宇宙人……とは少し違うが、外宇宙に生息するの噂は、この時代になっても絶えず飛び込んでくる。

 この空に広がる天が崩れて落ちてしまうのではないか……そんな心配事は、あながち杞憂とも言いきれないのかもしれない。

「こいつらも、蟻っぽく見えて実は全然蟻じゃないなにか、もっとおぞましい存在かもしれないだろ」

「いやどう見ても蟻じゃん。それともなんか見分け方でもあんの?」

 首を傾げる幼馴染に、俺は言う。

「強いて言うなら臭いが違う。嗅いでみろ」

「なんか焦げ臭いけど、ちゃんと虫の臭いがするぜ」

 ビンゴだ。

「蟻は一般的に酸っぱい臭いがするはずだ。しかしその手の化け物からは、決まって焼けたカブトムシみたいな臭いがする」

 先程まで蟻の群れに顔を近づけていた幼馴染は、急に飛び退いて黒い群体から距離を取った。

 言葉にできないよくないものが、この村には蔓延っている。

 見張りの臭いを嗅がかなかったのは痛手だが……そんな余裕はなかった。

 と、大事なことを思い出す。

「そういえば、お前が巻き込まれそうになった祭りってどんななんだ?」

 カクタレ祭りなのだろうが、情報は多い方がいい。

「え? ああ……なんか変な塊を見せられて、これを料理して食うって言われたんだよ。……あんなの絶対食いたくねえ」

 恐ろしい記憶を思い返し、怯えながらも彼は言う。

「でもさあ、そのことを誰も不思議に思わねえんだよ。あと四人集まったら始めるって言うから、その前に逃げねえとって思って……」

 あと四人?

 俺と先生と、さっきの観光客二人。これでちょうど四人だ。

「いかんな……」

「門が閉じたのも、そういうことなんでしょうか」

「ありえるな。これは非常によくない」

 前提を共有できていないバカがぼやく。

「えー……なんの話?」

「残りの四人が揃ったって話だ」

「え? あー……確かに五人も増えてるな」

「お前を二回数えるな」

 ここで算数の授業をしていても仕方がない。もっとやるべきことがある。

「見ろ。集会所に人が集まってる」

 先生の言う通り、壊れかけの集会所に向かって村人が行列を作っている。その中には……先程の観光客も居た。これは、まさか。

「あの村人、元はここに来た行方不明の人なんじゃないですか?」

「外部から人を集めている、ということか? それなら確かに祭りの内容とも一致するが……」

「とりあえず見に行ってみようぜ」

 急に歩き出す幼馴染に呆れながら、俺達は集会場へと忍び込んだ。隠れる場所は……トイレがいいだろう。外に入り口があり、壁のあちこちに空いた隙間から中を覗き込める。

 この手の不潔な場所には様々な不快害虫が蔓延っていそうなものだが、ここにはコバエの一匹すらいなかった。

 ありがたい話だが、かえって不気味でもある。

 小さな穴から中を覗くと、住民が続々と集まっているところだった。

「あら~瀬里さん、お久しぶりです~」

「こちらこそ。お変わりありませんか?」

「お陰様で」

 洗脳された行方不明者だと思われた人々は、ごく自然に、和気藹々と話している。まるで、昔からの知り合いのように。

「あら、長谷川さんがいらっしゃらないですね」

 先程やってきたはずの観光客が、辺りを見回しながらそう言った。

「あらほんと。どこ行ってしまったのかしら。あなた知らない?」

 小柄な女性が訊ねると、背の高い男性が入り口に目をやる。

「そういえば確かに居ないなあ。一体どこに行ったんだろう」

 ここに居ないらしい "長谷川さん" なる人物を、彼らは執拗に探し始めた。ある者は集会場を出て、ある者は押し入れを覗き、またある者は――

「あら、長谷川さん家の坊やじゃない。あんなところにいらしたのね」

 こちらを見て、そう言った。

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