第3話 俺とコイツの土曜日はピアノの音と消えていく。
土曜日がやってきた。
朝から学校の机に突っ伏していると、
「おはよう、
なぜか嬉しそうに話しかけてくる。
「あぁ、亮か」
「もう、そっけないなー。どうしたんだよ、
こいつはやけに鋭いところがあるな、ほんとに。
「まぁそんな感じだ。それより何でそんな嬉しそうなんだ。何かいいことでもあったのか」
「いやいや、秋が落ち込んでるのを見るとウキウキしてくるんだよ」
他人の不幸は蜜の味とはまさにこのことだな。
「そういえば、浅野さん今日は学校来てないな」
「ピアノの発表会?みたいなのがあるらしいぞ」
「あの容姿でピアノまでできるのか。流石超人だ」
「いやぁ、自分の彼女を褒められると嬉しくなるはずなんだけどなぁ…」
俺は初デートを楽しみにしていたがために割と落ち込んでいる。
「秋君や。何があったか詳しく話してくれるかい」
「なるほどな。そりゃこんだけ萎えるわ」
一部始終を話すと、亮も同情してくれたようだ。
「午後もすることが無いんだよなぁ」
「それなら、その発表会に言っちゃえば?」
「あ、その手があったか。ちょっと確認してみる」
俺はLINE画面を開き、浅野に連絡をする。
Aki 『ピアノの発表会って見に行けたりする?』 8:58
冬華『行ける』 8:59
Aki 『じゃあ見に行く!』8:59
冬華『了解』8:59
そっけないメッセージで承諾を得たところで、1限の開始を告げるチャイムが鳴った。
放課後。俺は学校の最寄駅から1駅離れた駅に到着した。駅の近くの大きなホールが目的地だ。
ホールの前に到着した。入口の門には「第77回東日本高校生ピアノコンクール」と書かれた看板が立てかけられていた。どうやら浅野のピアノレベルはかなり高いらしい。
俺がホールへ入ると係員の人に3階の席へ行くよう指示された。
どうやら、1、2階は満席らしい。
重厚な扉を開け、中へ入るとピアノの奏でる美しいメロディが耳に届いた。
どこかで聞いたクラシックに小耳を傾けながら、入り口でもらったパンフレットを確認する。今演奏している人の2人後が浅野らしい。ショパンの「12の練習曲 Op.25 第12番『大洋』」という曲をやるらしい。調べてみるとかなり難易度の高い曲であった。
心地よいメロディーを聞いていると時間はすぐに過ぎるもので、浅野の名前が放送で紹介される。
浅野が入場してきた。
その姿はとても美しかった。
身にまとったドレスが容姿端麗な彼女とうまくかみ合っていて思わず見惚れてしまう。
そして、椅子に座る。
浅野が鍵盤に手を置いた瞬間、ホール全体が静寂に包まれたような気がした。
演奏が始まった。とても速い指使いで織りなされる、波のようなメロディに心が現れるような感覚を覚えた。その後も演奏を続け、最後の音を浅野が引いた後、会場は拍手に包まれた。
浅野の演奏は一瞬のような気もしたが、長い間聞き続けていたような気もした。
浅野の演奏を聞き終え、ホールから出た。
浅野はどうやらまだ夜まで帰れないそうなので、俺は帰路に就く。
電車に揺られながら彼女へ賞賛のメッセージを送った。
俺と浅野の土曜日は終わった。
本来の目的などとうに忘れていた。
それほどまでに、魅入られた。
浅野冬華という一人の女性に。彼女が織りなすメロディーに。
俺と浅野の距離感は変わりはしなかったが大きなものは得られた気がした。
Aki 『ピアノやばかった』 16:48
Aki 『語彙力なくなるほんとに』 16:48
Aki 『お疲れ様』 16:48
冬華『ありがと。そう言ってももらえて嬉しい。』 21:07
俺とコイツのラブコメはいつまでたっても始まらない。 いと @ito_3830
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