第5話 知識

 城内に戻った俺は、案内役のメイドさんから貰った地図を元に、城の図書館へ向かっていた。王城の図書館は王国で最も大きいらしいので、前世から読書家だった俺はウキウキ気分だ。ちなみに一般市民も自由に出入りできるらしい。


 とはいえ、ただ本を読みたいから行くんじゃない。これもまた、情報収集の一環だ。まあ面白そうな本があったら読むけど。


 俺たちはこの世界について知らないことが多すぎる。なのでとりあえずこの世界の地理や歴史、ついでに魔法なんかを先に学んでしまおうという訳だ。


 王国が行う異世界人の訓練にも座学があるらしいが、戦争への急ぎようからして、魔法や戦闘技術以外の分野は最低限しかやらない可能性が高い。


 そんな考え事をしている間に図書館に到着したが、やはりデカい。俺の住んでいた市で最も大きい図書館と比較しても余裕でこっちの方が大きい。これは本を探すのに苦労しそうだな。


 とりあえず司書さんに手頃な地理書を選んでもらい、椅子に座って読み始める。表紙から全く見た事のない字で書かれているが、【言語理解】のおかげで容易に理解出来る。少し複雑な気分ではあるが。


 さてさて、【思考加速】っと。


 そうすると世界がスローモーションになる......が周りに人が居ないのであまり実感がない。


 というか、スキルを使用してから気づいたが、これ本のページを捲るのにも100倍の時間がかかるな。ということで、一度解除し、最初のページを開いてから再度使用する。


 このペースで行くと、この分厚いページ数分スキルの使用と解除を繰り返すことになるのだが......流石にめんどくさいな。


 ということで、別の方法を考えること3秒(5分)、一応解決策は思いついた。


 スキルを解除した俺は、本をパラパラ漫画のように何度か捲って感覚を掴む。大体このくらいか。


 掴んだ感覚の通り本を捲り始めたその瞬間、俺は【思考加速】を使用する。俺の視界の中では本が非常にゆっくりと捲られていく。こうすれば一々スキルを解除せずに本を読める。少々読みづらくはあるが。


 捲られていく本の中の知識を隅から隅まで頭に入れていく。俺はこう見えて暗記は得意な方だ。高校の定期テストや模試では常に上位10番以内に入っていた。


 見開き1ページにつき1分程度のスピードで読み進めていく。約2時間ほどかけて、とりあえず1冊目の本を読み終わった。計算通りだと、現実世界では1分強くらいしか時間が経っていない。


 やはり学習面ではかなり便利なスキルだな。ほとんど時間をかけずに知識を習得できる。実質知識チートといっても過言じゃないかもしれない。


 ただ、いくら俺が勉強が得意とはいえ1周読んだだけですべての知識を暗記するのはまず不可能だ。適度に睡眠や休憩を挟みつつ、最低でも2周、できれば3周以上したいな。


 実際の時間では5分もかからないので、一見楽そうに見えるが、体感時間は1冊につき6時間以上。何が言いたいのかというと、脳とメンタルが滅茶苦茶疲れる。集中力めっちゃ使うんだよなあ。基本的に夜寝る前に読んで、朝起きてから復習するサイクルにしよう。読む冊数はその日の疲れ具合次第ということで。


 というかこのスキル、【思考加速】という名前だが、実際には思考だけでなく意識を使う活動全ての時間を短縮できるようだ。意識強化とか意識時間増加の方が名前としては正しい。まあ【思考加速】の方がかっこいいけどな。


 それにしても、司書さんからしたら不自然で仕方ないだろうな。図書館に入って数分で帰っていく奴がどこにいるんだって話だ。本を借りれるなら借りて自室で読んだ方が良いかもしれない。


 結局その日はもう1冊歴史書を読んでから夕食をとって寝た。こうして俺の異世界生活初日は、特に大きなこともなく本を読んで終わったのだった。




 


 

 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る