2・更地をパイチと呼ばないで!

「パイパンだな」

と兄和宏。

「パイパンだね」

と弟優人。

「更地をパイパン言わない!」

 目の前には雑草一つ生えていない更地がどこまでも広がっている。


「その佳奈の言う、パイノベとやらはこんな更地が舞台なのか?」

 兄の脳内では既に、ラノベ=パイパン小説ノベルの図式が出来上がっていた。

「俺はファンタジーを舞台としたゲームをプレイしたことはあるけれど、こういうのは稀だね。拠点作ったりとか、そんな場所……にしては広いね」

 どこまでもひたすら更地である。

 人っ子ひとりいる気配がない。

「人を探さないとな」

 どう見ても誰かがいるようには見えないが。

 三人はきょろきょろと辺りを見渡す。


「誰もいないね」

と佳奈。

「留守なのかな……って、どうかした?」

 優人はもぞもぞする和宏を見ながら。

「いや、マシュマロホイップの感触が、まだ背中に」

 先ほどこちらの世界へ転送される際自称女神に、やたらグイグイ押されたのである。

「あー、女神の。兄さんはああいうの好きなの?」

と優人。

 俺もぽよよんな感触が残っていると言いながら。

 和宏は『俺の大事な弟に破廉恥なことをしくさりおって』と手でグーを作り、決断力のポーズをしながらも、

「俺は貧乳が好きなんだ。ああいうのはちょっと」

 目を泳がせた。

 

──どうもナイスバディ子は苦手だ。

 

 そんなことを思っていると、何故か突然佳奈が胸を両手で塞ぎ、

「えええええええ! どうしよう」

と絶叫した。

 どうもこもない!

「どうした。落とし物か?」

と和宏。

「だって、お兄ちゃん貧乳が好きなんでしょ? わたし貧乳じゃない!」

 佳奈はムンクのような顔をしながら。

 それを聞いていた優人は、

「……(お姉ちゃんは、兄さんとどうなりたいんだ?)」

と口を挟まない意向を固める。


「減らした方が良いかな?」

と佳奈。

「そんなことを聞かれても」

 和宏は困惑気味だ。

「後悔しない人生を選べとしか……」

 段々話が壮大になっている。

「……(どういうこと?!)」

 優人は吹きそうになっが、何とか気合で耐えた。


 と、そこへ人影が。


 話を変えるチャンスとばかりに、

「お、第一村人発見!」

と声を発する優人。

「村? ここは村なのか?」

 和宏が問う。

 そこはスルーすべきじゃないのか?

第一更地人だいいいちさらちびととか言わないでしょ? 聞いたことないよ」

「第一パイパン人」

「なにそれ、どこかの国の人みたいになっているじゃないの」

と佳奈。


「そこのお前たち。どこから来た?」

 いつの間にか、第一更地人だいいいちさらちびとが近くに腕組みをし立っている。白い上下の空気の入ったようなふわっとした服を着ており、フードを被っていた。

 どう見ても少年。だが態度は尊大。


「自称女神に『魔王の手伝いをしろ』と言われて(和宏)」

「自由に魔法が使えると聞いて……byカナ」

「俺は兄姉が心配で。優人です」


 三人が雑な説明をすると、何かを察した彼がため息をついた。

 そして、

「我が魔王だ」

と親指を立てる。


「ええええええええ!」

 絶叫したのは、佳奈。

「ちょっとこのパイパン状態はどういうことです? 確か魔王城を取り返せと」

と辺りを見渡しながら優人。

「しいいいいいいい!」

 魔王は慌てた。

「実はな、それは小さくいったのだ。実は……」


 事の発端は魔王に届いた一通のメッセージ。

 そこには、

『お荷物を預かっております』

という文句とどこぞかへのリンク先があったらしい。


「踏んだの? そのリンク」

と優人。

「踏んだ」

「それ、詐欺じゃ……」

 魔王は架空請求に引っかかり、世界丸ごと持っていかれたらしい。

「持ってかれたああああああああ!」

 

「裁判とかできないの?」

と佳奈。

「この状況で、裁判などする奴はおらんだろう」

 何故なら住民すらいないのだから。

「土地建物が軒並み持っていかれて、パイパンになったのは理解したけれど。住民は?」

と和宏。


「それがなあ……世界の欠片というダンジョンの中に散り散りになってしまったようなんだ」

「じゃあ、魔王さん一人だけ?」

と佳奈。

「いや、執事がいる」

 その時、背後の空間が歪み出した。

 これから彼らはどうなってしまうのか?

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