かに一理あるなと思ったのだが。

「そう言えば優人のSとMはどれくらいなんだ?」

と和宏。

「SとM?(普通、そんな言い方する?!)80と100だけど?」

「なああああにいいいい?!」


──ドSでドM?!

 お兄ちゃんは優人をそんな子に育てた覚えはありません!

 クソ! 平田の奴だな。


 優人の友人、平田は理不尽に和宏から恨みを買ったのだった。

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