1・ラノベとは何のことだ? つまりこれだろ。

「お兄ちゃん、これってあれじゃないの? ラノベでよく見る……」

 妹の佳奈が自称女神と白い部屋を見比べて、ラノベがどうのとか言い出したはいいが和宏は”ラノベが何か?”を知らなかった。

「ラノベっていうのは、ライトノベルの略でね」

 和宏は文学小説しか読まない。

 弟の優人はゲームばかりしているので小説は読まない。

「ライトノベル? 光るの?」

と優人。


──光る? ツルピカ? つまり禿げ……パイパン?!


「分かったぞ、優人。パイパン小説だ!」

「なにそれ。どんなジャンルなの?」

 あまりにもピンポイント過ぎる!


「何よ、パイパン小説って!」

と佳奈。

 こっちが知りたい。

「パイパンノベル。略してパイノベ」

「もうラノベじゃないし、パイの実みたいな発音で言うのはやめてよ」

 和宏はどや顔をして説明をしたが、どうやら佳奈はご立腹のようである。


「ライト、ライトかつまり右? 右翼小説?」

と優人。

「それはジャンルなのか?」

と和宏。

「仁義とかそういう感じなんじゃない? 右翼とか言っちゃうと世間的にも問題があるしね!」

「なるほど」

 全然なるほどではない。


「そんなの中学生が読むわけないでしょ!」

と佳奈。

「読まないとも言い切れない」

と優人。

「ま、まあそうかも知れないけれど、ライトなの。軽いの!」

 佳奈は頑張って説明してくれているようだが、何が何やらである。

「どれくらい? 軽さは」

「何、どれくらいって」

 優人の質問に佳奈は困惑していた。

「0.1ミリとか……」

「タバコじゃないの!」

 佳奈は激おこなようである。


「中学生だろう? タバコはだめだと思うんだ。ほら、血液が逆流するし、肺は黒くなるしね」

と和宏が言うと、

「兄さんはやはりピンクが良いの?」

と聞かれる。

「そりゃまあ、黒いよりはピンクの方が……なあ?」

 既になんの話か分からない。


「ちょっと。ジャパニーズピーポー?」

 置いてけぼりの自称女神が、無理矢理三人の間に身体をねじ込んできた。

 非常に理性に悪い。

「ワタシ、ジャパン大好きね。いっぱい知ってる。フジヤマー。ワサビ。ジャニーズ、電気街、腐女子、コミケ。楽しい、いっぱいねー!」


──なんか後ろの方、おかしくないか?


「ところで、アナタタチに頼みある」

「タチと言えばタチだが。時と場合にもよるな」

「ちょっと兄さん、何言ってるの?」

と優人。

 なかなか話が進まない。

「ワタシのダーリン助けて。株で負けてお家取られた!」

 

 自称女神曰く、彼氏は魔王なのだが女神と恋人同士になったため、全世界を治めていたという。しかし株で負け膨大な借金を作ってしまい、城を差し押さえられたというのだ。それを取り返して欲しいと。


 どうやら自分たちは想定外の死により異世界転生……と言う名目でここに呼ばれたらしいが、本当の理由は後日明かされることとなる。女神の趣味と共に。


 これから行く世界は、unlimited freedom無限の自由という名の自由発想の世界。発想こそが自分の力になるらしい。

 その力を持って、魔王の手助けをして欲しいというのである。


「わたし魔法使いになりたい!」

と佳奈。

「OK」

 自称女神が天に両手をかざすと、魔法の杖が現れた。


「俺はまず体験を先に……」

と優人。

「任せて」

 自称女神は指を鳴す。

 体験できるフィールドでも出現するのかと思いきや、ドンっと大きな音がして地面に大剣が突き刺さったのである。

「え?」

 一瞬困惑したようだが、順応性の高い彼は大剣を引き抜くと一振りした。

「まあいいか」

 どんな腕力の持ち主だよとツッコミたくなるほど、片手でくるくると振り回している。

「優人、カッコいい!」

 佳奈が喜んでいるようだ。


「アナタは……剣士と魔法使いだから、セイショクシャがいいね」

「セイショクシャ?」

 和宏はゲームをやったことがなかったので、いまいちどんな職業か想像がつかなかった。

「やること一つ。難しくない」

「ヤる?」


──つまり生殖者?

 種付け係?


 こうして三人はunlimited freedom無限の自由という世界へ送り込まれたのだった。

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